↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/96

探索者と賢者

探索者と賢者なら、たぶん賢者の方が長生きしている。

勇者の取り巻きなのは一緒だか、道先案内人と道先案内人兼戦闘要員では求められている負担が違う。


「レオナ、どっから賢者なんて話出てきたんだ?」


レオナの妄想なら、レオナがイタイ子で終わる。だか、賢者という認識が広まっているなら、対策が必要だ。

アルタが協力してくれなければ、逃げるって選択しか思い浮かばないけど。


逃げるなら、戸籍捨てる覚悟いるな。そしたら、卒論で悩む必要もないか。


「ルキノくん、人より知覚範囲広いでしょ」


たぶんそうだとは思うけど、同意したくない。


「それから竜にも会っている。違う?」


違わないけど、アルタとロクトの方、見れないな。視線が痛すぎる。

なんで、そんなに見るかな。探索者と言い出したのが竜なんだから、遭遇くらいしているってわかるだろ。


「竜に会った人も話した人もかなりのいるぞ。本人自覚はないだろうけどな」

「ルキノくんは人の中に紛れている竜に会ったのね。正体に気づくと竜が笑うって、本当?」

「竜が笑う?」

「うん、教会ではそういう話あるよ」


笑っていたかな?

恐怖心が強すぎて、覚えてない。


「竜は正体を見破った者を気に入って、知識や宝を授けるの」

「聖国の昔話か? 竜にもらった宝を困っている人にあげて、魔物退治したり、病気治したり、王様になったりする」

「アルタ先生、よくご存じですね。力強い若者に剣を与え英雄にし、心優しい乙女に薬の与え聖女にして、悪い王様の子どもに知識を与えて優しい王様にするんです」


英雄譚に聖女譚に建国譚。それぞれ単独の話もあるが、それらをすべてまとめた賢者譚も聖国にはあるそうだ。


魔術具作るのが好きな賢者は多いなんて余計な情報はいらない。強引に共通点を探さないでくれ。


「レオナ、賢者を名乗るには僕、魔力が足らないから。大魔術とか使えない」


きっちり準備すればできなくはないだろうけど、それを可能にする魔石の売買は禁止されている。基本、国で管理するもので、個人で所有はできない。


竜に頼めばやれそうなので、試してみたくはある。しかし、成功したのをどこかの国に知られたら監視対象か抹殺対象にされそう。


そんな面倒な立場はいらない。


「賢者は魔力の保有量で決まるものではないわ。賢者が魔力もあって魔人をいくらでも倒せるなら、勇者が召喚されるのを待つ必要はないもの」


レオナの語る賢者の条件を聞いていると、頭痛がする。なんか、賢者でもやれそうな感じが怖い。

この場ではとにかく否定しておくことにした。




魔術学院は研究過程にはいると、あまり授業で時間を拘束されなくなる。自由時間を休暇ととるか自己研鑽時間とするかは本人次第。


コネのない人たちは就職活動時間でもあるし、遊んでいられるような生徒は貴族階級にしかいない。

卒論さえ終われば僕も遊んでいられるかもしれないが、どうなるかは勇者の動向次第となっている。


現状、何か行動しようと思えば時間を作るしかない。

今回は会いたい相手を知られたくないため、尾行をまきたいし、できればまいたことさえ知られないままですませたかった。


朝から時間を作り、四葉魔術具商会へ行く。

マルクにちょっと面倒なお願いをして、商談がてら馬車を出してもらう。


商会所有の馬車。いつの間にかマルクが購入しており、商談にふさわしい服というのを出された。

採寸した覚えがないのに、身体にピッタリなのが怖い。


部屋もなんか調度品のランクが上がってそうなんだけど、マルクどんだけ利益上げているんだ。決算報告書、見るには見たけど、ケタが多くて金として理解できない。


でも、数字だけなら一応、理解できてたはず。


それで何ができるかとか、どこに投資し、どこと繋がるかとか全部マルクのさじ加減で、商会の未来像なんて僕にはない。


だって、こんな大きな店になる予定はなかったし、マルクが優秀すぎる。もう、マルクに店乗っ取られてもいいかと思えるくらい、マルクがいないとどうにもならない店になっていた。


マルクと向かい合わせに座ると、馬車が走り出す。


「マルク、モントンさんのとこに戻らなくていいのか?」

「あちらは私がいなくても困りませんが、こちらは私がいないと困ると自負しております」


控えめな微笑みを浮かべるマルクは自信に満ちていた。


「困るというか、いなくなるなら商会を廃業させていって欲しいです。マルクがいないなら、現状維持さえできないよ」

「そこまで必要とされると嬉しいですね。私は私を必要としてくれるところで働きたい。あなたが必要としてくれるかぎり、私はあなたの下にいます」


穏やかな表情をしているのに、目は強い意志を宿していた。

僕は面倒ごと全部マルクに任せられるから、いてくれるのはありがたい。だが、そんな決意したような目をされる理由がわからない。


困惑する僕の様子を察してか、マルクの表情だけでなく瞳も穏やかなものに変えた。


「私、なぜか仕事で結果を出せば出すだけ疑われるのですよ。実家では店を乗っ取るつもりかと長兄に疑われ、王都に出てきて勤めた店でもなぜか跡取りになる方には乗っ取りを疑われてしまい、少し商売から離れて疑いをそらす為に隠居していたモントンの下にいました」


疑われないなら商取引の世界にいたいと、マルクは笑った。


僕、マルクを疑ってはいないが、信任もしてないけど、いいのかな?

