十五話 接合点
脱走事件にフォーサイスは関わっていないのではないか。
それは追跡命令が出た時点で考えた事だ。
確かにユーリ フォーサイスの身が自治国レジスタンスに渡れば、抵抗運動には弾みになるだろう。
だがそこまでだ。
フォーサイス自治国軍は、人員も装備も貧弱だ。
現在はウジール軍の管理下に置かれているフォーサイス軍だが、もしレジスタンスと共闘しウジールに戦いを挑んだとしても、あっという間に殲滅されてしまうだろう。
わざわざ負ける戦を挑む程、頭の悪い連中ではないはずだ。
情報局の話ではレジスタンスが他の同盟国とコンタクトを取っているらしいが、結果は芳しくない。
もし戦意高揚の意味でフォーサイスがユーリを救出したとすると、あまりにもタイミングが早過ぎる。
つまりは今回の脱走劇、フォーサイスは絡んでいない可能性が高い。
では誰が何のためにユーリを助けた?
考えられるのは、個人的な感情で動いた者がいるという事だ。
フォーサイスの屋敷にいた者は全て射殺されている、だが我々も全員を把握できていた訳じゃない。
もしかしたら逃げ延びた人間がいたのかもしれない。
或いはそれ以外の、ユーリと繋がりのある誰か。
そんな人物がユーリを想うあまり、誰かに救出を依頼した。
可能性としては十分だ。
では誰に依頼したか。
金があるのならプロに頼むのが一番だろう。
それも国や組織に所属していないフリーランスの元特殊部隊員か元諜報員。
そういった人物は主に中央の小国で活動している。
ならば最近中央地域から西部に来た者を探し出せば、そいつが今回の実行犯である可能性が高い。
あくまで私の推察だが、当たっていれば該当する人間がいるはずだ。
「バーレル街道沿いの街に、昔馴染みの奴がいてな、そいつが言うにはソルデンという男が持っていたセーフハウスを、最近誰かが使ったらしい」
「その昔馴染みは「誰か」の顔を見たのか?」
「いや、使った後を見ただけで実際に会ってはいない。だが普通じゃ絶対に行かない場所だから、ソルデンが使ったんだろう、と言っていたな」
私の予想に合致する人物。限りなく黒に近いな。
「ちなみにソルデンは、あんたも知っている男だぞ」
「なに?!」
「昔アストラ国とのイザコザで外部の人間を紹介しただろ。そいつがソルデンだ」
アストラと関係が悪化し、アイソセレスが作戦行動を起こしたのは2年と少し前の事だ。
確かにその時、外部協力者として行動を共にした男がいる。
「あいつか・・・」
情報操作を頼んだ奴だ。有能だったが冴えない顔であまり印象に残ってない。
でもあいつは、
「1人だったな。仲間はいないのか・・・」
「いや、ソルデンは女の仲間がいた筈だ。確か兄妹だとか言っていたが、どうせ嘘だろう」
「女の仲間?」
「ああ、お前さん達と仕事してた時は顔を出さなかったが、裏で動いてたぞ」
やはり協力者がいたか。
「ソルデンは三年前まで西部でも東寄りの地域で活動していた奴だ。お前達との仕事が終わった後、中央に行くと言っていたな。それから音沙汰が無かったんで死んだと思ってたんだが、多分名前を変えて活動してたんだろう」
西部での活動経験ありか。
多少の土地勘もあるということは、ウジールでの仕事を受けたとしても不思議ではない。
違う可能性・・・無いとは言えないが、今はこの情報にすがるしか無いのも事実だ。
酒代を置いて立ち上がる。
「なんだ、もう行っちまうのか?」
時間が無い。早く部下達と合流し、情報を伝えなければ。
「ちなみに聞くが、ソルデンは何をやらかしたんだ?」
「たいした事はない。男2人で駆け落ちしただけさ」
嘘は言っていない。セオドルの話を信じればの話だが。
「・・・なんとも情熱的な話だな。じゃああんたはそいつらに横恋慕でもしてるってことか」
「そんなところだ」
苦笑し答える。
これも嘘じゃ無い。恋い焦がれ、早く会いたい気持ちでいっぱいだ。
ダン上等兵、いや、ソルデン、必ずアツい抱擁を食らわしてやる。
翌日、バーレル街道に戻って来た。
宿場町の1つ、トムソンという街で部下と合流する。
待っていたのは第一分隊Aチームのケネスだった。
「隊長、何か収穫は?」
「ある程度な。そっちはどうだ」
「ノベスキー副隊長から伝言を預かっています」
小さな紙切れを渡される。
内容は、出生地、訓練所、派遣軍、いずれにもダン ウエッソンという名は無かったという事。
それとレジスタンスに潜り込んだスパイからの報告で、フォーサイスは脱走に関わってないどころか、ユーリが何処に行ったのかわからず、かなり慌てている事。
その二点が書かれていた。
間違いないだろう。ユーリ フォーサイスは雇われた第三者に連れ去られた。
後は私が掴んだ情報を皆に伝え、見つけるだけだ。
「ケネス、お前達のチームは捜索を打ち切り、手分けして皆に情報を伝えてくれ」
「了解しました・・・しかし今うちのチームで追っている者がいるんですが、どうしますか?」
なんだと?
