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過去と傷と

2月も終わろうとする日


「ただいまなう」

「おかえりなう」


夏妃と洋子が帰ってきた


「あれ?亜子達だけ?悠君戻ってきてないの?」

「もう5時になるのにまだだね。なんか頼まれごとでもしてるんじゃないの?」


どうやら悠君に出迎えてもらいたかった模様


「ぐぬぬ・・洋子!」

「わかったわかった、荷物の片づけしといてやるから迎えに行って来い」

「感謝!圧倒的感謝!」


そう言って夏妃は跳ねるように走り出した

転ばないようにね~





-------





「先生、機材片づけましたよ」

「おう、ご苦労さん。手伝ってもらって悪かったな。鍵はこっちで閉めるからもう帰っていいぞ」


教員の手伝いを終え玄関まで来る

だがここで教室に鞄を忘れてることに気が付いた


「なんで手ぶらで気が付かないかね俺・・・」


教室で鞄を見つけ廊下に出ようとする


「こんばんわ・・・・」


最高に会いたくない存在が出口に立っていた


「こんばんわ・・・これから帰るところなんですが?」

「まぁそう言わずに、話を聞いてくれないかな?」


疑問形で言うならせめて出口は塞がないでもらいたい


「以前言った・・・」

「なれますよ。幸せに。絶対になります」


静かな空間に小さく舌打ちが聞こえる


「それは無理だと思うよ」


断言してきた。何か確信があるのだろう


「だって彼女は子供が産めないんだから」

「別に子供が生まれなくても不幸になるわけではありませんがね」


ちょっと驚いた、だが驚いただけで問題ではない


「彼女が理事長の孫とは聞いてるだろう?」


んなもん苗字で大体察しが付くだろう


「彼女は理事長とは血が繋がっていないんだよ」


気に食わない目つきをして嬉々と話す

-君のことを思って言ってやってるんだ-

そんな見下した目だ


「彼女の幼いころに彼女の母が死んだんだ。交通事故でね。

 そこから詳しいことは知らないが父親は彼女に暴力を振るうようになった

 傷害的な意味でも、性的な意味でも

 父親にとって彼女は都合がよかったんだろう

 何時まで経っても彼女には初潮が来なかったんだから」


嫌な話だ

なのにこの男はこんなにも楽しそうに笑って話している

-君に彼女は似合わない。彼女は君に似合わない-と


「理事長は君に夏妃さんを押し付けたいんだよ。だって子供が産めないんだから。価値なんてないじゃないか」


話の最中、廊下に誰かいるのに気が付く


「やぁ夏妃さん、いつまでも君が話さないから私が真実を伝えてあげたよ」

「あ・・・私・・・・わた・・・し」


今にも泣きだしそうな目をして震えている


「真実を知らないまま君たちが交際なんてしたら彼に失礼じゃないか」


アレは楽しそうに追い打ちをかける


「違う・・・違うの・・・・違う」


夏妃が廊下を走り出す。追いかけないと


「ははは!結局現実から逃げただけじゃないか!やはり君べふ!」


気が付いたら俺の右肘がコレの鼻を直撃していた

でもそんなことはどうだっていい。今は夏妃を追いかけないと


「ぎひぃぃぃ!鼻が僕の鼻が!痛い!痛いパパ~!」


すごい悲鳴が後ろで聞こえる。でも気にしないし気にならない





--------





学校の廊下の端で夏妃はうずくまっていた


「夏妃・・・」

「違うの・・・私・・・私・・・」


酷く怯えている


「寮に帰ろう・・・夏妃」


こういう時なんて声をかければいいのだろう


「私・・・悠君を騙すつもりなんてなかったの・・・」


騙されたつもりもない


「でも・・・本当のことを言ったら悠君が離れちゃうと思って・・・」

「離れないよ。昔は昔」


そんなことで離れるほど諦めのいい人間ではない

何より夏妃といると楽しい

ベタベタされたり、ベッドに侵入されたり、下ネタ言わされそうになったり

少々疲れることもあるが基本楽しいのだ


「私の体。汚れてるのよ?」

「俺が綺麗にするよ」


「私の体。女らしくないよ?」

「小さい方にだって需要はあるよ」


「子供・・・生めないんだよ?」

「それでもいいよ」


それでも夏妃がいい、夏妃じゃなきゃ意味がない


「でも・・・でも・・・」


ちょっとイラつく

グチグチ悩んでても始まらないのである


「悠く・・・!」


夏妃の頭を両手で掴む

そのまま唇を奪う


「・・・!!!・・・・・・・・・!!」


すごい暴れられる

夏妃の方が力は強い、本来なら簡単に引きはがされるだろう

腕に力を込める、今だけは絶対に離さない

と、思っていたが30秒ほどが限界だった


「う・・・うぅ~・・・・」


離れた夏妃はまた涙をボロボロこぼす


「夏妃、君は俺の物だ!俺の物になれ!」


なんか自分すごいこと言ってないか?


「悠君・・・強引すぎるよ・・・」

「強引なのは謝るよ」


でもそうしてでも


「俺は夏妃が欲しい」


この一言から沈黙が続く

後で確認したら10分ほどの時間

しかしこの時はすごく長く感じた


「・・・悠君」

「ひょい!」


突然名前を呼ばれて変な返事をしてしまう


「えっと・・・・その・・・」


夏妃はすっかり泣き止んでいる


「私を・・・悠君の物に・・・してくれる?」

「よ・・・喜んで・・・」


ムードも何もありゃしねぇ

でもこれで夏妃は俺の物である

絶対に離さない

そう心に誓った

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