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「ほら、似合う似合う。元がいいんだから、もっとおしゃれすればいいのに」
あやかは、今日もばっちりメイクを決め込んでいる。
あたしといえば、すっぴんだ。
せいぜい、眉を整えるくらい。
「静かに!転入生を紹介する!」
ざわざわ。
教室中がざわめいた。
こんな新学期から、いきなり転入生とか。ここから愛が始まるのね。なんて思うだけ無駄~。
男子にときめいたためしは今のとこない。あやかにときめいたほうが多いくらいだ。
あれ、あたしやっぱり変?
変かもしれない。
まぁいいか。
かわいくて綺麗な女の子は大好き。
男子なんてむさくるしいだけで、体操服もろくに洗わないから、夏になるとロッカーの匂いがひどいっての!
はいてる上履きは、新学期だってのに、一年の頃のように黒ずんでいる。洗うこともしないなら、せめて買い換えればいいのにさ。
入ってきたのは、どこのアイドルですかってくらい、顔の整った、金髪碧眼の少年だった。
きゃーっと、女子生徒が黄色い悲鳴をあげるのも無理はないだろう。男子生徒と、同じ性別なのかって思うくらいに細くて白くて、睫なんてもう頬に影を作るくらいだ。
「名前は、えーとなんだっけ、君?」
担任は、その少年を見る。
「サレイ・リア・ユーベルク。イギリス出身で、貴族の血も引いています」
男子生徒の嫉妬の視線がうざいことこの上ない。確かに、貴族にいそうな、中世ヨーロッパが似合いそうな子だった。
丁寧な日本語は発音も完璧。
「席はそうだな。市ノ瀬の隣だ。おい、市ノ瀬!」
「あ、はい!」
「やだ、うらやましい」
「いいなぁ」
いや別に。綺麗な子だけどさ。人形みたいで、なんかちょっと気味悪い。
整いすぎた美貌ってのも、なんだかなーと、あたしは隣の席に座ったサレイだっけ?そんな名前の子の顔を見た。
「今日から、よろしく。やっと見つけた」
は?
なんですか。
運命の、赤い糸ってやつですか?
あたしは、教室を飛び出した!
「おい、市ノ瀬!」
「うううううんこ!!!」
どっと、去っていく教室で笑い声が巻き起こる。
そんなの問題じゃない、死活問題はこっちだっての!
あたしの腹は、よく急に痛くなってクソしたいと、腹痛を訴える。
そんな時、あたしは「うんこ!」といって、教室を飛び出して、和式は嫌いなので、洋式の女子トイレの便座できばるのだ。
ああああああ!
やっぱ今日もか!
紙がねぇ!!
「紙がねええええ!!!!」
叫んでも、みんな授業中。あたしは、こそこそ、隣のトイレからトイレットペーパーだけ拝借した。
やっとすっきりして、女子トイレの個室を出ると、サレイが立っていた。
「ちょ、ここ女子トイレ!この変態!」
「あー、これはリクの好みにはあわんなぁ。しかし、これしか向こうの世界に飛ばすことはできなさそうだ。水晶玉にうつっていたのもこれだし」
あたしは、これ呼ばわりする、サレイに蹴りを放った。
「ここ女子トイレなんだからね!」
「サレイの名において、扉よ開け!」
「あ?」
あたしは、サレイの手にたくさんの光が集まっていくのを惚けて見ていた。蹴りは、余裕でかわされた。
たくさんの、誰か分からない、まるで祈祷するような声が、遠くからどんどん近づいてきて、あたしは半分涙目になった。
怖い。
怖くて、声がでない。
「シャナの世界へ!ワールドゲートオープン!サレイが花嫁を連れ帰ると、リクに伝えてくれ、長よ!」
「了解した」
真っ白になっていく視界。
あたしは、息を飲み込んだ。
眩しくて、目を瞑る。
そして、目を開けた時、そこは学校ではなかった。ぶつぶつと、祈祷するように呪文のようなものを唱える、フードをかぶった魔法士たち。
中心に描かれた、かすかに光る円陣の中心に、あたしは立っていた。
呆然となって、その場にへたりこむと、少年の姿から青年の姿に変化していたサレイが、恭しく、あたしに手を差し出した。
「夢?」
「いいや。異世界よりきたりし花嫁。あなたは、私たちが、リク陛下のために召還した、花嫁だ」
「えっと」
「?」
とりあえず、あたしは一言。
「トイレ、どこですか?うんこもれそうです」