怒り
気が付くと教室の前に立っていた
「あれ?」
自分が何をしようとしていたのか思い出せない
思い出せないので仕方がないから教室に入る
「お!来たな人殺し!」
「おはよう人殺し!」
クラスメイトに挨拶をされる
「おはよう」
いつも通りの光景
「よぉ人殺し、今日のニュース見たか?」
ゴウダが話しかけてくる
「いや、見てないと思う。っつか覚えてない」
「あの売国奴の麻上周郎に隠し子がいたんだってよ」
「へぇ・・・」
ゴウダは話を続ける
・・・・さて
「皆ちょっと聞いてくれないか?」
「遥?」
クラスメイト全員に聞こえるように問いかける
「お前らは誰だ?」
そう言うと教室とゴウダ達が崩れていく
残ったのは真っ白な空間
そして目の前には光る球体が残っていた
「長く騙せるとは思っていなかったが速いな君は」
「誰だお前?」
「君達人類を管理するもの・・・・」
「神様にでもなるつもりか?」
「この世に神などいないよ」
球体は語り始める
「神は人間が作り出した幻想だ。そして人類は広範囲に広がった結果、複数の神を想像した。
そして自分の神を信じて、崇拝して、正義として、他の神を悪と断じて廃絶しようとした。」
「それが何か?」
「それでもよかったのだろう。自分たちの領域に引き籠っていれば。だが君たちは信仰を理由に侵攻を始めた」
それが今の状況と何の関係があるのだろうか
「神と信仰を理由にしているが結局は君たちが利益を欲しがったためだ
利益のために殺し、燃やし、犯し、汚す。人類は限界が見えないのに限界に近付いている」
「そういうのはいいからさ。さっさと要点を言ってくれないか?」
「即物的だな・・・我々は管理するために生み出された存在だ。我々が人類を管理する」
結局は支配したいだけか
「俺にあんなもの見せた理由は?」
「人間の本性を知っているから君に見せた。なぜ君があそこまで平然としているのか驚いたが」
あれが本性?とんでもない勘違いだ
「あんなことは起きないよ」
「彼らが君の過去を知らないからだ。知ればああなる」
「ならないよ」
「なぜそこまで言い切れる。彼らを信じているのか?」
「お前はわかってない。利益とか利点を物質的にしか見てない」
「どういう意味だ」
「精神的な意味で利益と利点が人間にはあるんだ。俺の過去を知ったら・・・」
精神的な優位性
つまりはイジメ
何かが貰えるわけじゃない
だけど攻め立てる
ただ楽しいから
他人を見下すのが楽しいから
目の前で泣き崩れる他人が面白いから
自分が眼前の他人を傷つけることで自身が強いと思えるから
「なるほど、理解し難い」
「だろうな」
「そんな世界に生きていて楽しいか?」
「楽しいとかじゃない。死ぬのが怖いだけだ。生きるのが辛くても死ぬのは怖い」
「そうか、ならばやはり君はこちらに来るべきだ」
「こちらとは?」
「我々が人類を完全管理する世界」
「そんなものは不可能だ」
「不可能ではない、人類すべてを仮想空間に押し込めば可能な世界だ。それを実現できる処理能力が私にはある」
「俺に尖兵になれと?なぜ俺だけ?」
「君は他の人類と脳の動きが違う。人類よりも我々の処理能力に近い」
俺は特別と言いたいようだ
「君はこのまま生きても辛いだけだろう、いずれ彼女たちにも君の過去は知られてしまうだろう」
「なぜ知ってる?」
「先ほど君の言う精神的というものは理解できなかったが情報であれば我々はすべて知っている
君の父が祖父であること。その事実を知り、殺害されたのが忰田洋子の父であること。
その事故に巻き込まれたのが宇都宮夏妃の母であること」
協力しなければそれを公開するという事だろうか
「脅迫か?」
「脅迫ではない。すでに聞こえている」
後ろに気配を感じて振り返る
「・・・夏妃?」
セイレーンの表情からは憎しみを感じた
「遥君。本当のことなの?」
「そうだ」
「この前から言い出せなくて悩んでいたことってそのことなの?」
「そうだ」
「そう・・・そうなの、それは許せないわね」
当然だろう
嘘や黙秘はいつかバレるとはわかっていたが
俺の幸福に満ちた生活はこれで終わりだ