「対象らしき人物がいたってことか?」
「はい。子供連れなんですが、その子供が頭を布で覆っていまして。もしかしたらと思い、一応俺以外のメンバー3人で現在監視中です」
「・・・何処にいる?」
「この街にいます」
まさか・・・いや、そんなはずはない。
あまりにも都合が良すぎる。
「監視対象はどんな奴だ」
「推定10歳前後の子供1人と中年くらいの男1人。それと20歳前後と思われる女が一緒にいました」
・・・カリマーに聞いた話と合致する。
いや、該当する者達なら幾らでもいる。普通に考えたら、ただの親子連れだ。
だが顔を隠していたとなると、かなり怪しい。
この街にいるならそれほど時間はかからないな。
「私が確認する。案内してくれ」
ケネスの話によると、尾行対象は宿に入ったらしい。
宿から少し離れた酒場の窓際に座り、待機する。
「3人は三方に別れて監視しています」
お互いの姿が見えるように配置につき、何か動きがあれば目で合図する。建物を監視する場合の基本だ。
「相手が宿から出て来た時に顔を確認する。他の者にはそのまま監視を続けるよう伝えてくれ」
「了解しました・・・あの、隊長が見ればダン上等兵かわかるのですか?」
「情報が正しければな」
第一分隊の隊員は皆、ここ一年前後に入隊した奴らだ。アストラで任務を行なった者は1人もいない。
ソルデンの顔を知っているのは私だけだ。
だが、人相書きの一件がある。本当にソルデンだとして、わかるかどうか・・・
何も注文しないと怪しまれるので、適当に酒を頼み動くのを待つ。
それにしても、あまりに都合が良すぎる。 情報を手に入れて部下と合流した途端に近くにいただと?
そんな偶然ありえるわけがない。
大体こんな街でのんびり宿に泊まっているというのもおかしな話だ。
大急ぎで逃げないでどうする。追っ手は真後ろにいるかもしれないんだぞ?
無駄足で終わるなら、すぐにでも他のチームに情報を伝えた方が、よっぽど有効なんじゃないだろうか。
そんな考えが、浮かんでは消える。
答えは無い。
無いものを考えるのはよそう。思考の無駄だ。
尾行中の対象を目視で確認して、違うとわかったらすぐに次の行動に移ればいいだけだ。
一時間ほど経っただろうか、隊員の1人が私に目で合図を送った。
対象が出てくる。一瞬緊張が走るが、直ぐに気持ちを落ち着かせる。
窓から宿の扉を凝視する。
ゆっくりと扉が開き、誰か出てきた。
1人目、フードのように布を顔に巻いた子供だ。服装や身長からはユーリかどうかはわからない。
2人目、小柄な女が子供の後を追って出てくる。一見何処にでもいそうな普通の地味な女だ。
ただ、歩き方に少し違和感を感じる。訓練をした者独特の、油断が無く規則正しい足運び。
そして3人目、中肉中背、冴えない普通の男。
過去の記憶が強烈に蘇ってくる。
全ての情報と私の勘が繋がった。
間違いない、こいつがダン上等兵、ソルデンだ。
やっと見つけた。愛しの人。




