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軍事演習場 朝

空が明るくなり、太陽が姿を見せる。

慣れた魔力のかたまりが近づいて来ていた。余分な気配もあるが、いいとしよう。


「ルキノ、褒めろ。暴走しなかったぞ」


ドヤ顔で褒め待ちか。


「よくやった。がんばったな」

「そうだろ、そうだろ」


ご満悦の様子。

朝から元気よさそうだ。

サムイルの姿を見たら肩の力が抜け、徹夜のに疲労が押しよせてくる。大丈夫だと思っていても、不安だったみたいだ。

楽しそうなサムイルが僕の頭をグチャグチャなぜる。こいつも僕のこと犬扱いだよな。


「疲れているみたいだな」

「この班暴走したのが五人もいたからな。サムの気配がわからなくなって心配した」

「ありがとうな。しばらくここにいるから寝ていいぞ」


僕は昨日昼寝した場所へ移動する。横になると、サムイルはそばの木にもたれて座る。


「おやすみ」

「メシ食べたくなったら起こすから」

「うん」


サムイルと一緒に来てたエミール先生やアルシェイドが何か言ってたけど、全部ムシして目を閉じた。




目を覚ますと頭がすっきりしている。

魔力使った後だし、身体は休息を求めていたようだ。


「おはよう、腹減った」

「おはよう」


起き上がり、目深にかぶっていたマントのフードを背に落とす。


「そういや、なんでいるの? 先生やアルも」

「ルキノが心配だったからだ」


うん。いい笑顔でサムイルはウソだな。


「サムくんは、暴走した子ワンパンで気絶させて、暴走した子より班の子に怯えられてんの。一人だと寂しそうだったんで、オレはつきそいだよ」

「お前はルキノの作ったメシ狙いだろ」

「家で料理しているからって任せたのに、夕飯おいしくなかった」

「昨日は褒めてただろうが」

「社交辞令」


この二人はほっとこう。どっちらもメシを作れば機嫌がとれる。

少し離れたところにいた、エミール先生に声をかけに行く。


「おはようございます。エミール先生」

「おはよう」

「状況説明してもらえませんか?」

「ルキノくんは魔力暴走者が怖くないの?」

「怖いですよ」


エミール先生が疑いの目を向けてきたが、ウソじゃない。

幼なじみが暴走する姿を何度も見た。その後に苦しんでいる姿も目にしている。

僕は対処方法を知っていて、サムイルで慣れてもいた。暴走後に向けられる視線をサムイルが嫌っているから、いつもと同じ対応を心がけてもいる。

それに、班の暴走者はサムイルにくらべればかわいいものだ。


「先生?」

「怯えているようなら班を分けるのだけど、あなたは大丈夫そうね。ここの班が一番暴走者が多かったから、心配してたのよ」

「それで、ふるい分けは終わりましたか?」

「ええ、魔力暴走を間近で見て転科を決めた子もいるし、暴走しちゃった子は特別授業が必須になるわ」

「僕が知りたいのは、学外実習の今日の予定に変更があるかどうかですが?」

「あら、もうこの実習の目的が終わっているのはわかっているでしょう? それに暴走者がでて、班が分離してないのはここだけよ。どの班も予定どおりになんて続けられないから、帰路についているわ」

「じゃ、昼までここにいなくていいんだ?」

「そうなるわね。昨夜のルキノくんのがんばりは聞いているから、ご褒美情報をあげる。減点システムは班の順位を決めるためのものです。いくらマイナスになっても追試はないわよ」


しばし、熟考する。

僕は荷車へ走った。物資使いたい放題だ。


「ルキノくん、先生のごはんもお願いしていいかしら」

「いいですよ」


一人分増えたところで、たいしたことない。

班の連中、全然活動してなかったから彼らには何か軽めのものを作ろう。サムイルはがっつり食べるだろうし、肉中心かな。

元気な人には調理器具とか食材運ぶの手伝ってもらおう。


「ルキノくん、昨日と態度が違います」

「だって、僕、貴族の食事なんて知らないから大人しくしているしかないよ?」


手伝ってくれるのはいいが、レオナは怒っているようだ。

魔力暴走させたお嬢様を見捨てようとしたことへ長い説教をくらう。


「ルキノを責めないでくれ。こいつの行動はオレのせいだから」

「どういうことですか?」

「ルキノはオレが暴走していたときのことを考えていたんだよ。そのために、魔力も魔石も温存しておきたかったんだよなぁ。オレ、愛されてるね〜」


ウザい。


「サムは暴走したら僕のとこ来るだろ」

「いいだろ? 毎回どうにかなっているんだから」

「どうにかしなきゃ、僕が死ぬ」


にまにま笑うサムイルに油で揚げたばかりの肉をつっこんでやる。熱いと慌て、食べている間黙らせることに成功した。

ありったけの肉を揚げていたら、軍人も食べだして消費がはやい。油が大量にあったから揚げものにしたのだが、昼の分まで残るかな?

味つけ変えて、昼は調理しないでいいようにお弁当にするつもりだったが、足りないかもしれない。


「カールクシアはごはんがおいしいですね」

「だよね。オレ、食文化でカールクシア選んだんだ。物流が整備されているから、大陸中から食材が集まる」

「そうなんですね。ここは祖国の物もありますし、見たことない物もあって楽しいですわ」


外国から来た二人が仲良く食事している。レオナも食事を与えると機嫌がとれる子のようだ。

しかし、こいつらよく食べる。お弁当は廃案にし、昼はジャムや蜂蜜があったのでホットケーキにしよう。そして、余った蜂蜜はもらう。油もくれたし、いいよね。料理しているの僕だし、譲らない。


「ルキノ、荷車にチーズあっただろ? ピザ作ろうぜ。荷物持ちなら手伝うからさ」


食事の手間は増えるが、チーズはほしい。重たい物は体力ありあまっているサムイルに持たせればいいか。


「仕方ないな。小麦とって、生地作るから」

「はいはい」

「焼くときは魔力よこせよ」

「任せろ」


学外実習二日目。

僕はひたすら料理をしていた。

それをエミール先生がどんな目で見ているか、大量の食材を前に浮かれていた僕は気にしていなかった。

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