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笑菓  作者: 千葉焼き豆
追撃
28/43

二十八話 信頼

 御者台にアレックスと2人で座る。

 狙撃騒ぎで足止めを食らったので、行けるとこまで夜通し走る事にした。

 今夜はちょうど満月なので、道がかろうじて見える。


 購入したばかりの馬には「ベル」と名前を付けた。

 アレックスは呆れ顔をしていたけど、同じ旅をする仲間だ。

 たとえ悲しい別れが待っていたとしても、名前で呼んであげたい。


 荷台にいるユーリの様子を見に行くと、既に熟睡していた。

 今日は色んなことがあり過ぎた、心身共に疲れていたのだろう。

 ユーリの頭を一撫でして御者台に戻る。

「どうだった?」

 手綱を握るアレックスが顔を向けてきた。

「寝てるよ」

 2人で並んで座り、流れて行く夜の風景を眺める。

 アレックスと過ごす有り触れたいつもの時間。

 私はこのひと時がたまらなく好きだ。

 ただ黙っていても心の奥底で繋がっている気がして、満たされる。


「久し振りに2人っきりだな」

 唐突にアレックスが話しかけてきた。

 ・・・まさか、いやらしいこと考えてんのか?

 いや、でも手綱を握ってるのはアレックスだ。何も出来ないはず。


 顔を伺う。

 何時もより少しだけ真剣な顔をしていた。


「・・・何?」

 雰囲気でわかる、多分重要な話だ。


「結論から言うとだな、ユーリとショーシャは信用出来ない」

「・・・そう」

 なるほど、私に言えないというか、ユーリがいたんじゃ話せない事だったか。


 しかしユーリとショーシャさんが信用できない、てのはちょっと・・・

 今までも依頼主に騙された事は何度かあった。そんな時は大概何かしらの前兆がある。

 ショーシャさんやユーリからは、そんな雰囲気を感じ取る事は出来なかった。


 まぁ、ショーシャさんが信用出来ない、てのはわからないでもない。

 何処かの馬鹿が期限を一週間とか言いやがって、充分な事前調査が出来なかった。

 アレックスもあの時はどうかしてたと自覚はあるようで、反省しているし何で動揺したのか不思議がっていた。


 でも・・・ユーリが?・・・

「理由を話してよ」

 そこを話してくれなくちゃ理解も納得も出来ない。

「どうやら俺達は相当な厄介ごとに巻き込まれちまったらしい」

 いや、もう充分に巻き込まれてると思うんですけど・・・

「後、感動の別れをしておいて申し訳ないんだが、ナイツは自分の部下と合流したら、すぐに俺達の元へ駆け付ける予定だ」

「え、それって気不味い・・・」

 そういう予定ならナっちゃんもあっさりと別れてくれればいいのに・・・意外と演技派なのね・・・


 でも信じられないな、

「ユーリが怪しいってナっちゃんは納得してくれたの?」

「納得・・・というよりナイツの情報提供で信用出来ないって結論に至ったんだよ」

「え・・・」


 一緒にいる時、そして別れ際にもナっちゃんはユーリを気にしていた。

 自分のしてしまった事や立場に苛まれて苦悩する顔も見た。

 ・・・それなのに・・・到底信じられない。

「ねぇアレックス、もしかして・・・」

「俺がナイツの色香に負けたと思ってんなら見当違いだぞ、そんなの跳ね除けられなければ、今頃俺は生きちゃいまい。「女は抱かせても抱かれるな」基本中の基本だ」

「別にそこまで言ってないし・・・」

 何を偉そうに言ってんだか。

「それと他の女に手ぇ出したらち○こ引きちぎってやるから」

「あ、はい・・・」

 話が逸れてしまった。

「で、ナっちゃんが合流したらどうするの?」

「ユーリに気付かれないように俺達を尾行してもらう。で、いざって時には助けてくれるって寸法さ」

 なんかアイソセレスに尾行されていた時と、状況が似ているな。

 ただ、大きく違うのは向こうが味方だって事だ。


 まぁ今後の動きは大体わかった。

 でも、一番肝心なところを聞いていない。


「それでユーリとショーシャさんが信用出来ない根拠は?ナっちゃんは何を話したの?」

「・・・それは・・・説明が難しいな・・・」

 アレックスはそう言って黙ってしまった。


 私に話せない何かがある。

 ってことか。


 四年間ずっとこいつだけを見てきた。

 それに何でも打ち明けたし、打ち明けられた。

 それなのに言えないのならば、可能性は一つしかない。


「あんたの過去と何か関係してるの?」

「・・・」


 アレックスが昔何処かの諜報機関に勤めていた事は知っている。

 ただ、具体的な所属名や、どんな活動をしていたのかまでは聞いた事が無かった。

 こいつも私の過去については詮索しなかったし、私だってアレックスの過去なんて興味無いから聞いた事など一度も無い。


 席を立ち顔を近付ける。

「な、なんだよ」

「言いたくないの?」

「別に話さないとは言ってないだろ。ただ今じゃない・・・と思う」

「あっそ。じゃあ後でいいよ」

 顔を離し座り直す。

「意外とあっけないな!」

「アレックスが必要ないって言うなら、その言葉を信じるだけだよ」

 だって、

「私達ってそういう関係でしよ?」


 もう前みたいに曖昧な存在じゃない。

 「私達の人生」になったんだ。

 アレックス以上に信じられる存在なんてこの世にいない。


「・・・そうか、そうだよな」

 アレックスは納得したのか、満足気な顔で頷いた。

「必ず後で全部話すよ。その・・・なんだ、ごめんな」

「ごめん?違うよね?」

 横目で睨む。

「・・・ありがとう、パラに惚れて良かった」


 確かに気にはなる。

 あの優しくて誠実なユーリが怪しいなんて信じたくない。

 アレックスはナっちゃんから何を聞いたのか、そして過去とどんな関係があるのか。


 でも不思議と不安は無い。

 多分それは、2人の関係が変わったからなんだろう。

 どんな事があってもこの人は私を大切にしてくれる、決して裏切らない無償の愛。

 なんだろう、何故か懐かしい気持ちになった。


 あ、思い出した。この気持ちは・・・

「家族、なのかな」

「なんか言ったか?」

「・・・なんでもない」

 本当は聞こえているくせに。




 その後の一週間は何事もなく過ぎていった。

 幾つかの小国を抜け、バーレル街道に戻る。

 レッドロックの襲撃も無ければ、アイソセレスの動きも無い。

 今頃ナっちゃん達は何処にいるのだろうか。

 もし合流したとしても、私達に直接会う事はできない。ユーリを警戒しなければならないからだ。


 そのユーリは特に変わった様子もなく、いつも通りだ。

 真面目で優しくて可愛い男の子。

 彼の何が怪しいのか、全くわからない。

 でも、アレックスが信用できないと言っていたんだ、何かあるのだろう。




 今日、バーレル街道を抜けシアー街道を目指す。


 シュタイアーを出発してから半年。

 最終目的地である廃村はもう目の前だ。

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