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年末年始の実習

警備勤務というより、酔っ払い保護が仕事のようだ。

雪の中、外で寝るのは危険です。ハメはずして、やらかしている酔っ払いを僕らは回収していく。


「貴族って酒癖悪いの?」


同じ班の貴族子息らしい相手に聞いてみる。


「社交デビューで、緊張から酒量がわかっていないだけだ。こんなのが標準のわけがないだろ」


倒れているのは教育が足りていない下級貴族の子どもだけだと熱く語られたが、お迎えの方が下級貴族では雇えそうにないくらい立派だ。

気のせいってことにしておこう。


実習班の中でもめたくはない。


石像の美女を口説くバカを回収し、僕は新年を祝う宴に視線を向けた。

明るくて、楽しそうな音楽が流れ、誰もが華やかに着飾っている。目を引く場所ではあるが、内勤にならなくてよかった。


あの会場にいたら多分、気分が悪くなっただろう。貴族が身につけている宝飾品が放つ魔力や魔術の波動でカオスになっている。


煩雑で不快だ。


サムイルたちの班は内勤で、あの中にいる。僕はサムイルの気配を探し、似た気配があることに気づいた。


やっぱり、サムイルは貴族の生まれか。

この類似性の高さは親の可能性が高く、母親は王都にいない。


どんな人か興味はある。だが、こちらからお近づきをはなりたくないし、会うことがなければ、それはそれでいい。


けど、サムイルは会ったのだろうか?


魔力の揺れは感じないし、会っただけではわからないのかもしれない。それとも、僕が知らないだけで、すでに誰か知っていたのかも。


学校へ通うようになってから、サムイルと一日一緒にいることは少なくなった。一緒にいない間、サムイルが何をしているかなんて知らないし、報告しあうこともない。


なんとなくだが、サムイルは父親ってものにいい感情を持ってなさそう。そんな相手が同じ空間にいて、平気かな。

暴れそうな魔力の高まりはないし、大丈夫だと思いたい。




年またぎで行われた宴は、空が明るくなる前には終わった。僕らは太陽が顔を出した頃に勤務を交代する。

徹夜明けの今日は休みで、明日は朝から勤務。休暇は貴族が王家へ行なう、新年のあいさつが終わるまでない。


新年のお仕事は離宮の警備兼迷子の道案内だ。

本当に迷子かスパイ目的かわからないが、そのあたりを判断するのは僕らの仕事じゃない。決められた範囲内にいない人はみんな迷子認定で、決められた場所に連れていけばすむ。


酔っ払いを相手にするよりはマシな仕事だ。

宴のときみたいに泥酔していり人はいないが、ほろ酔いの人や酒くさい人はけっこういる。


「貴様わしに逆らうつもりか」


同じ様な発言の対処に飽きてきた頃、馴染みのある魔力を見つけた。

とりあえず、こういう相手は同じ貴族階級の人に任せる。制服でごまかされているが、貴族じゃないと知れるとごね方が激しくなるらしい。


平民生まれが対応するのは貴族のお付きの人の迷子とか、意識のない酔っ払いだ。意識がある傲慢な方々は、一班にいる大貴族の息子たちが対応している。


三日目ともなると彼らも慣れたもので、説得ができない相手には最初から家名を出して威圧している。赤ら顔を瞬時に青くさせる技を彼らは身につけたようだ。


僕は巡回をしつつ、馴染みの気配に近づくとひらひらと手を振って見る。少し驚いたそぶりを見せて、寄ってきた。


「こんなところで何しているんですか? クルト師匠」


制服は着ていないが帯剣を許されているし、貴族の装いが様になっている。師匠たちも貴族らしい。


「ルキノ。驚いてねーな」

「魔力見つけたときに驚きましたから」

「そうか。サムもいるのか?」

「ご存じでしょう?」


クルトは嫌そうに顔をしかめた。


「どこまでわかっている?」


ルキノは隣の班員に視線をやり、笑みを浮かべる。


「何のことですか?」

「かわいげがないