表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/96

大陸南部遠征 8

空がうっすらと明るくなる。

日の出前の白く青い空の色はかなり好きだ。

こういう色の剣、作ってみたいな。


斬るのに特化させて、強度を高めにしたらサムイルに似合いそう。そうすると、専用の錬金術の術式がいるな。

調べたら、あるかな?

自作できる?


術式に頭を遊ばせて、屋根の上から町を見渡す。

久しぶりによく寝れた。おかげで頭はとてもすっきりしている。思いのほか、馴染みのないな相手と一緒に行動するのが負担だったらしい。


魔人の占拠する町の屋根の上の方がよく眠れてしまった。こっちの方が安全だと判断を下してしまった自らの感覚に、少しばかりがっかりする。


こっちの要望をきいてもらえるくらいの関係性は作れたし、あっちは僕を警戒もしている。なのに僕にとって騎士たちは安心材料になっていない。


生まれ持った種族より、これまでの関係性と物理的な距離が僕にとっては重要らしい。だからかな、この町に住みついた魔人すべてと敵対する気にも、この町の人間の全面的な味方にも、なれない。


ダンジョンに潜り続けた幼き日々。僕の身体に傷を残したのは魔物より人間の方が多かった。そのせいってだけではないだろうけど、僕は人間の善性を信じきれない。


蜂の麻痺毒は魔人にも効く。この町にいる魔人すべてを行動不能にしてをまりあるほど、僕はその毒を持っている。けれど、使う気にはなれない。


人間と魔人の差なんて、人間と獣人の差より少ないくらいだ。人間に効く毒は魔人にも効く。いずれそのことにこの町の住人も気がつくだろう。


そしたら、魔人は勇者や英雄のような限られた人でなくても殺せる。人間ごと魔人を殺すなら、悪意のある凡人でもやれてしまう。

そんな殺し合いの始まりの一人になんて、僕はなりたくない。


今すぐではないけれど、いずれ勇者はこの地に来る。ならば、僕もまた勇者を待つ一人になろう。

勇者は好きじゃないけれど、悪意の果てに魔人が殲滅されるより、希望と夢に装飾された勇者譚の方がマシなはず。


今後の予定を練りながら日の出を見ていたら、アルシェイドが上がって来た。


「朝メシ、食べるだろ?」


平べったいパンが二つに折られ、その間に肉と野菜が挟まった物を差し出してくる。新鮮な葉野菜に分厚い肉。この町じゃだぶん、人間の手に渡らない物だ。


「ありがとう。飲み物は?」


アルシェイドに視線を向ければ、妖精石からティーポットと水さしをだした。


「果汁と紅茶があるよ」

「じゃ、紅茶で」


色のついた液体が入った水さしを妖精石にしまうと、ティーカップを出して紅茶を淹れてくれる。ティーカップをしまうと蜂蜜の入った瓶を取り出し、スプーン一杯分入れた。


「贅沢だね」

「紅茶の風味は飛んでるけどな」


それは仕方がない。この辺りは香草茶が主流で紅茶の生産はしてなかったはずだ。




食事が終わると僕は町を散策する。

この寂れた町で生活用品や食料を買うのは気がひけるし、娯楽用品なんてほとんどない。ここでは買い物を楽しむなんてできないから、僕は街並みを見て楽しむ。


アルシェイドは昼までに間引きを終わらせて町を出たいらしい。間引きが終わったら町の北門で落ち合う予定にしているけど、僕はそれまでヒマだ。


ふらふらとあっちこっち見て回る。


小さな広場に面した住宅街の花壇に座り休憩していると、強い魔力の高まりを感じた。アルシェイドが始めたようで、対抗するようにアルシェイドのそばにいる魔人の魔力がふくれ上がる。


魔力量、魔力の使い方、どっちを比べてもアルシェイドの方が優秀だ。アルシェイドが負ける要素はどこにもなく、すぐに結果が出る。


荒々しい魔力が消えていくのを僕は感じとった。


ほとんどの人は騒ぎの中心から逃げて行く。たが、わざわざ争いの中心に近寄って行く者たちもいる。そんな動きをすること者たちは、人間の魔力も魔人の魔人あった。


好奇心なんて軽いものではなく、必要性に迫られた情報収集ってとこだろう。動きを追っていれば、拠点になっていると思われる場所が見つかる。


昨日のスパイス屋、拠点になっていると思っていたのに違っていた。近いが、一つか二つ、隣の建物だ。あの店主の気配も店ではなく拠点にある。


状況の推移を感知していると、アルシェイドが次の目標に向かった。魔力の高まりと消失。アルシェイドは危なげなく片づけていく。


人間の動きが活発になった。人の行動が徐々に拡散していく。それは町のいたるところに広がっていくようだ。

次の争い場所でも探しているのだろうか。だが、魔人のよくいるところは、この町の住人なら把握しているはず。


僕は広場に通じる道の一つに視線を向ける。こっちへ向かって走って来る気配は人間のもの。逃げるのは簡単だが、町中に散らばる彼らの行動には興味がある。


敵意は感じないが、用心のため妖精石から投げナイフを取り出して、手の中に隠しておく。


男は広場に足を踏み入れ、僕の姿を見つけると足を止めた。


「町の中心近くで魔人が暴れている。落ち着くまで巻き込まれないように隠れていなさい」


警告を拡散してたのか。


「それはご親切に、どうも」


緊張感のない僕の態度に男はムッとする。


「ああ、馬鹿にしているつもりはないですよ。ただ、この辺りまで危険になるとは思えないだけです」


大きな音とともに地響きが起こり、火柱が上がった。

速いな。三つ目の魔人の魔力が消えた。


あの火柱なら町の外からでも見えるだろう。わざわざハデにしてもらってなんだが、やりすぎじゃないかな。

ムッとしていた男は火柱を見て顔を引きつらせている。


あんなことのできる魔人に占拠された町でこれからも生きていくなら、恐怖心がわくのは当然か。この町にはアルシェイドほど強い魔人はいないけど、魔人を上回る強さを持つ人間もいない。


