後悔
毎日のように書類に目を通す毎日
祖国を思い首相にまで上り詰めたものの
そこで待っているのは陰口を叩かれ
売国奴を始末することもできず野放しにし
クソッタレなメディア共に嘘を書かれ
都合のいいことしか見ようとしない少数が大多数であるかのように大声で叫ぶ
うんざりだ
それでも自分を信じてくれている国民がいる
それでも真実を見極めて支持してくれる者がいる
だから今日も
「もう1日だけ頑張るか」
という気分になる
そんな鬱屈してる時に彼女はやってきた
昼食を摂ろうとしたときである
「君。何か騒がしいが問題かね?」
声をかけられた者が気まずそうに答える
「あ、えっと、実は裏口に身分証のない女が入らせろと居座っておりまして」
「バイタリティ溢れた女だな。アジア系か?」
現在国内は人種差別が広がりつつある
無法地帯からやってくる戦車の侵攻を何とかしろというものだ
国内でフェンスから軍を撤退させろという抗議が増えてきた
同時に国内のアジア系移民がスパイなのでは?という根拠のない噂も広がってきた
まぁ広げてるのは無法地帯から逃げてきた奴らなのだが
「アジア系というか~・・・その、日系人でして」
「あっ・・・・」
思わず察する
このタイミングで来る日系の女って1人しか思いつかない
「名前を聞いてカオリ・モリグチという名前だったらここに案内しなさい」
「え、いいんですか?」
「あぁ、嫌だが来てもらわなければいけない女だ」
「・・・分かりました」
警備員にも確認する
「君たち、これから始まる出来事はすべて忘れるように」
「は!」
「あとたぶん流血沙汰になるが絶対に危害を加えないように」
「それは無理かと」
「大丈夫だ。多分口を切るくらいで済むはずだ」
「いや、しかし」
「頼む。ここで抵抗するともっとややこしくなるかもしれないんだ」
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勢いよく執務室の扉が開かれる
蝶番が少し歪んだ音がする
しかし入ってきた女は気にすることなく私に迫ってくる
「や、やぁ。こうして直接会うのは・・・・」
最後まで言葉を発することなく強烈な平手打ちを食らう
「10年ぶりくらいかしら?久しぶり」
思わず尻もちをつく
せめて言い終わってから叩いてほしかった
思い切り口の中を切ってしまった
「ひどいことをする」
と、言いたかったが彼女の声は非常にドスの効いたものである
口答えをする間もなく胸ぐらを掴まれる
「あ、あの。これ以上の暴力はやめていただきたいのだが」
「アンタの回答次第よ。遥に全部バラしたの?」
「ぐ、それどう答えても叩かれるのでは?」
yesと答えれば「なんでバラした」と叩かれるだろう
noと答えれば「嘘つくな」と叩かれるだろう
「何?殴られるってわかっててバラしたの?」
「あの~その・・・」
「・・・・・復讐?」
それは違う
彼は何の非も無い
「・・・・・・・・・八つ当たりだ」
「今度はグーで行く?」
「勘弁してください」
彼女は飽きれた表情で私を開放する
手慣れたもので脳にダメージはなかった
口の中は散々だが
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彼女。森口香里には妹がいる。いた。
森口志桜里という
姉は女ゴリラなんて言われるほど暴れまわる性格
ただしカリスマがあって人気もあった
妹は深窓の令嬢なんて言われるほど御淑やかな性格
当然人気者
自慢なのだが
森口志桜里と私は学生時代交際関係にあった
当時のクラスメイトにはすごい妬まれたものだ
高校2年の終わりにその関係は突然に終わりを迎える
彼女が妊娠したと告げて消息を絶った
当然私の子ではない
ストイックな関係を続けていたのだ
周囲からはヘタレと言われていたが・・・
探そうと思えば探せた
自分の子供ではなくとも彼女の子なら愛せた
だが政治家になるにはそんな彼女と結ばれるのは致命的な弱点にもなった
父親があまりにも問題だった。二つの意味で
だから私は彼女を諦めた
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「メンドクサイことになってんのよ。わかる?アンタのせいよ?」
「分かってる」
「じゃあ何とかしなさい」
「君はどうするんだ?」
「私だって自分のできる範囲で行動するわよ。家族だもの」
「会うのか?」
「会えないわよ。会う資格がない」
「なんで?」
「ちゃんと自分の息子だって考えてたんだけどねぇ・・・・」
香里は苦虫を噛んだように辛い顔をする
その表情は凄まじい後悔を感じさせる
私も過去を思い出すたびにそんな顔をするからだ
「志穂が死んで参ってたのよ・・・いや、それは言い訳か」
志穂とは彼女の娘である
生きていれば森口遥の一歳下である
「「お前なんて生まれてこなければよかった」って・・・」
「そうか、致命的だな」
「それからあの子私に頼らなくなってさ、全部自分でやるようになって。出来ちゃうようになって」
これは偶然だろうか
「香里、お前に話さなければいけないことがある」
「何?」
「複数の国家と情報交換するハッカー集団がいるんだ」
「それで?」
「麻上周郎関係で話したいことがあると私だけに連絡がきた」
「アンタそれって」
「君の行動も読まれているかもしれん。奴らと話してみるか?」
「いいの?」
「あぁ、おそらく了承するだろう」