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笑菓  作者: 千葉焼き豆
追跡
21/43

二十一話 転換点

 移動を再開した。


 御者はユーリとヴェルサ。私とホーグは荷台に乗っている。

 さっきからホーグは不機嫌な顔でブツクサと文句を言いながら、私の方をチラ見する。

「こいつが余計なこと言わなければ・・・」

「セオドルに嘘をついたお前が悪いんだろ。人のせいにするな」

「あれはユーリを悲しませない為の優しさなんだぞ?!女扱いされて嫌だろうなって思ったから・・・」

 2人して御者台のユーリを見る。

「杞憂に終わったようだがな」

「・・・ああ。まさかユーリの奴・・・」

 ユーリはヴェルサと楽しそうに話しながら、時たま自分のドレスに視線を落とし微笑んでいる。

「あれってやっぱり、あれ、なのかな・・・」

「そうとは限らないだろう。ただ女装が好きなだけかもしれん、精神や性的嗜好が女の「それ」とは限らない」

「直接聞くわけにもいかんし・・・」


 ユーリの女装には確かに驚いた。

 だが、話さなければならない事がある。


 ホーグ達はもうそろそろだと思っているだろう。

 でもな、それはこっちも同じなんだ。


「お前に聞きたい事がある」

「ユーリの件で?」

「違う。お前とヴェルサについてだ」

 ホーグは不思議そうな顔をする。

「俺達の事?」

「そうだ。さっきの一件で察したんだが、お前らは男女の仲なのか?」

「そう面と向かって聞かれると、ちょっと恥ずかしいんだが・・・まぁそうだな。そんな仲だ」

 やはりか。

「ヴェルサをこんな危険な目に合わせて心配じゃないのか?」

「そりゃ心配さ。俺もそう思ってユーリを救出した後は別行動しようと言ったんだが、あいつは聞かなかった」

「お前と離れたくない。という事か」

 ホーグが苦笑する。

「そんな可愛いもんじゃ無い。一緒の人生を歩むんだから、私が死ぬ時はあんたも一緒に死ねって言いやがった」

 それは・・・なんというか、

「いい女だな」

「だろう?俺も思わず笑っちまったよ」

 嬉しそうに笑うホーグ。

「それで覚悟が決まったんだ、何処までも一緒にいようってな」

「そうか・・・」

 ホーグは微笑んで、御者台でユーリと話す最愛の女性を見つめる。


「・・・今からでも遅くはない、投降する気はないか」

「・・・」

「次こそは容赦無く襲ってくるぞ、アイソセレスはそういう部隊だ」

 微笑みを苦笑に変え、首を振る。

「あんたがいてもか?」

「逆だ、いるからこそ容赦が無い。私が捕らえられた後は副隊長のノベスキーという男が指揮を継いだだろう。こいつは私の事を快く思っていない、私ごとお前達を殺すぞ」

 心の中でノベスキーに謝りながら、ホーグに訴える。

「ユーリは今回の一件が治れば、必ず解放される。私が保証しよう」

「ファブリックがそうすると思うか?」

 奴の名前を出されるのは予想がついていた。

「あいつは事が済んだ後、ユーリを傀儡にして新生フォーサイス自治国を立ち上げるつもりだ。その為にユーリは必ず生かして捕らえるよう命令されている」


 勿論全てデタラメだ。

 だが、ユーリを殺さないように説得する事は出来る。

「それにお前達が望むなら、ウジール軍に入る事も出来るぞ、私が口添えしてやろう。これだけの手練れならアイソセレスも歓迎するし、同じような仕事がしたいなら情報局に入るのも悪く無いだろう」


 情に訴え仲間に引き入れる。

 それはホーグ達が行ってきた作戦だ。

 ならばこちらからも同じ方法で攻略する。


 たった一週間だが、共に旅をしてきて多少なりとも打ち解けている。

 私が感じているのと同じ様に、彼らも感じているとするならば、勝算は、ある。


 それにホーグ達は荒事をあまり望まない。

 私だって同じなんだ。

 死んで欲しくない、それが本音だ。


「ヴェルサは私の事を友達だと言ってくれた、私も・・・友達に、なりたい。彼女は本当に素敵な女性だ、だから幸せになって欲しい。それが出来るのは、ホーグ、お前だけなんだ」


 さぁ、どう出る?



