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「髪も、少し茶色が目立ちますわね」
いや、それ天然だから!
ブリーチしたり色抜いたわけじゃないから!
妹のすみれの頭なんて、茶色だよ!
あたしの黒髪も、少し茶色が混じっている。全部、母さんの遺伝子のせいだ。
あんなふわふわな、天然パーマの明るい茶色の髪、ハーフでもないし、手を加えたわけでもないのに。
母さんの髪が、実はうらやましい。
あんなふわふわだったら、きっとフリルやらレースとか似合っただろうなぁ。
あたしの髪、ストレートヘアとも天然パーマともとれない、中途半端。
くるりんと反り返った髪に、ストレートパーマをあてるだけの小遣いはないし、この高校バイト禁止だし。
あーあ、選ぶ高校間違えたかなぁ。
でも、この高校が一番家から近いんだよね。必要偏差値も高すぎず低すぎず。
ちょうど、あたしのおつむにぴったり。
おむつじゃないよ。おつむだよ?
あたしのおつむなんてくるくるぱー、のようで、実は勉強はこの学校ではそれなり。
だからかな。
雪原のばばあに呼び止められるのは。
もう少しで、進学クラスに届くその成績。
普通科の他に進学科があって、その連中は毎日辞書やら参考書やらとにらめっこしているような連中ばかり。
無論、頭もいい。
この公立の学校の誇りだろう、その存在は。
私立の有名大学への合格率も多い。
あたしは、1年の時の成績がよくって、普通科にいるのはもったいないと、担任からほとんど無理やり、進学科クラスへの編入テストを受けさせられた。
結果は、灰色。
進学科に入るほどよくもないし、普通科においておくにはもったいない。
そんな、中途半端な。
雪原のばばあが、あたしの話を聞いて、もう少し勉学に力を入れてはどうですかと、進言してきたくらい。
もうちょっとで、進学科のクラスに入れたらしい。
でも、勉強ばっかりの進学科のクラスなんて入りたくないし。
かといって、希望している大学に落ちるような成績になりたくない。
中途半端なんだ。
どっちだって、はっきり決められないの。
「3日後には実力テストがありますわよ」
さぁ、勉強しろといわんばかりの雪原の台詞あたしはうんざりした。
とりあえず、他の茶髪の生徒を見つけて、雪原は目の色を変えて叱責をはじめる。なんとか、あたしのスカートが短い件は、見逃してもらえたみたい。
いやなのに気に入られたなぁと思いつつも、成績がよければちょっとくらいの不良じみた行為を許される。
実は、今年の春からピアスをつけだした。
無論、すでにあのばばあにはばれたが、ピアスのことは触れてこなかった。
ぶつぶつと、遠くで優等生の一時の反抗期とそんな雪原のしゃがれた声を聞いて、あたしは天を仰いだ。
このピアス、両方で一万円もしたんだから。バイトができないあたしには、大金だよ。
ルビーらしいけど、桜みたいに少し色が淡くて、すぐに気に入って店員さんに声をかけた。実は、どんなのを買おうが凄くドキドキしてた。
そう、まるで恋する男の子に少し近づいた、みたいなそんなリアルなドキドキ感。
「やっるう!」
教室で、親友のあやかが、あたしの両耳のピアスを見て、ブイサインをしていた。
あやかの耳には、いっぱいピアスが、痛いくらいに飾られている。あやかは、先生からいえば、不良のどうしようもない生徒だろう。
でも、性格はいいし、いじめにあってた子を助けたり、ほんとに優しい。
下級生からも慕われている。
あやかは美人なので、告白してくる同級生や先輩の男子はあとを絶たない。
だが、あやかには大学生の彼氏がいて、乗り換える気はないらしい。
「ほら、あの子。さくらのことが気になってるんじゃないの?」
じっと、こちらを見てくる、どこにでもいそうな男子生徒をくいっと、親指でさししめすあやか。
いや、それはないだろう、あやか。
あたしが男だったら、迷わずあやかに惚れ込むよ。
あやかの恋人になりたいくらい、好きだもん。
あ、あくまで男だったらね。
百合の趣味はありませんから~。
あたしは、自慢の黒と茶色が混じる長い髪を、あやかに編みこんでもらって、上機嫌だった。