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大陸南部遠征 5

僕、なんで反省室に入れられてるんだろう。


教会には話をする部屋がいくつもある。

懺悔室、相談室、応接室。どれも複数あって、今使っているのはそのうちの二つだけ。


なのに、だ。宿泊先として貸してくれている部屋から一番遠い反省室に呼ばれた。


教会にとっての反省室は閉じ込める場所じゃない。鍵はかけようと思えばかけられるが、あまり使われない。窓に格子があるわけでもなく、その気になれば窓から出入りもできる。


狭い部屋にイスと机があるだけで、装飾品はいっさいない。簡素ってだけの部屋だが、反省室と名前がついているだけで入りたくなくなる場所だった。


この町の状況で、美味しいお茶や茶菓子が出てくるなをて期待してない。けどさー、僕、反省室に入れられることなんてやってないよ。


不満顔で、一緒に部屋に入ったライズを見る。

ライズはため息を一つつくと、隔離結果を張った。口の端が上がる。

いい結界だ。速くて美しい。


確かな技術のある魔術を使うのが上手い人。そこは好感が持てる。


「君とはじっくり話す必要がありそうだ。ルキノくん」


外に声がもれる心配のない場所で、内緒話がご希望な様子。さて、どうしてくれようか。


「君の考えを聞かせてもらおうか」

「考え、ですか」


考えねぇ?


どういった事を答えれば満足するんだろう。とりあえず、僕のなかで決定していることを話してみるかな。


「南に向かう街道は使いません。西側のルートを使います。出発は数日内にしたいです」

「それは決定事項か? 誰が知っている?」


それ、確認がいること?

僕は首をかしげながら返事をする。


「今初めて言ったから知っているのはあなただけです。サムもアルも僕が決めた移動予定に口は出さないから、決定事項でいいと思います。教会や騎士になんか配慮した方がいい事情でもありますか?」


何かあるなら検討くらいはする。予定変更するかどうかは事情しだいだけど。


「決定事項なら、速やかに教えてもらいたい。こちらにも騎士にも準備がある」

「ほぼ決まりですが、魔物動向次第で予定は変わりますよ? そのために数日街にいるわけですし」


嫌そうな顔をしてライズは僕が何を気にしているか問いかけてくる。


その場に定住していたドラゴンが討伐されたら、魔物の分布状況が変動する。ドラゴンがいることでこの辺りに近づかなかった魔物もいるだろう。

魔物の縄張り争いが安定するまで、街で様子をみたい。


「街道にいるのは討伐せずにおいてますから、群れ規模で町に押しよせられることはないと思います。まあ、そんな事態になったらサムとアルにがんばってもらうしかないですけど、この町の防備じゃ対処できそうにないので、どうなるか見極めがつくまでは町にいた方がいいかと思いまして」


対処できない規模の群れになっていたら逃げますけどね。


「ルキノ、何基準で討伐を決めた?」

「蛇は町から近いので、討伐しとかないと近いうちに町が滅びそうだったからです。ドラゴン化した魔物に外壁なんて役に立ちません。西側のドラゴンもどきはどんな生き物か気になったので、様子見に行ったんですけど、討伐できそうだから討伐しました」


移動範囲が広いわりに、街道周辺を縄張りにしているドラゴンもどきとは行動が重なっていなかった。

山間にある湖にいた魚。移動範囲を考えるとこの辺りにあるいくつかの湖は地下でつながっていたのだろう。


地形がわかってなかったから、土の中を高速で動き回る何かだと予測していた。だが予想とは違ったて水中生物だったので、即討伐を選んだ。


地中いる生き物にできる攻撃ってあんまり知らないから、地中から出てきてくれない生き物なら討伐のための準備が必要になったはず。それでも対応しきれなければ回避する。


「様子見で丸呑みにされたのかっ!」


つばを飛ばしながら大声を出さないでほしい。


「ライズさんの防御力なら死なないと判断しました。信用したからこそ一緒に飲み込まれたんです」


騎士の人は討伐の間、湖から離れていてもらった。蛇よりは弱いけど、準じるくらいには強いと言えばすんなりと離れてくれた。

命がけの近距離監視まではするつもりがないらしい。そういう意味ではライズは職業意識が強いな。


「偶然ではなく狙ってやったのか」


あれ?

なんで驚くの?