「・・・ユーリを依頼主に引き渡す、それは譲れない」

「では、その依頼主に引き渡した後、ウジールに来ればいい」

「それは・・・多分無理だと思うぞ」

寂しそうな顔で私を見る。

「依頼主はな、屋敷の虐殺から辛くも逃げてきた生き残りだ」

「・・・」

「ウジール関係者を受け入れるとは到底思えない」


 あの命令が、ここで障害になるのか。


「忘れないでくれ、ユーリは特別なんだ。あいつが強いだけで、普通・・・」

「わかってる。それ以上言う必要は無い」


 忘れていたわけじゃない、ユーリに甘えて思い出さなかっただけだ。


 私は、残忍な殺戮者だ。


 そんな人間の仲間になろうなどと、考える者はいない。


 やっぱり・・・やるしかないのか。




「僕にも見張り番をやらせて下さい!」

 翌日の晩、ユーリがそんな事を言い出した。

「見張りか・・・ユーリは依頼主みたいなもんだから、そんな事してもらわなくてもいいとは思うんだけど・・・ホーグはどう思う?」

「睡眠のサイクルが狂うってのは、慣れないとキツイからなぁ、正直俺は賛成しないかな」

 2人の意見はどちらかというと否定的だった。

 しかしユーリは引き下がらない。

「僕も何かしたいんです!だって1人だけ何もしてないなんて、不公平だと思うから・・・」

「いや、そんな事いったら・・・」

 ホーグが私の方を見る。

 何が言いたいんだ。

「あのねぇちゃんだって何もやってないぞ?」

「おい!私は人質だぞ!一緒にするな!」

「そうですよ!ナイツさんは両手を縛られてるし、しょうがないじゃないですか!」

 そういう問題では無いと思うんだが・・・

「うーん、じゃあ今晩一度やってみて、無理そうならやめればいいんじゃない?それに最初の見張り番なら、少し夜更かしするだけで済むから問題無いと思うよ」

 ヴェルサがそう言ってユーリの顔を見る。

「それなら大丈夫でしょ?」

「は、はい!」

「そうだな・・・それでやってみるか」

「ありがとうございます!」

 嬉しそうにユーリは返事をする。


 どんな時でも前向きで、積極的に行動する。

 歳の事を考えなくてもユーリは立派な人物だ。

 そんな彼を捕らえるのか・・・


 やめよう、考えてもしょうがない。

 もう、決めたことだ。




 深夜、予定通りユーリが見張りに付いた。


 横になり時が経つのを待つ。


 多分2人とも寝たフリをして起きているだろう。

 だが目を瞑っているというのは大きい。

 腕の縄を解き銃を奪う、ほんの数秒で終わる筈だ。

 ユーリの担当時間は二時間ほどだ、一番油断する交代直前がいいだろう。


 ベルトを縫い合わせている糸を爪で引っ掻き解く。

 この中に非常用の小さなナイフが入っている。

 縄を切るのは行動する直前だ。


 ・・・悪いがやらせてもらうぞ。

 今が瀬戸際なんだ。

 これ以上一緒にいれば、間違いなく私は変わってしまうだろう。




 薄眼を開け、ユーリの様子を伺うと、瞼が落ちそうになっていた。

 見張りに付いてから約二時間、どうも睡魔が襲ってきたらしい。


 ・・・今だ。


 ナイフで縄を切り落とそうとするが、中々上手くいかない。

 それ程きつく縛られているわけではないが、手が上手く縄に回らず力が入らない。


 早く・・・早く切れろ!


 その時、ユーリの目が大きく見開いた。


 クソッ!

 またタイミングを見誤ったか・・・


 ユーリが私を見る。

 咄嗟に目を閉じて眠っているフリをした。


 衣擦れの音がする。

 誰かが起きたのだろうか。

 また薄眼を開け、様子を伺う。


 今までに見たことがない笑みを浮かべながら、拳銃を持つユーリが近づいてくる。



 ・・・ユーリは、強い意志と心で乗り越えた筈だ。


 でも・・・そうか・・・やはりダメだったのか。


 憎しみの炎は、ずっと心の奥底で燃え続け、負の連鎖を防ぐ事は出来なかった。


 彼を責めるつもりは微塵も無い。

 あれだけ残忍な事をしたんだ、この子は何も間違っていない。


 ・・・もしかしたら、本望かもしれないな。

 ユーリに殺されるのなら、それが一番正しい結末だ。


 ユーリが顔を近付ける。

 耳元に微かな呼吸音が聞こえた。

 言いたいことがあるのだろう。

 何を言われたとしても、私はそれを受け入れるだけだ。


「あんたに言っておきたいことがある」


 ほんの二時間前まで聞いていたユーリの声だ。

 女性のように澄んだ美しい声。

 しかし口調が全く違っていた。

 まるで別人のようだ。


 人を殺す時というのは、口調まで変わってまうのか。

 その変化が無性に悲しかった。


「ファブリックの事を思い出すんだ。どんな奴だったか、初めて会ったのはいつ何処でだったのか」

「・・・」

「そうすれば、全てが変わる」


 ゆっくりと目を開ける。

 目の前にユーリ フォーサイスはいない。

 顔と声だけ同じの、全くの別人。


「・・・お前は・・・誰だ?」


 私の問いに微笑みで返し、握っていたナイフを奪われる。


 そのまま元いた場所に戻り、目を瞑る。

 まるで、ずっとそうして眠っていたかのように。


「・・・おい」


 ユーリを見る。何も返事はない。

「おい!」

「は、はい!」

「なんだ?!」

「どうしたの?!」

 全員が起きてしまった。


 ユーリは・・・


「す、すいません!ちゃんと起きているつもりが・・・」


 私が知っているユーリ フォーサイスに戻っていた。




 ・・・一体何が起きた。


 もうたくさんだ・・・いい加減にしてくれ・・・

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