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変化

三月一日

午前十時

卒業式が行われる最中

玄関には1人、音を立てずに歩いていた

その男は恨んでいた

自分の思い通りにいかなかった女を

自分を殴った男を

鼻を折られた

だが誰も心配してくれなかった

この学院を恨んだ

完全に逆恨みである

だが本人はそれが正しい事なんだと信じて疑わない

その手にはスプレー缶が握られていた

玄関の壁を見てその顔に醜悪な笑顔を浮かべながら





--------




ハッ!

やべぇ寝てた

卒業式の途中で寝落ちしてしまったらしい

やはり昨日の徹夜がダメだった

夏妃の操縦系統の設定に付き合ったのは失敗だった

だ、だれも気付いてないよね?

あたりを見回す

夏妃の爺さんがじっとこっちを見てるのに気が付いた

やっべぇ・・・・

見てるよ、すっごい見てるよ。ガン見だよ

・・・あれ?

なんか違和感に気が付く

あ、爺さんのアレ瞼に目を書いてやがる


「宇都宮 夏妃さん」

「はいっ!」


あ、夏妃の卒業証書授与だ

爺さんも他の人に起こされたようだ




------




その後は特に問題もなく卒業生退場まで進んだ

退場に合わせて音楽が鳴る

ビート〇ズのレット〇ットビーである

卒業式では定番だね

生徒2人がピアノとバイオリンで演奏している

ピアノを亜子が、奈々子がバイオリンである

あの二人そんなことできるんだな

卒業生は音楽に合わせて体育館を出ていく

だがそれから数分もしないうちに教員たちが慌ただしく走り回り始める

嫌な予感がした

俺は教員たちに気づかれないうちに玄関に向かった




------




体育館から玄関に移動した卒業生たちは壁に注目していた

そして壁を見た後に全員が宇都宮夏妃に注目する

「宇都宮夏妃は実父と肉体関係にある」

壁には大きくそう描かれていた

誰がこんなことを書いたのか

いや、心当たりはある

どうでもいいことだから気にかけなかったが

アレは卒業式で見かけなかった


「困ったものね・・・」


そんな声が聞こえた


「誰が書いたのかしら、これ?」


夏妃が問う

だが名乗る者はいない、その代わりに


「宇都宮さん・・・これ・・・」


卒業生の女子が問い返す


「半分正解と言ったところかしら?」


夏妃はあっさりと認めた


「誤解の無いように言っとくと性的虐待ね。私が好き好んだ関係ではないから。他に質問あるかしら?」


以前のように泣き出したり逃げたりはしなかった

吹っ切れた。と言うのか、気にしなくなった。というのか


「あ、俺の質問いいっすか?」


いつの間にかゴウダが目の前にいた

どうやらコイツも体育館から抜け出してきたらしい


「良いわよ。」

「ハイ、じゃあ聞きます。エロ本は役に立ちますか?」


この空気の読めなさである


「役に立たないので参考にしないように」


そしてそんな質問に答えるのである

このゴウダのKYっぷりに玄関の空気は完全に緩んでしまった

まぁ、助かったんだけどね


「過去のことはもうどうでもいいのよ」


そう言って夏妃は突然俺の手を掴む


「昔の傷は悠君が癒してくれるって言ってくれたもの」


そしてそのまま抱きしめられた


「う、宇都宮さん!その子とはどんな関係なの?」

「私のご主人様よ」


キャーと黄色い声が響く

恐らく女子たちは夫と言う意味のご主人様だろう

そして夏妃は違う意味でご主人様と言ったのだろう

黙っておこう。これは晴らさないほうがいい誤解だ





-------











今頃はあの女は泣きじゃくっているころだろう

僕の言うことを聞かなかったあいつらが悪いのだ

だからこれは罰だ

その男はそう考えて家に帰る

屋敷の門をくぐる


「あっ?」


しかし門の目前で屋敷の使用人たちに立ち塞がられる


「申し訳ございません。この先は私有地のため許可のない者は立ち入ることはできません」

「は?お前ら誰に言ってんの?」


いい気分に水を差された


「ほら、家の主が帰ってきたんだからとっとと退けろよ」

「申し訳ありません。ここは獅子堂家の私有地です。他の屋敷と勘違いしているのではありませんか?」

「何?お前新入り?この屋敷の獅子堂陽一だよ!わかっただろ!とっとと退けろよ!」

「申し訳ありません。この屋敷に獅子堂陽一と言う方はいらっしゃいません」


何を言ってるんだこいつは

コイツはクビだ。あまりにも無能だ


「ただいま。今戻ったわ」

「お帰りなさいませ。双葉様」


陽一の妹双葉が屋敷に帰ってくる

そして普通に出迎えられ門の奥へ


「おい、おい!双葉!こいつらに何か言ってやれよ!」


苛立った陽一は妹に叫ぶ。しかしその返事は


「失礼な方ね、初対面の人間に対して」

「な、何言ってるんだよ!お前何言ってるんだよ!」


陽一は苛立ちより混乱のほうが大きくなっていく


「なんだ騒がしい・・・」


陽一の父、獅子堂ジンクロウが屋敷から出てくる


「パパ!おかしいんだよパパ!みんなが俺のことを知らないって言うんだ!」


今にも泣きそうな声で父親に叫ぶ

だが無情にも


「お父様。知り合いかしら?」

「いや、知らん人間だ」


そんなことを言われた


「な、な・・・なんだよ。何がどうなってるんだよ!」


何が何だかわからないまま陽一は叫ぶ


「虚言を言い触らされても困るな・・・どこか遠くに連れていけ」

「畏まりました」


指示を受け使用人たちは陽一を捕まえ引きずっていく


「は、離せ!僕は獅子堂家の跡取りだぞ!パパ!パパ!」


使用人の中で一番年を取った者が聞く


「あの者、如何いたしましょう?」

「最近、内戦の激しい国からの不法入国が多いからな。丁寧に送り返して差し上げろ」

「承知しました」




-----




「失礼します。お茶をお持ちしました」


いつものメイドがノックもせずに双葉の部屋に入ってくる


「ありがとう」

「陽一と言う人間はこれで消えましたね」


「貴様からも多少の警告はしておけ、このままだと最悪の処遇になるとな」

父にはそう言われた

しかしそんなことは伝えない

あの男には消えてもらわなければ困るのだ

そのためにひたすら増長させた

上手く誘導し父からの評価を下げ続けさせた

本人の自覚がないままに


「計画は順調?」

「問題ありません。5年以内に達成できる計算です」


それなら良い

慎重に目的を果たそう


「4月からは2重生活が始まるわ。間違って名前を呼ばないようにね?」

「わかりました。千鶴様」


わかってないじゃない


「どこに自分の妹に様づけする姉がいるのよ・・・」

「あら、すいません癖で」


ほんと気を付けてほしい

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