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笑菓  作者: 千葉焼き豆
追撃
25/43

二十五話 決着

 マジかよ・・・

 ここに来てそういう展開な訳?


 溜息をついて手を上げ、ナイツの顔を正面から見る。

「もう少しで仲間になってくれると思ったんだけどな」

「今でもそのつもりだ」

 銃を向けながら言われても・・・

「私は助けたいんだ。アイソセレスを、ウジールを、それにお前達も」

 何言ってんだ?

「その為には全てを知る必要がある。お前なら知っているはずだ」

「何を?」


 少しの沈黙の後、ナイツはゆっくりと口を開いた。


「・・・お前は何者だ」

 何者って、

「只の雇われ諜報員だが」

「・・・」


 ナイツはあまり表情豊かな方ではない。

 だが、今まで以上の無表情でこちらを見る。


「・・・安全装置」

「は?」

 何だいきなり。

「捕らえられた時、我々から奪った銃の安全装置は全て解除されていた」


 俺達が普段使っている銃には、殆ど安全装置が付いていない。

 だからシリンダーの一部に弾を入れないで携帯したり、雷管を外して使う直前に装着したりする。

 でも、フォーサイスから奪ったライフル銃には全て安全装置が付いていた。


 ・・・あ、

「あの時、お前が手にした銃だけ安全装置がかかっていた。何故安全装置の存在や、かけ方を知っていた?」

 ・・・無意識にやっちまってたのか。

「それだけじゃない。「ダン上等兵」の同僚や上官に聴き取りをして似顔絵を描いたが、その何れもが違う顔だった」

「?!」


 そんな筈・・・あり得ない。

 いや、あってはならない。


「お前は何者だ?」

「・・・」


 言うべきか。

 でも・・・


「全てを話してくれ!ユーリ フォーサイスやファブリックの事も全て知っているんだろう?!」

「ユーリ?・・・ファブリックの事?」

 俺の正体とユーリやファブリックがどう繋がってる?


「お願いだ・・・私の部下を・・・みんなを助けたいんだ」


 ナイツの頬を雫となった涙が伝う。


 彼女は何を見た?何を知ってしまった?

 俺の正体を話すのは別に構わない、まぁ信じてもらえるとは思えないが。

 でもユーリとファブリックの何を知りたいのか、それが気になる。


「わかった、話すよ。でもその前にユーリとファブリックの事で何を知っているのか教えてくれ」


 ナイツは顔を歪める。

 彼女の瞳に映る感情は・・・恐怖だ。

 心が恐怖に支配されている。


「昨日の晩だ、ユーリが私に囁いた」

 あれか・・・。

「ファブリックの事を思い出せと、奴の過去、初めて会ったのはいつだったか・・・」

 そんな事ユーリが言ったのか?

「・・・思い出せないんだ・・・」

「・・・なんだって?」

「就任式はいつ行われた?どんな経歴だった?初めて会ったのはいつだった?・・・何も思い出せない!」

 そう言って子供のように泣きじゃくる。

「一体何が起きてるんだ!私にはわからない!ユーリは何故そんな事を言ったんだ!何故ファブリックの記憶が私の中に無いんだ!」


 そんな馬鹿な・・・

 

 その理由を、多分俺は知っている。

 

 あってはならない事が、あってしまった。


 間違いない。

 ファブリックは俺と同類だ。

 ・・・多分ユーリも。

 そう考えれば俺の似顔絵が違う顔になったのも説明がつく。


 フォーサイスでの事件、ウジールの動き、そしてユーリ救出の依頼。

 何層にもなって絡まる出来事と思っていたが、そうじゃない。


 全ては一つの事件だったんだ。

 そしてその中心にいるのが・・・


 ファブリック、奴が首謀者だ。


 フザケンナよ・・・あいつら何やってんだ!


 既にナイツは銃を下ろしていた。

 涙で濡れた顔は虚ろになり、俺を呆然と眺めている。

「もうたくさんだ・・・私にとって部隊は家族なんだぞ。それが・・・フォーサイスから全て狂ってしまった・・・」


 諦めと絶望。

 だが、それでも部下を助けたいと願う想い。

 全てがないまぜになってナイツを壊している。

「・・・私達を・・・助けて」


 初めて見せるひ弱な態度に、俺は戸惑いを隠せない。


 アイソセレスの噂は色々な所で耳にしていた。

 敵国の要人暗殺、人質救出作戦、サボタージュに情報操作、冷静で正確な作戦行動。

 一度だけ仕事を手伝った時もその恐ろしさを実感し、こいつらだけは敵に回したく無いと思った。


 そんなアイソセレスの隊長が、涙を流して俺に助けを求めている。


 戦争というのは情報との戦いでもある。

 誰よりもその事を理解する彼女にとって、今の状況は耐え難い恐怖なんだ。


「あんたを助けられるかどうかはわからない。でも、今から話すことは、全てじゃ無いにしろ聞きたがっていた答えになると思う」

 ナイツの顔に感情が戻ってくる。

「本当か?」

「但し、条件が三つある」

 こうなった以上、是が非でもナイツには協力してもらわなければならない。

「一つ目、俺がこれから話す事は、かなり荒唐無稽だ。だが信じて欲しい」

「・・・わかった、信じよう」

 口ではなんとでも言えるが、実際はどうだろうな・・・

「二つ目、聞いた後は必ず俺の仲間になってくれ」

「それは、話を聞いてからでないとわからないが・・・そうだな、それが皆を助けることになるなら喜んで仲間になろう」

 なら大丈夫だな。

「三つ目、話した内容は絶対にヴェルサ・・・いや、パラに言わないでくれ」

「パラ?ヴェルサの本名か?」

「そうだ。パラ ミチェレックとアレックス ザイテル。これが俺達の名前だ」

 もう偽名なんて意味は無い。

 これから起こる事、起こす事を考えれば、名前を偽るなんて子供騙しにしかならない。

 それに仲間になるんだ、本名を知っておいて欲しい。

「何故隠す必要が?」

「それは・・・個人的な理由だから、あんまり気にしないでくれ」

 ナイツが俺を睨む。

 ここで不信感を持たれて話がこじれるのは避けたい。


・・・しょうがないな、言うか。


「これから話す内容の一部は、俺の過去と関係している。あいつに知られたらきっと嫌われる・・・パラと・・・別れたくないんだ」

「・・・そんな理由か?・・・プッ」

 笑われた!

「安心しろ、言わないでおくよ。まぁ言ったとしても嫌われないと思うけどな」

「なんでだよ。そんなのわかんないだろ」

「分かるさ、友達だからな」


 真剣な眼差しに変わり俺を見る。

「全ての条件は飲んだぞ、聞かせてくれるな?」


 さっきまで泣き叫んでいたナイツは何処にもいなかった。


 俺も覚悟を決める。


 さて、何処から話せばいいのかな・・・

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