魔人の大陸
竜に連れられ海を渡る。
たどり着いたのは広大な大地。魔力があふれ、魔力に溺れてしまっている不毛地帯。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
そんな言葉がぴったりな場所だった。
レヴィエスはそんな大地の上を飛び続け、魔力の柱が立ち上る地平線の彼方を目指しす。
「星の魔力だ」
「ホシ?」
「海や大地、すべてを内包するモノだ」
竜とでさえ比べ物にならないほど膨大な魔力をホシは有している。
僕は魔力の柱に向かいながら昔話を聞いた。
かつてこの世界にあった文明。今よりはるかに多い魔力を使って人々は暮らしていた。そしてより豊かな生活を求め文明は進化していき、ホシを巡る膨大な魔力に手を出した。
現在残る遺跡の多くはこの時代に作られた物で、ほとんどがその機能を停止している。 停止させた理由が大地から立ち上る魔力の柱だ。
この地と同じ場所を作らないために活動を停めた。だか、この地の魔力の柱を抑えるには遺跡の機能がいる。
魔力の柱が立った時、遺跡は暴走してその機能の一部を失った。失った機能の修理できる者はその時にはすでにおらず、修理できる知識を持った竜は人間の作った遺跡の修復機能を使いこなせない。
「二千年だ」
今とは異なった魔術の分類方式に利用方。其れを感覚で理解して使える者をレヴィエスは探していた。
かつての時代ならば、すべてを人が行わなくても補助してくれる便利な機械がたくさんあり、技術者となれる者は少なくない。だが、補助機器が失われた現代では僕しかみたからなかったそうだ。
「ルキノの仕事は遺跡の修理だ。大陸一つを救う大事業になる」
竜が笑う。
「報酬は好きなだけふっかけてこい。支払える限りなんだって払ってやる」
報酬の話ししてるのに、なぜか借金取りに遭遇した気分になった。
魔力の柱のほど近くに遺跡はある。吹き上がった魔力が降り注ぐ中にあり、勇者たちの魔力に守られていた。
レヴィエスは降り注ぐ魔力の雨の中を飛ぶために、かなり分厚い防壁で自身を包む。竜でさえ、直接触れるのを拒否する魔力。ケタ違いすぎて、感覚が鈍くなる。
こんなもん制御できるわけがない。
かつての人はどれだけ傲慢で狂った感覚をしていたのだろう。正気の沙汰とは思えない。
なのに竜は僕にそんな狂人のようなまねを強要してくる。
遺跡に近づくと、遺跡を守っていた防壁に穴が開く。そこからなかへ入り、レヴィエスは遺跡の前に降り立った。
遺跡には中年の勇者がおり、地面に置かれた僕を目を細めて見る。
「ようやくこの地にこの世界の人間が来たか」
勇者のつぶやきに人型をとったレヴィエスが答えた。
「待ち人を見つけたぞ」
ぶつかる二つの視線。互いに分かり合っているようだが、僕にはさっぱりだ。
見つめ合っていた視線がこちらを向き、意味ありげにどちらもが笑う。
鳥肌がたった。
何アレ。
僕何させられんの?
