閑話 元同級生
魔術学院は入学年齢にばらつきがある。学年の上がり方にも差があり、クラスメイトの年齢もばらばらだ。
士官学校からの交換留学生でもない限り、途中入学というのはまずない。だか、今年はそのまずないことがおきた。
三年生のAクラスにいきなり編入。それなのに、魔術の基礎がないため、授業は個別指導の特別授業。
そいつは別に高位の貴族ではない。だが、カールクシア王国が威信をかけて召喚した勇者ってヤツだ。
だからクラスメイトはみんな彼に好意的に接する。たぶん、家からも指示があったはず。
なにしろ機嫌をそこねないように懐柔して、自発的に魔人退治に行ってもらわなくてはならない。
まずは仲良くなって、この国を好きになってもらうのが勇者とクラスメイトになった学生の役目だ。
まあ、そのために殿下がいる三年生に編入。なのでファーストコンタクトはみんな殿下に譲った。
殿下は素直な方なので、相手の性格が歪んでなければ仲良くなれるだろう。公式的には身分隠しているし。
そんなわけありクラスになった3-A。
ウチの主家の坊っちゃまは向かない。腹芸とかごますりなんてできないから、一学年スキップさせた。ここにいたら間違いなく、勇者と腕試しにケンカ売っている。
おかげでBクラスで坊っちゃまのお世話から、Aクラスで情報収集に学内お仕事が変わった。
それにしても、聖国の留学生はかわいそうだ。
応用課程の単位全部取得済みで、本来なら研究課程の五年生なのにダブリで二度目の三年生をさせられている。
勇者のお手伝いしなくてはいけないらしく、政治的な理由でのダブリ。でも、裏事情を知らない人にはうっかり必須単位を一つ取り忘れた残念な人だ。
すでに習得済みの実習に、参加する必要ないのに勇者と一緒にいるためだけに参加する。もう、あれは授業じゃないな。彼女は仕事だ。聖国の巫女として、先生たちより責任がかかっている。
勇者、殿下、巫女。
こんな実習班を作るなんて、先生たちもなんらかの圧力がかかっているんだろう。引率の先生も今年度から赴任のアルタ・トレイル。退役軍人ではなく軍属のままの赴任。勇者個別指導の担当者だ。
個々にならお近づきになりたいが、まとめていられると畏れおおくて近寄りがたい。そんな班になっていた。
こんな班に後輩指導にくるあわれな先輩は誰か。
いろいろ考えてみた。王家よりの高位貴族の子どもか学院成績優秀者。何人か候補をあげてみたが、全部外れた。
「ルキノ、お前かよ」
「僕には選択権も拒否権もないんだよ」
ルキノは虚ろな目で笑っていた。
「そっちはなんでAクラスにいるの?」
「坊ちゃんより情報収集が優先になったんだ」
「今年からってことは、編入生情報?」
「くれんの?」
「そっちが優先なら、素性隠している貴い方とレイムを入れかえてくれないか交渉したい」
後輩指導に選ばれるだけあって、ルキノは素性がわかっているのか。もう、入学時の情報に疎い奴ではないらしい。
「お前なら、あの班全員と関わるのを拒否したがると思っていたんだが」
「拒否できるならそうするけど、編入生はムリ。レオナは盾としては便利だし、交渉の余地があるのは一人だけかな」
ムリときたか。
なかなかルキノも大変なことになっているようだ。
「三人班の一人を押しのけてまでは嫌だが、もう少し人数のいる班の時は協力してもいい」
「その時はお願いします」
あっさりお願いするのか。
もうやらないとかではく、今後も勇者担当の後輩指導くさいな。
週末、実家に帰り情報交換を行う。
こちらからは勇者と殿下の情報を知らせる。交換でもたらされた情報にルキノのことがあった。
理由不明で、ルキノの家族に監視の目があるらしい。
そんな情報を得た翌日。
新任の先生に呼び出された。
「お家が大事なら、ルキノについて調べるな」
注意ではなく、最初から命令。
それも個人ではなく、お家に対してだ。
これはかなりの権力が動いているな。
ルキノの奴、かなり面倒なことになっていそうだ。
同情はしてやってもいいが、助けてはやれない。
遠くから、ガンバレと、声援だけは送ってあげることにした。




