進路相談
食べられない食事が下げられた後、ピザが出てくる。できたてのピザは問題なく、美味しく食べられた。
食事の間は士官学校でのことを話し、食事が終わると人払いされる。
「どこまでわかった?」
試すようにクルトが笑った。
「年越しの宴にいた。くらい」
視線がちょっと冷たい。気にいらないようだ。
「顔は確認してませんから、名前も知りません。ただ、魔力はとても多いですね」
爆炎の騎士よりも多いくらいで、同列の存在だと推測している。答え合わせは、面倒事に巻きこまれるならしたくない。
でも、確認しておきたいことはあるんだよな。
「師匠、サムは何も知らないまま?」
「オレらは教えていない。あいつが自力で気づかないなら、知らないままだ」
「黙っとけばいいの?」
「今はな」
サムイルに聞かれたら答えてもいい。そうつけ加えて、クルトは疲労を感じさせるため息をついた。
「忙しいんですか?」
「ヒマなら、ルキノに感づかれる場所には近よらねーよ」
さて、少し踏み込んでみようか。
「聖国で、なんかあったんですか?」
ものすごく嫌な顔された。
疑わしい者を見る目で見られ、僕はへらっと笑う。疑われても何もしていない。
ただ、人の流れから導きだしただけ。
「やたら聖国の人に接触する人が多いから、何かあったのかと」
「公式発表があるまで知らないフリしてろ」
クルトの視線が厳しい。
もともと話すつもりなかったし、黙っておくくらいはやる。
聞きたいことは別にある。問うのにためらいがあって、つい別の事を口にしてしまっただけ。国家の動向なんてあんまり興味ない。
少し、勇気がいる。
「師匠。僕はどうして弟子になれたんですか?」
知りたいけど、答えを聞くのは不安だ。
「オレはお前を村から連れ出すのは反対だったんだよ。ガキが増えても邪魔なだけだからな。それんに、魔力を暴走させるガキのそばに好んでいるなんて、鈍くて頭悪すぎたろ?」
愚鈍なバカ。
それがクルトの持つ僕の第一印象だったそうだ。
「なんでこうかわいくないヤツに育つかな」
「師匠。言葉を選んでくれないと、繊細な僕は傷つきます」
にっこり笑顔で告げると、にらまれた。
「何だ? 不満か」
「僕はてっきり、サムの従者にでもさせるつもりで弟子にしてくれたのかな、と」
「やる気あんの? サムの方も従者のいるような生活するかわからんが」
とりあえず、従者にならなくてはいけないって、決まってはないようだ。従者になるように命令されたら、お友だちとしての関係は終わる。
サムイルが貴族になったら上下関係はできてしまうけど、直接的な主従関係よりはいい。
「一応、将来設計のために師匠の意見は聞いておこうかと思ったんですが?」
「そういう話はフォートとしろ。あいつとサムの母親がお前を弟子にするのに積極的だったからオレは連れていっただけだし、騎士志望じゃないなら相談にはのれん」
相談というか、僕の知らないとこで僕の将来を決められてないか確認したかっただけだ。何もないなら、それでいい。
「ルキノ、騎士になるつもりはないんだよな? 身分の問題だけなら推薦状書くが」
「ならないよ。僕には騎士の剣が扱いきれないし、危険だと判断したら命令違反しそう」
僕は、自分の感覚に合わないことはやれない。
「上官に恵まれない限り、やめとくべきだな」
将来に対して師匠が、何も決めてないことに安心して僕は休憩を終えた。
実習中にカヌメがカールクシアへ来たらしい。マルクから手紙をもらい、知った。レヴィエスから連絡はなかったけど、問題がないならいい。
マルクはさっそくカヌメに従業員教育を始めてるようだ。
暖かい国から来たカヌメには、この国は寒いだろう。何か防寒具を作ってあげたほうがいいかな。
ラザード帝国は雪は降らないらしいし、寒いのは苦手なはず。
実習が終わらないと作る時間がないのが残念だ。
手紙には検閲印があったので、返事はあたりさわりのないものにする。レヴィエスの名前を出したところで知っている人は少なそうだが、念のため出さないでおく。
実習後半、王家専属魔術具師の魔術具の閲覧が許可された。希望者は僕だけで、一緒に行きたがる人もいない。
一人ぼっちで、魔術具が保管されている倉庫に案内された。
現在使われていない物ばかりらしいが、かなり魔力反応がある。壊れている物もあるが、今すぐ使える物も多くあるようだ。
「士官学校の子が、こういった物に興味を持つのは珍しいですね」
魔術具に興味を持ってもたいてい兵器として使える物だけらしい。案内をしてくれた魔術具師は柔和な笑みを浮かべた。
「僕は士官学校に交換留学中の魔術学院の生徒ですから、武器より、見たことない魔方陣のほうが興味あります」
できれば分解したいが、そこまでは許可が出なかった。触っていいと許可の出た物だけ手に取り、構造解析にかかる。
一つで多くの機能を持つ魔方陣や一つ一つは単純だが多くの魔方陣を使うことで複雑な機能を持つ魔術具が無造作に置かれていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、頭の中はたくさんの魔方陣が踊る。
「昼食を抜くほど熱中されるとは思わなかったよ」
案内の魔術具師にあきれられたが、一日限りの機会だ。昼食より大事に決まっている。
「そんなに興味があるなら、将来の就職先にどうかな?」
「生まれ階級低いですから、就職できても研究より雑用でしか使ってもらえないでしょ」
魔術具が置かれた倉庫で雑用ならありだかそんな仕事ないだろうし、生まれはどうにもならない。貴族階級に生まれてたら夢みたかもしれないけど、就職したら今日のような楽しい時間は得られないだろう。
魔術学院でそれなりに優秀でも、階級を覆せるほどじゃない。わずかな可能性にすがるように夢を追うつもりも、僕にはなかった。
触れたいのに触れられない魔術具のそばで雑用に使われるよりは、下町で気の向くままに魔術具を作っていたい。
帰りたいな。
僕は頭に引っかかった魔方陣を使って、魔術具を作りたい衝動にかられた。
月一更新になってしまいました。