怖いんですけど。
腕をさすりながら、遺跡の中へ入って行く二つの背を僕は追う。
遺跡の中はどこも大差ないようで、味気ない。
妙に綺麗で、変に明るかった。
いくつかの角を曲がり、一つの部屋に入る。
壁が光る部屋で、その光によって地図が描かれていた。
「現状を説明しますので、座って下さい」
勇者にすすめられたイスは背もたれがついており、何の素材でできているかわからなかった。つるりとした光を反射する感じは金属ぽいが、クション部分が謎過ぎる。
布よりは皮よりぽいが、皮より強度はなさそう。
「ルキノ、イスについて考察するのは後にして、話を聞いてくれ」
「遺跡を使いこなせるなら、イスくらいあげますよ。倉庫に行けばかなりの数がありますから」
後でくれるというなら、大人しく座る。
説明によると、現在勇者達は遺跡を守っている組と魔力の柱拡大阻止をしている組がいるそうだ。説明してくれている勇者は遺跡を守っている組で、召喚されたのはここの世界で三百年ほど前らしい。
普段は仮死状態で寝ていて、数年に一回目覚めては一週間ほど起きて活動しているそうだ。本来なら半月前に眠りにつく予定だったが、ときどき物資を遺跡に届けに来る魔人や竜から見つかったと置き手紙があり、到着を起きて待っていたらしい。
基本、遺跡の説明をするのはレヴィエス。勇者が語るのは勇者が成していることについてだ。
とりあえず、よくわからない勇者の説明は放置しよう。仮死状態で勇者が長生きしている方法とか、僕がこれからやることに関係ない。
まずは遺跡の防衛機能を復活させる。そのために僕が防衛機能の自己修復装置を修理する。
これを達成すると、遺跡の防衛に当たっている勇者が自由に活動できるようになり、いろいろやるらしい。ただ、この勇者たちが何をする気でも僕のやることには関係ない。
僕はレヴィエスが示す区画の自己修復装置を順次修理していくだけだ。
ホシの魔力を抑える為に協力はしてくれているが、この世界の人間に対し恨みを持っている勇者もいるらしい。彼らは自由になると暴れるかもしれないそうだが、レヴィエスは止める気はないそうだ。
「この世界のツケを異世界人に払わせているんだ。世界の調和を崩すほどのことでなければ黙認する」
「それって人間や魔人の国の興亡はどうでもいいってことですよね?」
勇者は竜に挑発的に問う。
この勇者、かつて人間の大陸から魔人を追い出し、召喚された国に戻った。帰国を喜ばれたの最初だけ。最終的に裏切られ、暗殺者を送り込まれたらしい。
勇者召喚の被害者を減らすため、現在は協力中。だが、勇者が必要なくなれば、勇者召喚方法を完全破棄すべく活動する予定。
その過程で滅びる国が出てもいいらしい。
レヴィエスは人間が滅びなければいいそうで、面白くないらしい勇者が僕を見る。
「止めるか? 人間」
「勇者の相手ができるほど僕は強くないんで、奥さんと子どもに害がなければいいと願うだけですね」
「そういや、この世界の連中は結婚が早かったな」
奥さんと子どもがどこにいるか問われ、僕はレヴィエスを見る。
「何故おまえが知らない?」
「母国で監視つけられたから、死亡偽装して、仮死状態のままレヴィエスに連れてこられたから、所在不明です」
「まだカールクシアにいるはずだ。勇者の後を追うように南下する。南部で安全な拠点ができるまではサムイルが護衛だ」
安全な拠点ができたらサムイルはこっちにくるらしい。
今きても遺跡の近くは素材採取できるところはないので、護衛してくれているほうがありがたくはある。
「こっちでの作業が止まったら困るから、奥さんと子どもについては考慮しよう」
眉間にシワを刻み勇者が告げる。
「レヴィエス、僕は出産についても考慮がほしいな」
「そこは我が子のせいだ。産月になったら対処しよう」
勇者に問うように視線を向けられたから、成人した日にレヴィエスの子孫に押し倒されて結婚にいったったと説明した。
ものすごく同情した眼差しを向け、勇者は僕の肩を叩く。
この勇者。過激とこもあるが、悪い人ではないようだ。
レヴィエスは魔石に魔力が充分あれば、ずっと僕のそばにいる必要はない。ときどき現れて、魔力補充をし、進行状況の確認をするだけだ。
二週間、毎日一つづつ見本を確認しながら部品を作っていく。聖国の遺跡で練習してきたからやれなくはない。たが、やってもやっても進んだ気がしなくて嫌になる。
そのうち部品を作るの順番と形状がわかってきて、作業効率が上がった。二カ月を過ぎる頃には形状が持つ魔術的意味合いが推測できるようになり、三カ月を超えた頃やっと遺跡の防衛機能の自己修復装置の修理が終わる。
自己修復して防衛機能をとり戻すのに推定一月。年単位の仕事になると言われているだけあって、先は長そうだ。
なんか、もっといい方法がある気がするんだけどな。どうにも効率が悪くて気持ち悪い。
しかし、気に入らないからといってやらないわけにはいかないから、僕はうなりながら作業を続けた。