マルク嬉しそうだし、いいか。


「僕はこのまま働いてくれたらありがたいけど、起業しようとは思わないのか?」

「自分でやると自由度合いが高すぎてやる気が起きないんですよ。決められた枠組みの中でしか能力を発揮できない凡人ですから」


うーん、これはうなずいていいのかな?


自称凡人はどこまで本気だろう。


凡人は働いた先々で乗っ取りの疑いをかけられたりしない。普通の顔しているけど、ツッコミ待ちだろうか。


悩んでいる間に取引先に到着した。

去年売った武器の修理と調整。やることはたいしたことじゃないが、場所が貴族の家なのが疲労感を呼ぶ。


一代かぎりの騎士爵で、下級貴族なのがせめてもの救いだろうか。ただ、あんまりお金なさそうなんだよな、この家。


ありあまるお金があれば、生徒作品の武器を主武器にはしないだろうけど、利益でるのかな。その辺りはマルクが考えてくれるから、気にしなくていいか。




疲れた。


貴族とのやりとりは精神疲労が激しい。

午前中に二件のお宅に訪れ、昼食休憩後三件のお宅訪問を行い、回復薬の原料の仕入先二箇所の確認を行う。


おかげで、貴族街から下街まで王都中を馬車で駆けまわることになった。でも、王都中を駆けまわる予定を立てて欲しいとマルクに要望を出したのは僕。

心身ともに疲弊したのは自業自得で、責めるわけにもいかない。


本日の予定が達成できたとこで、おやつ休憩したいと要望を出す。


「そっちはそっちで休憩してくれていいから、オープンカフェに一人で入りたい」


人気のない静かなところの方が神経を休めるにはいいんだけど、監視者をまくわけにもいかない。

人混みの中で、何も変わったことはないと証明しておきたかった。


何の質問もなく、マルクは商業地区にある広場で馬車を止めるように指示を出す。

僕は広場の真ん中にあるオープンカフェに入り、マルクは広場に面したカフェに向かった。


蜂蜜入りの紅茶とクッキーを注文すると、僕は肘をついてテーブルにもたれかかる。

少し離れた席で、友人や恋人と笑い声を響かせている人たちをうらやましく思いつつ、目立つヒトの気配に意識を向ける。


気配はあるのに見えないって、気持ち悪い感覚だ。


秘密裏に話がしたい。

馬車からぞばを通過したときに、そんな念話をおくった。そしたら、すぐに答えてくれた。それはありがたいのだが、どうにも感覚が混乱する。


『今、正面にいますよね?』


感覚的には僕の向かい側に座っている。だが、視覚情報だと無人だ。


『座っている』


座る為にイスが動いた形跡すらないんだけど、誤魔化されているのは視覚だけじゃないってことか。

いるはわわかるのに見えないのが落ちつかない。

魔力感知に意識を向けてみるが、どうにもはっきりしなかった。


『今、人型ですか?』

『人の街にいるときは人型だが、少し待て。探索者は細かいことを気にする者ばかりだからな。これでどうだ?』


魔力の塊が人型へと変わる。人間の形をしてもらえれば、使われている魔術を感じとれるようになった。術式が理解できれば姿をとらえられる。


『やっと姿が見えました』


安堵の息を吐くと、注文していた飲み物とクッキーがきた。


『何か頼みますか?』

『注文すると、一人で二人分飲んでいる人に見られるぞ』

『では、一人でいただきます』


一口紅茶を飲んで、気分を落ち着ける。


『あのですね、聖国から来ている教会の子に賢者さまって呼ばれたんですが、探索者との違いは何でしょうか?』

『竜は賢者とは呼ばない。人間は賢者と呼ぶこともある』

『つまり、どういうことですか?』

『探索者と賢者に違いを求めるのは人間だ。成した結果か生まれで探索者が賢者と呼ばれることもあるだけだ』


僕は再び紅茶を飲む。

気分はまったく落ち着かなかった。


『教会が勇者のために出してきた者が賢者と呼ぶなら、道先案内人だけでなく、討伐の攻撃参加させたいからだろうな』


追い打ちかけないでほしい。僕はクッキーに手を伸ばし、一口で食べる。疲労感に甘さがしみた。


『探索者と賢者は竜基準なら一緒だ』

『とどめささないでもらえます?』

『逃避したところで現実はかわらん』


僕はウェイターを呼ぶと、ミルクティーと三種類のケーキの盛り合わせを頼む。

そんな食べるつもりはなかったのだが、がっつりと食べたい気分になった。お菓子しかないのが残念だが、場所を変えるのも面倒くさい。


『やけ食いか?』


問いかけてくるレヴィエスの声は楽しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。