いくらでかい口でなんでも飲み込む系の魚だったとはいえ、偶然飲みこまれるなら、それに即した魔術防壁強化できないよ。


「水中を泳ぎまわる魚の位置をサムに教えるには必要な処置だったんです」


まあ、魚の鱗が硬そうだったので、水ごと切ろうとするとサムイルに剣を壊されてしまう。幻影ダンジョン素材の剣を使わせるにはライズの目が邪魔だった。


ライズだけどで飲み込まれたら、サムイルに魚ごと切られそうだったから一緒に飲み込まれて、感覚頼りにサムイルの剣筋を避ける。


前髪が切れるくらいの眼前を斬撃が通りけ、球形をしていた魔術防壁が破壊されたところを大量の水に襲われたが、無傷で生還。結果としてはいいと思う。


「ルキノ、蛇に巻きつかれたのも狙ってだよな?」

「蛇の動きを止めるには必要でしたから」


なんでにらむかな。


「普通、ドラゴン化した蛇に巻きつかれたら死ぬってわかっているよな?」

「大丈夫だったからいいじゃないですか。上手く宣伝すれば、強運の持ち主として歴史に名が残るかもしれませんよ?」


僕はそんな喜劇の主人公みたいな名の残し方は嫌だが、教会に報告書を出せば一部の人には知られることになる。そんな報告を受け取った側が信じるかどうかは、日頃のライズとの関係性によるだろうけど。


「これでも死なないようには配慮はしてます」

「お前の基準はおかしい」

「そうですか? 死傷者ゼロですよ? ドラゴンとドラゴンもどきの二連戦で。騎士の人たちが、こっちの言うこと聞かなかったら死傷者出たでしょうけど」


疲れたようにライズがため息をつく。


「お前にとって騎士は足手まといか」


密談だからって、それ、同意していいのだろうか。


「サムとアルで攻撃力は十分ですし、盾役もいますから。それに軍属の人は個人技でどうというより、一個の集団として戦う人たちですから、僕がどうこうできるものじゃないです」


僕に指揮権があるなら使う方向で考えるのもありだけど、自由に使えないなら邪魔されないのが一番の協力だ。


「ところで、大司教さまは従者がいないと旅ができない人ですか? この先、彼くらいの魔力と身体能力では生存保証いたしかねますが?」

「この町においていく予定だ。ここで一月滞在し、その間にこちらから連絡がなければ、 行方不明報告をしに祖国へ帰ることになる」

「なら、 南に向かって十日進んだら引き返す感じですね」


やっぱり大陸の北と南では南部を探索するより移動に日数がとられてしまう。


「もっと日数が欲しいならそのように調整するが?」

「必要ありません。十日もあれば、迷って先に進めていないかどうかくらいは判断つくでしょう。魔人討伐はやる気ないですし、住処を見つけたら撤退でいいんですよね?」


襲われたら対処するが、使える素材かあるドラゴンと違って魔人は討伐しても報奨金しか出ない。その報奨金も人目のあるとこるならともかく、南部で討伐したと主張しても詐欺師扱いされて終わる可能性が高い。


魔人討伐は売名目的で、人目のあるとこるでやるものだ。名前を売る予定のない僕にはまったくうまみがない。


素材欲しさに討伐したが、ドラゴンも売名に使われる。使われるが、そんな使い方したくないな。


「魔人討伐はできるならしてもいいが、今回の遠征は魔人討伐が目的ではない」


まだ発見してもいない魔人のことは遭遇したら考えるとして、今はやらかしたドラゴンだ。


「ドラゴン討伐も目的じゃないですよね? 僕は見つけただけて、討伐したのはサムです。ドラゴン関連の報告をする際はサムがやったと明記して下さい」


サムイルは注目されたくらいでどつこうなるやわな精神は持ち合わせていない。ドラゴン討伐の栄誉は一人で持っていってくれ。


仲間がほしいならアルシェイドとライズをつけよう。

いや、騎士の方の報告書もあるから、この際騎士と一緒に倒したことにしてもらうか。


僕は発見しただけで、騎士の人たちがサムイルを援護した。魔石を売却したお金は騎士の人たちとも分けることになるが、口止料にもなる。


素材の独占ができているから僕としては満足だし、その方向で調整しよう。


騎士の人たちに対しては、魚の方は魔石以外回収できなかったことになっている。湖の中で妖精石使ったから、ライズには所有がばれたけど、レオナからの報告で遠征前から知っていたそうだなので隠していても意味がなかった。


「そなた、ドラゴン討伐はルキノがいなければなしえなかったと書く予定だと言ったらどうするつもりだ?」


僕は笑みを作る。


「庶民生まれの非才な身では命令なんてできませんから。そんなこと書けない気分になるか、書けなくなる場所へ向かうだけですね」


非協力的な人はライズ以外、現場にいなかった。ライズをどうにかすればどうとでもなる。


「僕も書物で読んだだけで現物は知らないのですが、この先には狩り蜂というのがいるそうです」


この毒を今回の遠征で是非とも手に入れたい。植物系も変わったのがあるからそっちも欲しいし、南部は薬物系素材に楽しみが多い。


「狩り蜂は群ではなく単独で行動するんですよ。単独で成人男性くらいは狩れるそうでして、刺されると仮死状態や麻痺状態になります。狩り蜂の種類によって多少の状態の違いはあるそうですが、共通しているのは刺されると動けなくて死なない点です」


