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「サレイ様以下、魔法士たち数名が描いた円陣を中心に祈祷すること1週間。召還は成功しました」
呼び出された魔法士の長が、恭しく、リクに頭を垂れた。
「へー」
興味なさそうなリクの声。
それもそうだろう。リクはまだ、亡くなった王妃のことを心から愛している。
その肖像画を玉座の後ろやら自室だけでなく、王宮中に飾らせるほどに。その王妃が亡くなったのは4年前。後妻を迎えるにはまだ早いかもしれないと、リンドウは思う。
しかし、世継ぎであるリリエルは女の子であり、本来認められている男子の王位継承者ではない。まぁ、法など王が改正すればそれですむのだが。
亡き王妃譲りで、リリエルは体が弱い。万が一のことを考えて、家臣から新しい王妃を娶ることを進言される毎日。
うっとうしくなって、リクはある日こういった。
「じゃあ、異世界から召還できたら、その子を王妃にする!」
ふふん、どうだ。
手も足もでまい。
そう思っていたのに、魔法士たちは、古代図書館の文献を漁りだして、異世界から人間を召還する方法を、ついにはつきとめてしまった。
「召還には、4回成功いたしました」
ざわりと、他の家臣たちが色めきたつ。一気に、四人も正妃と認めなければならないのか。少し無理はないか、と。
「まずは、こちら――1回目の召還で成功した者でございます」
「あんだね?王様がなんかようかね?」
プルプルプル。
小刻みに震える体は、高齢からのものだろう。どこにでもいそうな、ああ、顔を見たことがあるとリンドウは思い出した。
確か、厨房によく孫娘と一緒に畑でとれた作物をおさめにくる、どこかの村の村長だ。
「あんだね。王妃にされると聞いたんじゃがの。ホッホッホ」
ポッ。
村長は頬を染めた。
「ホッホッホ。いや、ドレスなんて似合うかのお?ばあさまに悪いのお。あはん」
「きゃっかああああ!!」
ぐいっと、リクは白い紐をひっぱり、その村長を連れてきた魔法士の頭にタライを落とした。
ゴン、ガン。
そのまま、倒れた魔法士と一緒に、村長は退場した。投げキッスを受けて、リクは投げキッスを避けた。
それは、リンドウにむにゅっと、押し寄せた。
ぜはーぜはーぜはー。
リクは全身で汗をかいている。
「自国の民を召還してどうする!阿呆が!」
お前にいわれたくないよ。
その場にいた全員が皆思った。
今のリクの衣装は、バカ殿の顔をプリントアウトした、見るからに阿呆そうな衣服であった。
「次!」
「次の召還成功の者にございます」
シーン。
しなびれた大根が、真っ赤な絨毯の上に置かれた。
大根だけに、ものなんて言わない。
「それ、夕飯に出すように」
料理場から、コック長を呼んで、大根をもたせて消えさせるリク。
赤い紐をひく。
ゴガっ。
「あーーれーーー」
大根を召還し、それをわざわざリクの前まで案内させたというか、もってきた魔法士は、牛糞にまみれた落とし穴に消えていった。
「次!生きてるのじゃないとうけんからな!」
ばらっと、うちわで顔を仰ぐ。
「次の召還成功の者にございます」
シーン。
場内が静謐で満たされる。
見る見る間に、リクの白い頬が紅潮していく。
「合格!」
「うっそん!」
「ありえねー!」
「これだから、リクは……」
「ブギ?」
首を傾げるメス豚は、白いフリフリのドレスをどうやって着させたのかもわからないが着ていた。
頭には、亡き王妃がいつも飾っていたティアラ。
不敬だと、切り捨てられてもおかしくない光景の中、豚はブギーブギーと興奮気味だった。
「ブヒ!」
「名前は……マリリアージュにする!早速結婚式を!」
「この阿呆が!」
スパァンと、リンドウが持っていたハリセンがうなり、リクの頭をはたく。
「だって。見ろ、こんなに亡き王妃にそっくり!!」
後ろの、亡き王妃の肖像画を指差す。でっぷりと肥えて、どこが首で胸で腹なのか分からないその姿。マリリアージュ王妃。
隣国のラサ王国からとついできた、体重400キロはあろうかというその巨体は、毎日眠り、そして食うことしかしなかった。
まさに、豚。
どうやってそれに、美しいリリエルという王女を生ませたのか、未だに謎。