「大丈夫ですよ。あの火はもうすぐ消えます」


僕が指差すと火柱は消えた。


「新しい魔人がこの地に来るまでは、昨日までよりは穏やかに過ごせるはずですよ」

「あんたは何を言ってるんだ」


苛立ちと猜疑心に満ちた眼差しを向けられる。

それはそうだよな。まあ、信用してくれなくてもいい。


「スパイス屋の店主に伝言を頼めるかな?」


伝わらなかったら伝わらないで別にいい。


「魔人は穏健派と過激派がいる。この町の過激派は今日消された。穏健派は過激派の抑止に使えるし、勇者が来れば町から出て行く」


本当に出て行くかどうかは知らないけど、争う気のない魔人は移動するとアルシェイドは言っていた。


僕は魔人が何をしにこの大陸に来ているかなんて知らない。けれど、アルシェイドが僕のそばで人間を殺したことはなかった。

アルシェイドが殺すのはいつも暴れている魔人。だぶん、それが過激派という分類になるのだろう。


魔人の目的は人間を殺すことじゃない。

やたらと殺して町どころか国を滅ぼすほど暴れた魔人もいるようだけど、それは目的じゃなくてやらかした結果。暴れることなく、人の社会に溶け込んでいる魔人も少なくない。


「その上で魔人に対抗する手段が欲しいなら、このナイフと同じ物を探すといい」


見えやすいようにナイフを端っこを持って腕を突き出す。


「掘りかえすのはちょっと危険だけど、近くに魔術具埋めてるから、使うといいよ」


どうせ捨て置いていく物だ。使うなら使えばいいと思う。

けど、この人に話をするだけ無駄ぽいな。


向けられる視線は猜疑心ばかりが増えている。

アルシェイドも町の北へ移動を始めたし、僕も移動しよう。


僕が立ち上がると男がビクつく。睨むのは虚勢か。

もう何もするつもりはないですよ。


僕は黙って背を向け歩き出す。

もう隠れている必要はないから、まっすぐ町の北門へ向かう。


大通りに出て北に向かっていると、僕に近寄って来る魔力がある。一つはアルシェイドのもので、もう一つはスパイス屋の店主だ。


走っている分、先にたどり着くのはスパイス屋の店主かな。まあ、僕が立ち止まらなければ追いつかれる前に町を出られる。

せっかく伝言を聞いて探してくれたぽいから、門の前で僕は足を止めた。


僕の視線の先には息を切らせて走るスパイス屋の店主がいる。店主は肩で息をしながら僕の前で立ち止まる。


「お前は何を知っている?」


またどうとでも答えられる問いだな。


「すべての魔人が人間の敵じゃないってことぐらいですかね」


答えながら僕はナイフを握る。


「これと同じナイフが外壁に二本刺さっています」

「ナイフが外壁に刺さるのか?」

「刺さりますよ。このナイフは貫通特化で作ったから」


刃先を下に向け、僕はナイフに魔力は込めると手を離す。ナイフは吸い込まれるように地面に刺さった。


「作った?」

「調合もしますが、魔術具作成の方が僕は好きなんですよ。で、対魔人用に作った魔術具を逃げる必要ができた時用に外壁の外に埋めたんですが、僕にはもう必要なくなったので試しに声をかけてみました」


驚いた顔をしている店主に僕は微笑む。


「劣化して使えなくなるくらいならいいんですけど、誤作動を起こすと外壁くらいは吹っ飛ぶので、安全のためには回収することをおすすめします」


あっ、顔が引きつった。


「組織だった活動ができるくらいなら罠回収できる技術者くらいいるでしょ?」

「お前、それをあんな伝言だけで放置していくつもりだったのか?」

「いや、だって、真面目に話聞いてくれている感じがなかったし、面倒だし、もういいかなって、ね」


店主に大きなため息をつかれる。


『ルキノ、取り込み中?』

『いや、もう終わった』


アルシェイドが物陰から出てくる。その姿を見て店主は警戒する。


「知り合いか?」

「一緒にこの町へ来たんですよ。お互い用は済んだので帰るところです」


見知らぬ相手に対する警戒程か。


『アル、間引く間姿見られてないの?』

『ルキノには効果ないけど、今幻術で姿変えてるよ。間引く間は幻術ナシだ』


なら、いきなり襲いかかってこられることはないな。

僕はまだ話し足りなさそうな店主を放置して、アルシェイドと並んで町を後にする。




町を出た後、アルシェイドと昼食をとってからサムイル達と合流する。サムイルには遅いとすねられ、他の人からは火柱について聞かれた。


「魔人同士の争いがあったみたいです。巻き込まれたくないから僕らは逃げ出してきたんで、詳しいことはわかりません」


アルシェイドは知り合いに会えたかどうかたずねられ、残念そうにいなかったと答えていた。


「では、帰ろうか」


反対する者は誰もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