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まぁ、マリリアージュ王妃とリク王はそれは仲むつまじい、デブの王妃と細い王。
デブもここまで極まったかと、家臣たちは溜息を零すが、決してマリリアージュの性格が悪いわけではなかった。
ほとんど動くことがなかったが、民思いで優しく、気品は豚のせいで感じられなかったが、その心は清く気高く、リクの妻にはぴったりだった。
ただ、その体重が。
ダイエットを侍女に薦められて何度も挑戦し、失敗してリバウンドするマリリアージュ。細くなって、綺麗なドレスをきて娘と夫と仲良く暮らしたいと、泣けるような努力を影でしていた彼女。
その姿を知っているからこそ、誰もマリリアージュ王妃を責めることはしなかった。自分のせいで王国の金庫が傾きかけていると知ったときの彼女の嘆き。それから、珍味はやめて普通のありきたりな食事をするようになった彼女。
家臣たちに笑いかける、太陽のようなその笑顔。
享年22歳であった。元々体が弱く、よく熱をだしていた。リリエルが王宮にある泉に、冬のある日スケートして、氷が割れてしまい、愛しい娘を助けるために身を呈した。
凍える水温にも省みず、なんとか娘を氷の上に戻したはいいが、マリリアージュはその体重のせいで氷の上に戻ることもできず、体温は冷えてそのまま帰らぬ人となった。
リクが、国内視察をしているときの悲しい事件であった。
「マリリアージュ。俺はお前だけを愛しているというのに。別に、後妻などいらないのに」
悲しげな声音で、リクは玉座の後ろにある、飾りも何もなく、その豚な体をあるがままに描いた肖像画に語りかける。
ホロリ。
「ぶひ、ぶひ!」
豚を強制退場させて、家臣たちはみんな涙を浮かべる。
確かに彼らは愛し合っていた。王夫妻は。
絵になるような美男と、絵にならないようなブタ女だったが。
「陛下。恐れながらに。最後の、召還で本当の異世界の、花嫁を召還してしまった由にございます」
「なんと」
リクも、口をあけて、それから仰いでいたうちわを転がした。
連れられてきた美しい、見たこともない衣服をきた少女は、リクを見るなり一言。
「ブタ専!だれがあんたなんかの花嫁になるか、ばああああか!」
のりは、どこか魔法士サレイに似ている。
黒髪黒目の、まだ十代後半くらいとおぼしき少女は、リクに悪態をついて、思いっきり舌をだすと、リクの前ですかしっ屁をかました。
美しいのに、勿体ない。
家臣たちは、みんなそう思ったそうな。
リンドウは、声をのむ。
昨日あった侍女である、と。