十一話 覚悟
石城都市を離れ、森林地帯へと向かう。
潜入してからは全く顔を合わせてないので、久し振りにパラと会う事になる。
少しだけ胸が踊るが、すぐに落ち着いてしまう。
この前の事で俺達の関係は変わってしまった。
だから言わなければならない。多分彼女は嫌がるだろう。
でも、もう危険な目にあって欲しくない。それが俺の我儘でも、本当の気持ちだ。
目的地に着くと既にパラは到着していた。
「ねぇ、あの部屋なんなの?拷問部屋?」
「ヤリ部屋だよ」
「や・・・なんだって?」
「セックスする場所だよ。それも俗称じゃない。正式名称がヤリ部屋なんだと」
「そんな部屋もあるって情報はあったけど、まさかそんな名前って・・・ていうかそんなとこに脱出口があるの?頭おかしいんじゃない?!」
「俺もそう思う」
いつもの調子にいつもの会話。少し拍子抜けしてしまう。
「それよりもどこに繋がってた?」
「アレックスの思ってた通り、この森林地帯だったよ。それもここからそんなに離れてない、歩いて5分くらいかな?」
「やっぱりか。それにしては見つけるのに時間がかかりすぎじゃないか?」
「まさか私達が使ってる集合場所の近くなんて思ってもみなかったから、最後にしちゃった」
「足元は見えにくいってやつか」
「そ、近くにありすぎるとわかんないよ」
とりあえずは、いくつかの確認をすませる。
「で、手紙は届けたの?」
「ああ、間違いなく届いてるはずだ。頼んでた荷物は?」
「ここにあるよ。ねぇこれ本当に偽装だよね?」
「目的を知ってるお前さえ騙せるんだから、完璧な偽装だな。あいつには絶対にわからない」
「あいつって?」
「仕事仲間さ」
頭は沸いてるが、面白い奴だから是非パラにも会わせたいところだ。しかし残念ながら時間がない。
「馬車は?」
「幌付きの荷馬車を確保した。でもマイラに引かせて大丈夫かな?」
「信じてやれよ。無理そうならもう一頭買えばいい。食料その他は?」
「食料3人分を一か月、武器は追加で回転式拳銃を二丁、弾と火薬は200発、毛布は四枚、後ユーリ君の服なんだけど、サイズがわからないから取り敢えず色々買っといた」
「まぁそんなもんかな」
「じゃあ予定通り?」
「ああ、二週間後だな」
「・・・久しぶりにずっと一緒に居られるね」
「・・・」
移動は一緒、街中は他人のふりというのは、護衛任務の時は行わない。
それよりも2人で護衛対象を守った方が圧倒的に生存率が高くなるからだ。
「・・・なぁ、うまくユーリを救出できたらさ、ここから別行動しないか?」
「・・・」
「幸い、向こうはお前の存在を知らない」
「なんでそんな事言うの?」
パラの冷たい言い方に、本当の事を言えなくなってしまう。
「別に変じゃないだろ。ただいつも街に入る時やってる事を、今回は護衛でやるだけだ。そうすればいざって時に、」
「本音で喋れないなら喋るな!」
「・・・わかってくれ。今回は本当に危ないんだ。お前も見たことあるだろ?アイソセレスの連中だぞ。お願いだから俺にお前を守らせてくれ」
「守らせる?私アレックスより強いけど?それにさ、そんなこと言うなら今回の仕事、最初から受けなければよかったじゃん。今更言うなんておかしいよね?」
「あの時と今とじゃ状況というか俺たちの間柄というか、そういうのが、」
「ああもう!ゴチャゴチャとうるさい!あんた本当にキン◯マついてんのかよ!このフ◯ャチン野郎!」
「!」
あまりの漢らしさに気圧されてしまう。
「私言ったよね?!」
「な、なにを?」
「もう二度と離れようなんて口にしないで」
それは静かだが拒否を許さない、強い意志の声だった。
「物理的な意味じゃないからね?」
「・・・そんな事はわかってるよ」
酔っ払ってたから忘れてると思ってた。
「約束破ったら、ダメだよ」
「そうだな、ごめん。俺達の人生になったんだ。離れることなんて出来ない」
「そうだよ、私がいつどこで死んでも、その時はアレックス、あんたも一緒に死ぬんだよ」
「ああ、そう・・・え?なんだって?俺も道連れって事か?呪いの言葉?」
「今頃気が付いた?「私」も「俺」もいない、「俺達」なんだよ!どんなことがあっても離れられない呪いの言葉!いい?私に何があったってあんたには付き合ってもらうから!」
・・・これがパラの覚悟か。
俺達の人生という呪いを受けてこの先を生きるという、これがこいつの覚悟なのか。
だとしたら・・・
「な、なんつう女だ!惚れた俺は貧乏クジじゃねぇか!こりゃひでぇ!はっ!はははっ!」
「そんなこと言ったら私だって、あんたに惚れて貧乏クジだって!プッ、ふふっはははっ!」
2人して涙を浮かべて笑い合う。
やっぱりパラは最高だ!こんな女世界に1人しかいない!
面白がってる自分の性格に吐き気がする?
彼女を巻き込んでしまうのが怖い?
知るかそんなの!
どうしようもないくらいの興奮と自信が湧き上がってくる。
いつもならそんな高ぶりは悪しきものとして抑え込み、沈着冷静たれと自分に言い聞かせるが、今回は、今回ばっかりは無理だ。
パラのさっきのセリフ、笑い声、歯を見せて高らかに笑う顔!
その全てがもっと自分の感情に素直になれと訴えてくる。
パラが好きだ。ずっと一緒にいたい。片時も離れたくない。
頭の中にそんな思いがいっぱい詰まっていて、それ以外の感情が入ってこない。
俺は馬鹿になっちまったのかもな。今まで出会った女の中で、こんな気持ちになったのはこいつだけだ。
覚悟は決まった。
ずっと一緒にいよう。何があっても。




