接触
翌日早朝
夏妃さんはもはや「ぬ」と「ね」の区別がつかない顔をしていました
あの戦いのあと速攻で帰還
荷物を降ろして速攻でセイレーンの機体を回収に向かった
しかしそこには何もなかった
無残なスクラップの山も
セイレーンの機体も
その後判明したことだが何者かがネットの掲示板に
--南大陸中央・原生大森林に大量のBWの残骸があるらしい--
と流していた
まぁ犯人はアイツだろうね!
結果夏妃が一生懸命作った機体「ヘヴィバレット」は完全にロストしたのである
「なんだ?朝から出かけるのか?」
外出しようと玄関で靴を履いていると洋子に声をかけられる
「ちょっと用事があってね」
「んー、いってら~」
校門前のバス停からバスに乗り街に向かう
目的地はどこにでもあるごく普通のファミレス
「いらっしゃいませ~何名様でしょうか?」
「あ、あの人と待ち合わせです」
店内の角にいる人物に指をさす
そのテーブルには青のメタリックのスマホを立てていた
テーブルを挟んだ反対の席に座る
「はじめまして{旧}6番」
「はじめまして{旧}4番」
皆には話してないが森から帰る途中に個人チャットで連絡が来ていた
相手は例のGM
「大事な話があるので6番と直接話がしたい。4番より」
脱退した昔の4番が運営側にいるとは思わなかった
そしてファミレスには不釣り合いなほど
優雅なしぐさで
パリッとしたスーツを着こなし
ごく自然にコーヒーを飲んでいた
「すいませんホットココアください」
「かしこまりました」
とりあえず飲み物を頼んでおく
「では本題に入ってください。この後買い出しとかしなきゃならんので」
世間話とかはめんどくさいのでさっさと本題に入って終わらせよう
「余裕がないねぇ・・・まぁいいだろう」
「今から話すのはGMとしてではなく過去の4番としての会話だ。そう思ってくれ」
運営が1プレイヤーに肩入れするのは良くないことだ
だからあくまでプレイヤー同士の情報交換ということだ
「まず1つ」
「昨日君たちが戦ったプレイヤーだが個人が特定できたので垢BANされたよ」
やはり何か不正な行いをしていたようだ
「2つ、アイツが使っていたのは過去に猛威を振るった
|As extension, so is force《伸びとともに、力あり》の変種だ」
As extension, so is force
数年前まであらゆるネットゲームで不正使用されていたチートプログラムだ
ネットゲームである以上は個人の回線由来の遅延、ラグは必ず起きてしまう
その遅延をどうやって減らすかがネットゲームの命題でもある
例えば一件弾丸を撃ってから対象に命中するまで誤差コンマ1秒に見えるが実際の内部処理は発射と同時に命中判定が行われていたり
例えば爆発物の接触判定を接触者に依存していたり
このチートプログラムはそれを悪用したものである
故意に極めて小さな回線ラグを発生させ、その一瞬で被弾判定の性質を特定・計算し最も自然な形で回避したように見せるプログラムである
このプログラムがネット上に蔓延し多くのゲームが被害にあった
そこまではまだ良かった(全然よくない)
その後プログラムを入手しようとした素人が悪質なウィルスに引っかかったり
荒らしによって関係のないブロガーが犯人として扱われ炎上したり
その製作者がバレットナンバーズの創設者の1番だったことが知られたり
バレットナンバーズに逮捕者まで現れる事態になった
「今のところ変種は配布はされていないようだ。が、気を付けておいてくれ」
「OK」
正直この一件で俺はガチ勢であることに冷めてしまった
エンジョイ勢が違った方向に楽しいってこともあるけどね
「変種は誰が作ったのかは知らない?」
「残念ながらそこまでは知らないな、そこからは警察の仕事だし。あ、通報はしたよ」
1番・・・今何やってるのかね。
「お待たせしました」
ココアが来たので飲みながら話を聞く
「んでここからは伝言な」
ん?
「「やあ6番頑張ってるようなのでご褒美あげよう。北の諸島まで来い」だそうだ」
「ケニング?」
「ケニングだな」
いやだな~関わりたくないなぁ
旧バレットナンバーズの10番ケニング
言ってしまえば変人である(ロマンの塊ともいう)
ある時は火力、射程、弾数を極めた機関銃を作り(ただしフルオートで2秒で壊れる)
ある時は超高精度・一撃必殺なライフルを作り(ただし1発ごとにリロードで所要時間12秒)
これを変人と言わずしてなんという
「これはアレだね。「実験台欲しいから参加シクヨロ」ってことだね」
デスヨネー
当然拒否権はある
ただし拒否すると承諾するまで何度もメールが来る
スパムもびっくりなほどである
「よし、今の仲間も巻き添えにしてしまおう」
主に夏妃あたりを
「酷いやつだなぁ・・・」
失礼な。もしかしたら夏妃の機体が入手できるかもしれないではないか
入手できる{かも}しれないではないか
「よし、そんなわけで買い出し行くか!支払いよろしく!」
「おいぃ!自分で勝手に注文したのにこっちで金払えってか!」
「奢るのは大人の義務で奢られるのは子供の特権なのサ!」
とりあえず近くのデパートに行って消耗品買わないとね