昔話
今から少し前の話をしよう
バトルウォーカーは国によってサーバーが別になる
海外のプレイヤーと戦うためには国際サーバーの「カオスサーバー」に移動しなければならない
しかし現実には先にカオスを占拠したプレイヤーによるリスポーン狩りが横行していた
入念に準備して、大量の物資を用意して、覚悟を決めたプレイヤーは移動後1分程度で狩られた
そんなもんだからだれもカオスには行かなくなった
攻略、情報サイトを見ていないプレイヤーがたまに来て奪われる程度になった
明確に自分より弱い相手を一方的に嬲るのは多くの人間にとって気持ちが良いものなのだ
現実、仮想問わず歴史がそれを証明している
カオスサーバーで有名な部隊がいた
「Holy」と名乗っていた
はっきり言ってアメリカでもすさまじく嫌われていた
様々なゲームでプレイ動画を投稿して初心者狩りや組織的行動でランクを上げる
しかし決して利用規約には違反しないのである
「規約には違反していないから文句を言われる筋合いはない」
「文句を言うやつは言い訳しているだけの弱い奴」
「文句があるなら勝ってみろ」
マルチゲーム荒らしともいわれる存在
彼らが動画にしたゲームは大体がマナーが悪くなってサービス終了になる
訴訟した運営もいたが敗訴している
とにかく規約の穴を突き
規約が変わると即座に対応を変えて新しい穴を探す
その日も日本のサーバーから部隊が来ると知っていた
どうやって知ったのかは明確になっていない
おそらく日本のプレイヤーから情報を買っていたのだろう
奴等が最高に調子に乗っていた時期でもあった
生配信を始めたのだ
配信タイトルは「優しい俺たちが情弱ジャップモンキーに現実の厳しさを教えてやる」
似たような奴らはもちろん興味本位の奴らも見ていた
俺はタイトルの時点で不愉快だったので公式配信された日本のアニメを見ていた
やっぱロボットアニメは20世紀産が素晴らしい
セル画で作られた作品には独特は美しさがある
脱線した
俺が知ったのは全てが終わってからだった
ネットのゲーム系ニュースのタイトルを見つけたのだ
-「Holy」が現実の厳しさを教えられた!!-
急いで生配信の履歴を再生した
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「ヘイ!ファッキンジャップ共が来るぜ!」
ゲームの処理にわずかな負荷がかかる
サーバー移動が開始された証拠だ
「Holy」の部隊人数は80人
今日は65人が集まった
機体も最高の状態だ
ほとんど被害もなくすぐに終わるだろう
「来たぜ!ぶっ殺せ!」
1機目が出現した
65機で一斉射
倒したらすぐに2機目が来た
3機、4機と次々に来るがすぐにスクラップになる
「ヒャハハハハハ!」
心底楽しくて笑いが出る
6機目でその笑いが消えた
「野郎!避けやがった!」
15機が6機目を追う
中距離でショットガンを撃つ
そんな距離で散弾を撃たれれば回避などできない
マズルフラッシュが消えたときには目の前にソイツはいなかった
それに困惑したのは自分が死んで現実に戻った時だった
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50機は容赦なく弾丸を撃ち尽くした
敵はほとんどが撃破され余裕だった
「ヒュウ!気持ちが良いぜ!」
全機が一斉にリロードを開始する
「1機残ってるぞ!そっちにいっ・・・・!」
50機の一斉リロード
その隙を突かれた
それは隙と言えるのかはわからないが
1機が上半身を吹き飛ばされた
全機が散らばりリロードを急ぐ
「何だあの切れ味!」
「日本のカタナかよ!」
1機につき一閃
それで1人が死ぬ
右手にカノン
左手にソード
機体はやや細身の2脚
真っ黒な機体に赤く光るカメラが見えた
「クソが!」
リロードが終わった機体が一斉に発砲する
瞬間
黒い機体が強烈な閃光を放つ
閃光の正体はほんの一瞬だけ吹いたスラスターだと知ったのはフレンドリーファイアで動けなくなった後だった
そして動けなくなった自分の機体を踏み砕く敵が最後の光景
画面が暗くなり現実に戻された
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「Holy」のリーダーが困惑する
他のメンツも狼狽えている
あっという間に動ける機体が減っていく
配信時間は10分程度
投稿コメントは今までにない多さ
自分たちが負けそうになっているのがウケている
それが気に食わない
だから起動した
自作のプログラムを
通信回線を自動制御で絞る
それだけのプログラム
敵の動きが止まる
狙いを定めて発砲
その回避できないはずの攻撃を簡単に避けた
味方が惨殺されていく中で漆黒の機体がカメラを赤く輝かせ
確実に自分に近づいてくる
プログラムはちゃんと動いている
敵の動きはちゃんと止まる
なのに着弾することなく避けられる
予知能力でもあるのかと思うほどの反射神経
もっと強く回線を絞る
それでも避ける
もっと強く
もっと強く
そしてリーダーは絞り過ぎて回線が切断される
配信も終了してしまう
再度ログインしたがすでに死んでいた
12時間待たなければいけない
配信していた動画サイトにアクセスする
なぜかログアウトになっていた
ログインするが
「存在しないアカウントです」と表示された
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諦めてから翌日の早朝
自宅の呼び鈴が鳴る
両親がドアを開けて自分の部屋にやってきた
そして俺は逮捕された