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桜咲く、サクラ

春になったばかりの、柔らかい日差しを全身に浴びて、あたしこと、市ノ瀬さくらは、ゆっくりと、学校に続くその道を歩き出した。


「うおー、ねむってー」


強烈に眠い。

もうベッドが目の前にあったら、そのまま寝たい。


ゆっくりと伸びをすると、チュンチュンと雀が頭の上をいきかっている。


毎日見慣れた風景。


話は、1時間ほど前に遡る。


「さくら、起きろこらぁ!」


実の母親に、えびぞりを決められて、あたしはすぐにギブアップした。


「ギブギブ!もうだめ!」


ばたりと、ベッドにつっぷした。


「今日から新学期でしょ!早く飯くって顔あらってクソして着替えていってきなさい!」


綺麗な顔して、母さんはちょっと下品。

いや、あたしがそう言いきれるほど、あたしは上品じゃないけどさ。


ほかほか湯気をあげる朝食を食べて、あたしはトイレにかけこもうとした。


「だー、すみれ、早くでて!クソもれる!!」


すみれは、あろうことか、トイレの中でお父さんの真似をするみたいに漫画を読んでいた。ここらへん、新聞じゃないとこが子供らしい。


すみれはあたしの実の妹。名門の私立小学校に通う、あたしとは似ても似つかぬくらいに頭のいい妹。


将来は東大だの、すでにちやほやされている、両親から。


それがうらやましいとは、別に思わなかった。だって、あたしもちゃんと両親から愛されていたから。


すぐにプロレス技をかける、美人な母さんに、ちょっと臆病だけどかっこいい父さん。


自慢の家庭だった。


「うるさいわね、さくら姉」


すみれは、ジャーと水を流すと出てきた。あたしはすぐにトイレに閉じこもる。


そしてクソをひねりだす。



おおおお。

おおおおおおお、やっぱり、紙がねえ!!



「うおおおお、紙がねえええ!!」


叫んで、なんとかすみれにトイレットペーパーを持ってきてもらった。


市ノ瀬さくら。名前だけは、かわいらしい。自分でも、外見だけはそれなりに愛らしいと思う。


今年高校2年生になる、16歳。

ピッチピッチの女子高校生。


出したうんこはほっかほっかだったけど。


いや、そんなこと考えてる場合じゃねーっての!


遅刻する!

遅刻、遅刻!


うちの学校は公立だけど、遅刻とか欠席に煩くて、遅刻が10回重なれば、両親を呼び出された挙句に、反省文を書かされる。


もう何度それで怒られ、反省文を書いたことか!


くそう、風紀担当の教師、雪原がにくい。あのおばはん!


スカートが1センチ短いだけで呼び止めやがる。


黒髪は基本中の基本。中には金色に髪をブリーチしている連中もいるけど、いっつもあのばばあに注意を受けて、生徒指導室に呼び出されていた。


そんなのごめんだ。


せっかく公立に通うんだから、ピアスも化粧もして、髪も茶色に染めようと思っていたあたしの計画は、あのばばあのせいで粉々に崩れ去った。



あんなばばあ、はやくどっかに転任しちゃえばいいんだ!


「市ノ瀬さん!」


びくり。

あたしは、遅刻ぎりぎりで校門をくぐったのに、あの雪原のばばあに目ざとく名前を呼ばれてしまった。


「スカート、短いですわね」


ねちねちとしたその視線。

そりゃ短いだろうさ!

母さんに内緒で、3センチばかり短くしてて、自分でミシンで縫ったんだから!


たった3センチなのに!

ああ、3センチがうらめしい。


元々、この高校の女子の制服は、セーラー服だけど、スカートはどうしても短くする生徒が絶えないため、膝上になっている。


それをさらに短くしただけなのに、何が悪いのよ!

別におばはん、あんたに迷惑かけてるわけじゃないんだからさー。


それに、一部の連中みたいにパンツが見えるかもってくらいに、短くしているわけじゃないし!


なのに、このおばはんは、あたしことをいつも、呼び止める。


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