その特性のせいか、この毒を使った薬が裏社会では人気がある。国が敵に回った時の保険に、逃亡資金になるくらいは確保しておきたい。


「狩り蜂はですね、獲物を死なせないまま地中に掘った穴に連れ込むんです。そして獲物に卵を産みつけたら穴を埋めていなくなります。獲物は動けないまま穴の中にいて、その内卵が孵化して、肉食の幼虫と動けないまま穴の中。その先はわかりますよね?」


笑みを深めると、なんか、面白いくらいにライズの顔色が変わっていた。


「僕、名を売ることに興味ないですし、人の視線が気になるタチで、注目を浴びるのは迷惑なんですよ」

「わ、わかった。対処させてもらう」

「騎士さんたちの報告書と整合もつけてほしいんですが?」

「騎士とは話し合いさせてもらおう」


いや、話の通じる人でよかった。


「無意味に死者を出すのは僕の主義ではないんですよ。今後とも安全第一で行動していけるよう協力いただければ幸いです」


なかなか有意義な密談になった。


ライズが結界を解くと、僕は反省室から出て行く。中庭で剣を合わせていたサムイルとアルシェイドにドラゴン討伐の報酬について話しに向かう。


二人とも、僕ほど金に対する執着がないんだよな。おかげで、騎士たちにお金を渡すことについては必要経費としてあっさり同意してくれた。


アルシェイドも目立ちたくはないようで、騎士が倒したことにしてもいいとまで言いだす。それが可能なら、僕もそれでいいけど、騎士だけじゃドラゴンを倒す攻撃力はない。

サムイルの参加は不可避だ。


「お前らオレに面倒を押しつけるきか?」

「どうせ一回は注目されたんだから、それが二回になっても平気だろ? 貴族が取り込みにきたら師匠に相談すればどうにかしてくれるし、サムなら大丈夫」


サムイルの父親は有力者ぽいし、心配してやる必要はない。




街で様子見、三日。

調合とか、錬金とか、素材をいじっていたら直ぐに日々は過ぎた。


街道にいるドラゴンもどきが頑張ったので、魔物の大群が町に現れる心配はないと判断し、南に向かう。


できれば、南に向かう前に優秀な鍛冶職人のいる町に行きたかった。僕の錬金術の腕では硬度や耐久性のあるものが作れない。

魔術効率特化品しかできなくて、魔術で強度補正を行わないといけないもろさだ。


「形状が剣な杖みたいだな」


アルシェイドにはそんな評価をされたが、使ってみたいというので試験使用してもらう。たぶん、サムイルなら一撃で壊すので触らせない。


大陸南部って、北部とは植物も魔物も鉱物も違うものばかりで採取は楽しい。移動はゆっくり、休憩多めで、襲ってきた魔物を倒したつつ、素材に魔力反応があればとりあえず何かわからなくても確保していく。


ライズにばれてたので、採取物はどんどん妖精石に入れられる。搾取選択は遠征が終わってからゆっくりやればいい。


「浮かれてるな」

「ルキノが南部行きに積極的だった理由がこれか。素材のためなら危険地帯でもいいんだな」


なんか言われてるけど、知らん。


「狩り蜂を返り討ちにして不気味な笑い声をあげるのはやめて欲しいな」

「たしか、狩り蜂の毒となんかの花の蜜で媚薬ができたはず」

「サムイルがそういうの知っているのは意外だな」

「ダンジョン都市にいた頃、詐欺師よりのヤブ医者に教えてもらったらしくて、ルキノがしばらくうるさかった時期があるからな」


媚薬は合法でも非合法でも金になる。しかも、微妙な調合の変化で効果が変わるらしく、調合する者の力量が試される代物だ。


何しろ教本ってものがない調合で、学校じゃ教えてくれない。なのに需要はある。

腕試しにはもってこいだ。


「ルキノ、採取の邪魔はしないが、調合は国に戻ってからにしろよ。ここで調合しても使う人も買う人もいないからな」


町を出てから、距離をとることなくついてくる騎士連中に僕は視線を向ける。


「騎士って、遠征先だと媚薬の需要あるって聞いたよ? 士官学校で」


騎士の人がみんなして顔をぶんぶん横に振る。


「それは都市伝説みたいなもんだ」

「ウワサはウワサだ。現実的とは違う」


なんか、えらく必死で拒否された。


「みんな欲しがってないから、やめとけよ」

「初調合品の実験台なんて好奇心より恐怖心が勝るからな」


チッ


仕方ない。今は我慢しとくか。




南に向かうこと七日。

四つの廃村を通り過ぎ、眼下に平原が広がるところまで来た。外壁に囲まれた町があり、濃密なたくさんの気配がある。


あの町は廃墟じゃない。


急げば日暮れ頃には町にたどり着けそうだが、今日はこの場で野営することにした。




空が白み始めた頃、僕は意識的に知覚範囲を広げる。


あー、気のせいじゃなかったか。


「撤収」


あの町はダメだ。

魔人の人口が多すぎる。目立つ気配だけで、両手足の指ではたりないくらいいた。

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