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結婚式

僕はもういらない子だ。


成人したから子ではなく、いらない人か。


婚姻関係の手続きが終了し、店はマルクとカヌメがいればまわるように体制が整った。

検査器具作ったり、商品をつくる為の道具を作っている間は忙しかったが、それは昨日までのこと。


皆が忙しく働く中、 僕は一人部屋の物置と化していた。

しばらく、細々とした仕事を探してはみたものの、商会長にそんな仕事をされると従業員には粗探しされている気分になるようで、マルクから注意をくらう。


お小遣い渡されて店から追い出されるなんて、ガキ扱いされ過ぎ。かといって邪魔者扱いされてまで店にいたくない。


そういや王都に来て三年くらいになるが、観光名所に行ったことがなかった。時間とお金に余裕ができた今こそ、遊び歩いてみるべきだろう。


食べ物関係は今更行きたいとこないし、一番の観光名所のお城は近づきたくない。図書館は行ったことあるし、あと有名なとこは展望台くらいか。


竜の背から王都見下ろしたことあるのにわざわざ馬車に乗って、入場料払ってまで見る価値が果たしてあるのかな。


ダメだ。

観光は向いてない。


どっか市場にでも行って、面白そうな素材でもないか探そう。今日、市場が出てるのはどこの広場だったかな。




半日うろついて収穫ナシ。

広場近くのオープンカフェに入り、空を見上げる。流れ行く雲を眺めて、ダメ人間になった気がしてきた。


やるこのないと役立たずに思えて来る。

そういえば、村を出るまで僕は役立たずだと思っていたし、家に居場所をみつけられなかった。


家よりサムイルの家の方が居心地よかったし、家の仕事の手伝いが出来始めた兄と手のかかる妹の間に挟まれ、ほっとかれることが多かった。


僕にとってサムイルは危険な相手ではなかったし、サムイルのいない村に居場所がなくて、村を出るサムイルにくっついて行った。


今思えば、よく師匠たち僕がくっついて行くの許可したよな。おかげで今の僕があるわけで、感謝度合いは親より上だ。


だから結婚式に師匠はよんでも親はよんでいない。まあ、何かあった時の自衛能力が僕の家族にはないからよばないんだけど、不参加でいいとも思っている。


運ばれてきたお茶を飲み、再び雲を眺めた。

カヌメにお土産でも買って帰ろう。




マルクはレヴィエスと話をするのが楽しいようだ。

飛竜という大陸全土に対する流通網を持つ相手と商談ができるのが面白くてしかたないらしい。


カヌメの親族にレヴィエスのような大物がいたのは嬉しい誤算で、その人脈を活かした結婚式にするべく、マルクは張り切って準備していた。


結婚式に対する意見をカヌメは求められていたが、僕にはない。主張したいこともないですが、実権をなくした商会長の扱いがヒドイ。


大陸外へこそっと長期出張に行く身ですから、商会長がいなくても大丈夫な店にしてくれないと困ります。ですが、少しでいいのでかまってもらえないでしょうか。


にっこり笑って主張を封じられる。

笑顔が素敵なマルクさん、忙しいんですね。

大人しくしていますので笑顔ですごまないで下さい。


ぼんやり窓の外を眺めていると、マルクが部屋を出て行った。


「レヴィエス、こっちにいていいの?」


ここ、新郎側の控え室。

師匠たちも来てくれていたのだが、半人半竜姿のレヴィエスを見て逃げるようにいなくなった。

それを思えば、逃げないでにこやかに話していたマルクは強者すぎる。


「カヌメは気にしないが、ルキノは慣れないと脅えるだろ? 新婦と一緒にいる親代りの親族を見て顔を引きつらせる新郎では困る」

「完全に人に擬態してくれれば慣れましたが?」

「人間の式典に出る時はこの姿だ。諦めろ」


レヴィエスは人の街に暮らしてはいるが、普段は目立つようなことはしていない。なのに今回に限り、王族の前にでも出られる半竜姿でいるのはカヌメの身ごもった子のためだ。


僕もレヴィエスもカヌメの腹にいるのが普通の子とは思っていない。腹から感じる魔力が人としては異常で、おそらく竜よりの子が出てくる。


大昔に竜と混じった血から極稀に、先祖返りした者が生まれるらしい。人間と同じように成長しない可能性が高く、その異常性から国に排除されないようにするべく、レヴィエスは自らの姿をさらし、守護を示す。


子の親としては感謝するべきなんだろうけど、国のお偉いさんが参列する式になってしまった。本当、もう、逃げたい。


しかし、顔とか首とかに鱗があるのは魔力関係なしに怖いものだと思う。感情なんてない冷徹な顔しているけど、レヴィエスの魔力は荒々しくて、たぶん苛立っている。


レヴィエスとしても半竜姿なんてさらしたくなかったんだろうな。ものすごく堅苦しい式になるのも確定だし、マジで喜んでいるのマルクだけだ。




勇者を信奉する協会で、土着信仰の契約の女神の前で婚姻を誓う。このあたりでは女神ではなく、竜に誓って結婚式をする人の方が多いが、竜が参列しているのに竜の石像に向かって宣誓するのはなんか嫌だった。


カヌメはレヴィエスに愛を誓うようで避けたかったらしく、それ以外ならなんでもよかったらしい。今後のことを思えば、カヌメに竜信仰がないのはありがたかった。


信仰されてると、今後のレヴィエスとの関係が不安になる。


式が終わるとお庭で立食式の披露宴を行う。

レヴィエスと顔つなぎしたい偉い人が多くて、知らないご来賓の方々がいっぱいいる。


この場で僕がやるべきことは妊婦のカヌメに負担をかけないこと。知人以外の人は新郎新婦に興味はなくて、レヴィエスに夢中だ。


「結婚おめでとうございます」

「ありがとうございます」


これだけのやりとりで終わる関係。

僕としても最初は長々と感謝の言葉を社交辞令として返していたのだが、相手からさっさと終わらせてレヴィエスのところへ行かせろと無言の圧力を受け、やめた。


数をこなすには僕も短い方がいいし、さくさくと挨拶回りを終わらせる。最低限の挨拶回りが済むとカヌメを座らせた。


まだお腹が目立つほどではないが、無理は禁物だといろんな人から言われている。初産の嫁さんおいて長期出張ってだけで世間のあたりは厳しい。


目指せ、今だけでもいい夫。


飲み物や食べ物を取りに行って、甲斐甲斐しくお世話します。

あっ、ごめん。香草キツイ肉料理は妊娠してからニガテだったね。


「何か果物とってくるよ」


色とりどりの果物やお菓子が並ぶテーブルで、いかに綺麗に取り皿に飾るか腐心しているとレヴィエスが動いた。お偉いさん達から離れ、カヌメの側につく。


せっかく綺麗に飾ったのに、カヌメには渡せないようだ。お皿をテーブルに置き、給仕からグラスを一つもらう。


歓談する人々の間をぬって近寄ってくるドレス姿の女。目があうとにっこりと笑う。


怖っ。


逃げないように、震えないように、その場で踏みとどまる。


僕の真ん前までくると、女が口を開く。


「覚悟しなさい」


そう告げた女の手にはナイフが握られており、僕は手にしていたグラスを落とし割って、注目を集めた。


まさか、自分が実験体にされるとはな。


腹にナイフが刺さる。


視界の隅にレヴィエスがカヌメの視界を手で隠しているのをとらえた。


今度作る時は、痛覚遮断か麻痺させる術式を組 み こ も ・ ・ ・




ナイフから流れ込んできた術式に僕は意識を奪われ、次に目覚めた時には空の上だった。




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