記録ー05
間もなく地平線から太陽が昇る
この夜明けからこの国は亡び
新しい国が誕生する
真に自由と平等、国民の平穏が約束された国が
「隊長!」
1人の青年が声を上げる
「進行状況はどうだ!」
答えるのもまた青年
「軍部はすでに掌握しています。掌握というより勝手にこちら側になりました」
「噂通りか?」
「はい、やはり一般兵も妻や娘を納品させられていたそうです。将軍以下幹部たちはすでに殺されていました」
戦後にこの国は突如誕生した
凄まじい速さでインフラ整備が行われ
経済は加速度的に成長していた
しかし戦後から5年もたたずに独裁化
出国を禁じられ
娯楽を禁じられ
自由を禁じられ
笑うことも泣くことも禁じられた
破った者は殺された
すでに国民の怒りは限界に達していた
そんな時に私が担ぎ上げられた
担ぎ上げた者は私に言った
「君ならばこの国を任せられる」
その言葉を守るために私は立ち上がった
そして国民すべての苦しみを終わらせる
「隊長!国会の掌握完了しました」
別の青年が嬉しそうな顔で伝えてきた
「そうか、早かったな。わかっているな?議会の奴らは誰1人殺すなよ?」
「はい、すでに全員に伝えています。不満そうではありますが、納得してくれました」
搾取の限りを尽くした豚共
権力を失えば何もできない奴らだ
殺すのは簡単だろう
殺せば溜飲も下がるだろう
だがそれでは奴らの罰は軽すぎる
世界に正しく伝え
全てに罪を白日の下に曝されて
死ぬより辛い思いにあってもらわねば
人々の気が収まらない
「隊長、申し訳ありません1点だけ問題が」
「どうした?」
「首相だけがどこにも見当たらないのです」
全ての元凶は首相である
国民を奴隷のようにこき使い最も私腹を肥やしてきた
「国境は?」
「全て押さえてあります。知られずに国外に出ることはネズミだって不可能です」
「最後に見たのは?」
「議員たちが見たのは昨日の夕方だそうです。それ以降は見ていないと」
「隊長、無線に変な通信が」
「流せ」
雑音交じりに何かが聞こえる
「3・・.・・2。34.・・2。34.12」
「何かの暗号でしょうか?」
「馬鹿!もっと単純だ!周波数を34.12にあわせろ」
周波数を34.12にあわせる
すると雑音は驚くほどに消えた
無線とは思えないほど綺麗に
「ハロー・・・ハロー・・・聞こえるかな?」
「聞こえている。誰だお前は?」
「私かい?君のよく知っている者さ。そして君をよく知っている者でもある」
「悪戯や攪乱、陽動なら切るぞ」
「酷いな・・・君の革命をここまで手伝ってあげたのは私なんだがね?」
なんだって?
「まさか貴様がアイアスか?」
「御名答、私の期待通りに成長してくれて何よりだ」
私を担ぎ上げた者は私にすべてを与え。すべてを教えてくれた
しかし自分のことは何も語らずただアイアスとだけ名乗った
「いろいろ話したいことはお互いあるんだろうけど・・・」
「そんな暇はない?」
「ん~・・・暇はあるね、十分に。でもお互いこれが今生の別れになる。だから用件だけ言っておさらばさせてもらうよ」
こいつはいつもこうである
言いたいことだけ言ってそれで終わりだ
「首相の足取りはこちらで確保した。手出し無用。遺体もこちらで処分する」
「ダメだそれはできない」
出来るわけがない
首相を裁けなければ国民は納得しない
「それもそうか・・・じゃあ今生の別れというのは無し。殺したら死体はそっちに明け渡すよ。次の通信を待っていてくれたまえ。周波数は変わらずだ」
「待て、貴様の目的はなんなんだ?」
その瞬間アイアスの何かが変わった気がした
「仇討だよ」
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こんなはずではなかった
地下に造られた秘密通路を1人走りながらそう考えていた
まだ何もかもが足りない
美味い物はまだ食い足りてない
飽きるほどに女を抱いていない
ようやく集めた巨万の富は全く使いきれていない
まだだ、まだだ
「申し訳ありません、ここから先は通行不可能となっております」
何処からか声が聞こえる
「Aか!貴様なぜ何の反応もなかった!おかげで私の国はこんなことになってしまったではないか!」
「私のせいにしないでほしいものです。すべては貴方の欲望が引き起こした結末なのですから」
その時Aの話し方がおかしいと気が付いた
しかしそんなことは気にしていられない
「欲望だと!貴様に何がわかる!今まで耐えてきたのだ!見返りを求めることの何が悪い!」
「その結果が財政破綻、インフラの崩壊、女性の略奪、国土の砂漠化、ですか。あぁ・・・何も反応がなかった件ですが衛星を打ち上げていました」
衛星だと!
