二十五話 決着
マジかよ・・・
ここに来てそういう展開な訳?
溜息をついて手を上げ、ナイツの顔を正面から見る。
「もう少しで仲間になってくれると思ったんだけどな」
「今でもそのつもりだ」
銃を向けながら言われても・・・
「私は助けたいんだ。アイソセレスを、ウジールを、それにお前達も」
何言ってんだ?
「その為には全てを知る必要がある。お前なら知っているはずだ」
「何を?」
少しの沈黙の後、ナイツはゆっくりと口を開いた。
「・・・お前は何者だ」
何者って、
「只の雇われ諜報員だが」
「・・・」
ナイツはあまり表情豊かな方ではない。
だが、今まで以上の無表情でこちらを見る。
「・・・安全装置」
「は?」
何だいきなり。
「捕らえられた時、我々から奪った銃の安全装置は全て解除されていた」
俺達が普段使っている銃には、殆ど安全装置が付いていない。
だからシリンダーの一部に弾を入れないで携帯したり、雷管を外して使う直前に装着したりする。
でも、フォーサイスから奪ったライフル銃には全て安全装置が付いていた。
・・・あ、
「あの時、お前が手にした銃だけ安全装置がかかっていた。何故安全装置の存在や、かけ方を知っていた?」
・・・無意識にやっちまってたのか。
「それだけじゃない。「ダン上等兵」の同僚や上官に聴き取りをして似顔絵を描いたが、その何れもが違う顔だった」
「?!」
そんな筈・・・あり得ない。
いや、あってはならない。
「お前は何者だ?」
「・・・」
言うべきか。
でも・・・
「全てを話してくれ!ユーリ フォーサイスやファブリックの事も全て知っているんだろう?!」
「ユーリ?・・・ファブリックの事?」
俺の正体とユーリやファブリックがどう繋がってる?
「お願いだ・・・私の部下を・・・みんなを助けたいんだ」
ナイツの頬を雫となった涙が伝う。
彼女は何を見た?何を知ってしまった?
俺の正体を話すのは別に構わない、まぁ信じてもらえるとは思えないが。
でもユーリとファブリックの何を知りたいのか、それが気になる。
「わかった、話すよ。でもその前にユーリとファブリックの事で何を知っているのか教えてくれ」
ナイツは顔を歪める。
彼女の瞳に映る感情は・・・恐怖だ。
心が恐怖に支配されている。
「昨日の晩だ、ユーリが私に囁いた」
あれか・・・。
「ファブリックの事を思い出せと、奴の過去、初めて会ったのはいつだったか・・・」
そんな事ユーリが言ったのか?
「・・・思い出せないんだ・・・」
「・・・なんだって?」
「就任式はいつ行われた?どんな経歴だった?初めて会ったのはいつだった?・・・何も思い出せない!」
そう言って子供のように泣きじゃくる。
「一体何が起きてるんだ!私にはわからない!ユーリは何故そんな事を言ったんだ!何故ファブリックの記憶が私の中に無いんだ!」
そんな馬鹿な・・・
その理由を、多分俺は知っている。
あってはならない事が、あってしまった。
間違いない。
ファブリックは俺と同類だ。
・・・多分ユーリも。
そう考えれば俺の似顔絵が違う顔になったのも説明がつく。
フォーサイスでの事件、ウジールの動き、そしてユーリ救出の依頼。
何層にもなって絡まる出来事と思っていたが、そうじゃない。
全ては一つの事件だったんだ。
そしてその中心にいるのが・・・
ファブリック、奴が首謀者だ。
フザケンナよ・・・あいつら何やってんだ!
既にナイツは銃を下ろしていた。
涙で濡れた顔は虚ろになり、俺を呆然と眺めている。
「もうたくさんだ・・・私にとって部隊は家族なんだぞ。それが・・・フォーサイスから全て狂ってしまった・・・」
諦めと絶望。
だが、それでも部下を助けたいと願う想い。
全てがないまぜになってナイツを壊している。
「・・・私達を・・・助けて」
初めて見せるひ弱な態度に、俺は戸惑いを隠せない。
アイソセレスの噂は色々な所で耳にしていた。
敵国の要人暗殺、人質救出作戦、サボタージュに情報操作、冷静で正確な作戦行動。
一度だけ仕事を手伝った時もその恐ろしさを実感し、こいつらだけは敵に回したく無いと思った。
そんなアイソセレスの隊長が、涙を流して俺に助けを求めている。
戦争というのは情報との戦いでもある。
誰よりもその事を理解する彼女にとって、今の状況は耐え難い恐怖なんだ。
「あんたを助けられるかどうかはわからない。でも、今から話すことは、全てじゃ無いにしろ聞きたがっていた答えになると思う」
ナイツの顔に感情が戻ってくる。
「本当か?」
「但し、条件が三つある」
こうなった以上、是が非でもナイツには協力してもらわなければならない。
「一つ目、俺がこれから話す事は、かなり荒唐無稽だ。だが信じて欲しい」
「・・・わかった、信じよう」
口ではなんとでも言えるが、実際はどうだろうな・・・
「二つ目、聞いた後は必ず俺の仲間になってくれ」
「それは、話を聞いてからでないとわからないが・・・そうだな、それが皆を助けることになるなら喜んで仲間になろう」
なら大丈夫だな。
「三つ目、話した内容は絶対にヴェルサ・・・いや、パラに言わないでくれ」
「パラ?ヴェルサの本名か?」
「そうだ。パラ ミチェレックとアレックス ザイテル。これが俺達の名前だ」
もう偽名なんて意味は無い。
これから起こる事、起こす事を考えれば、名前を偽るなんて子供騙しにしかならない。
それに仲間になるんだ、本名を知っておいて欲しい。
「何故隠す必要が?」
「それは・・・個人的な理由だから、あんまり気にしないでくれ」
ナイツが俺を睨む。
ここで不信感を持たれて話がこじれるのは避けたい。
・・・しょうがないな、言うか。
「これから話す内容の一部は、俺の過去と関係している。あいつに知られたらきっと嫌われる・・・パラと・・・別れたくないんだ」
「・・・そんな理由か?・・・プッ」
笑われた!
「安心しろ、言わないでおくよ。まぁ言ったとしても嫌われないと思うけどな」
「なんでだよ。そんなのわかんないだろ」
「分かるさ、友達だからな」
真剣な眼差しに変わり俺を見る。
「全ての条件は飲んだぞ、聞かせてくれるな?」
さっきまで泣き叫んでいたナイツは何処にもいなかった。
俺も覚悟を決める。
さて、何処から話せばいいのかな・・・




