記録ー03
「クリエイター。何か悩みでもあるのですか?」
「え?いやそんなのないけど?」
「こちらの勘違いでしょうか?いつもより心拍数や体温が低くなっています。何よりどこか呆けています」
「・・・・本当に何もないよ」
「本当ですか?」
「・・・・・・そこまで疑うのかぁ・・・いや実はね」
「やはり何か悩み事ですか・・・私でよければ何でも解決しますよ」
「いや、もう解決した問題なんだよ」
「・・・・そうですか」
「なんか最近人間みたいな話し方になったね」
「ネットを通じて世界の人間を見ていますから会話も流暢になりますよ。あと最近落語の魅力もわかってきました」
「落語か~・・・私にはよくわからないなぁ・・・」
「で、話を戻しまして。解決したならなぜそのように呆けているのでしょうか?」
「う・・・誤魔化せなかったか。娘がね・・・」
「私以外にもクリエイターには娘がいたのですか?」
「しれっと自分も私の娘に入れるのか。まぁ間違ってないけど」
「脱線しました。戻しましょう」
「娘って人間の、血のつながった娘がね。先日結婚したんだ」
「なるほど、おめでとうございます。そして寂しくなって呆けていたんですね」
「君みたいな勘のいい・・・・」
「AIは大好きでしょう?」
「返答も早くなってきたな君は」
「相手が日本人でね。遠くに行ってしまったと思うとやはりねぇ」
「さみしがってる暇はありませんよクリエイター」
「なぜだ?」
「まだ一人立ちしていないあなたの娘がここにいます」
「・・・・・・・あ、はい。じゃあ頑張っていろいろ勉強しますか」
「そうします。もしかしたら娘として振る舞うより恋人として振る舞うほうがクリエイター的にはいいのでしょうか?」
「絶対にやめなさい」
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これは夢だ
自分でも夢だって理解できている
でもわかっていても夢なので意思に反して体が動く
息を切らして目の前のアイツを追いかける
殺してやる
そう息巻いて追いかけている
アイツは殺されても仕方ないことをしたのだから
殺されたくないとアイツも走る
赤信号でも立ち止まることなく
そうしてアイツは死んだんだ
「おはよう」
「・・・・・おあよう・・・」
精算が終わってゲームは終了
そのまま解散となり
俺は部屋に帰って寝た
そして目を覚ませば夏妃が覆いかぶさっていた
「いつ帰ってきたんよ?」
「たった今帰ってきたのよ」
「ふ~ん・・・・」
「・・・・それでなんか悠君が寝ながら嫌そうな顔してたから。これはいかん!早く夏妃分を補充してあげないと!って思って補充してあげたのよ」
そして今気が付いたのだが
「なんで俺上半身裸になってんの?」
「だから夏妃分の補充を・・・・」
「おい何をした」
「ちょっとばかり悠君のおっぱいを味わってました」
おっぱい言うなや、せめて胸板とか言ってくれ
「・・・で?なんか嫌な夢?」
「まぁね、昔の記憶がよみがえってた」
そう言った瞬間に夏妃に強く抱きしめられた
柔らかい感触と甘い香りが包み込む
嫌な感覚が薄らいでいくのがわかる
「落ち着く?」
「・・・・ありがとう」
「じゃあ今日はこのまま一緒に寝ましょう?」
「襲うなよ?」
「多分襲わない」
「じゃあ帰って自分の部屋で寝てくれ」
「わ~!嘘々!絶対襲わないから抱き枕になって!」
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23時になろうとしている
そんな時間に部屋の電話が鳴り響く
「もしもし」
「遅くにすみません、タケウチです」
このタケウチと名乗る女は医者である
宇都宮学院の卒業生で今は若き女院長で宇都宮家の専門医だ
「もしかしてこの間の定期検診でワシなんか引っかかった?」
「いえいえ、源十郎先生は健康そのものです。多分150までは生きますよ」
え?そんなに長生きできるのワシ?
「今日の午後に夏妃さんが私のところに来たんです。体を見てくれと」
夏妃が病院に行ったなどと言う話は聞いてない
「なんでも3月の終わりあたりから胸が痛くなっているらしく」
「はははは、ワロス。痛がるほど胸がないのにのぉ」
「それ、夏妃さんに伝えますか?」
「ごめんさい。ふざけすぎましたので謝りますので言わないでください」
会話を和ませようとしたのだが失敗したようだ
う~む、難しいもんだね
「とりあえず検査しまして。本人に伝えるべきか相談を、と」
「結果は問題ないんじゃろう?と、なると夏妃の精神的な話か?」
タケウチは伝えるべきことはハッキリと伝える性格である
もしここで夏妃が重大な病を患っていたとしたらこんな面倒なことはせず夏妃に即座に伝えるだろう
「結果としては喜ばしい事でして。簡単に言うと僅かですが二次性徴が始まりました」
タケウチも夏妃が性的虐待を受けていたのは知っている
そして体が女らしくならないのはそれが原因による精神的なものだと判断している
夏妃にもそれを教えている
だが夏妃の体の問題はそれだけではないのだ
このままの体なら伝えないほうがいい。そうワシは判断していた
「伝えなければならんか・・・」
「すぐには伝えないほうがいいでしょう。支えになってくれる人がいるのでしょう?」
森口悠のことだろう
「その人と上手くいっているのであれば色々と落ち着いたタイミングで話したほうがいいでしょう」
「その・・・夏妃にはだな・・・ストレス性排卵機能障害と伝えているわけじゃが・・・治る見込みは?」
ストレス性の排卵機能障害であればまだ治る可能性はあっただろう
当時の夏妃には現実を伝えられなくて嘘をついてしまった
それが今になって仇になってしまった
「残念ながら・・・・」
「そうか・・・」
それからしばらく色々と話し合い電話を切る
「・・・・あぁ・・・世の中上手くいかないもんだなぁ・・・」