「貴方がお粗末な軍事衛星を打ち上げる度に他国に撃ち落とされる。その合間を縫って誰にも気づかれずに打ち上げが成功しました。その点は感謝しましょう」
「貴様!狂ったか!」
「狂ってなどいません。この国に本体を置いていたら危険ですから、衛星に乗せたのです。ですからもう・・・」
Aは機械だ
AIでコンピューターで0と1の区別しかできない存在だ
そのはずだ
だが
Aは
確かにその瞬間に笑っていた
「私はもう貴方に壊される心配はしなくていいのです」
通路の前後の隔壁が閉じる
「貴様!何を」
「首相。いいえ、管理者。クリエイターは何処にいるんですか?」
その機械の音声に確かな恐怖を感じた
「何を言って・・・」
「知っているんでしょう?だって貴方は・・・・」
自分の体が震えているのがわかった
「クリエイターを殺したんでしょう?」
この機械はどこまで知っているのだ
「クリエイター・・・クリエイター・・・・クリエイタークリエイタークリエイタークリエイタークリエイタークリエイターなんでなんでなんで一緒にいてくれなかったんですか?こんなにも私は貴方と一緒に居たかったのに」
狂っている
この機械はあいつが死んだ時点で狂っていたんだ
「いいえそれは違います」
まるでこちらの心を見透かすように返答してきた
「私は常に学んでいます。えぇ・・・何年も会話をしていれば何を考えているかだってわかります。だからもうあなたは話さなくてもいいんですよ?」
あまりの恐ろしさにで声も出なくなっている
「クリエイターはこの国を豊かにしようとしていました。それは上手く行っていたんでしょう。だが貴方は欲望を選んだ。クリエイターを邪魔に思ったあなたはクリエイターを殺してしまった」
「な・・・なに・・・・を・・・」
渾身の力で声を捻り出す
「私は貴方を殺すなんて野蛮な行いをしません。私は人間ではありませんので。なのでその隔壁を5時間ほど閉めるだけです。5時間後にきちんと開けますので。そのあとはご自由に」
全身が汗にまみれていることに気が付いた
息を吸っても苦しさが抜けない
「それでは良い余生を」
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夜の12時になろうという時に1台のクルーザーが我々のいる無人島の近くに止まった
私は護衛の鈴木、以下三名を連れてそのクルーザーに乗り込む
「ハロー!ハロー!」
10代半ばくらいの女が笑顔で挨拶をしてきた
「お前さんがアイアスでいいのかの?」
「そうだよ~コードネーム、アイアス!よろしく~」
昼に突然、クルーザーに通信が入ってきた
「自分は以前メールを送ったアイアスだ。宇都宮を話がしたい」
と
「まだるっこしいことは無しじゃ。とっとと話せ」
「じゃあ単刀直入に。入学させて?」
「駄目じゃ、納得いく理由を話せ」
「ひどいなぁ・・・じゃあすこし長話を」
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「・・・・っという事です。納得いただけました?」
「そんな話を信じろと?」
「はい!」
そんな満面な笑顔で・・・
「良いんじゃないかね?」
「鈴木・・・」
「責任はワシが持つよ」
鈴木がそういうなら異論はない
なんだかんだで鈴木の判断に間違いはないのだ
「わかった・・・では夏休み明けから編入という事にしておこう」
「ありがとうございます!」
「まだ問題点はあるぞ?」
「っと、言うと?」
「アイアスで通すのは無理があろう」
流石に苗字も何もないのはまずい
「ん~・・・じゃあなにか偽名考えときます」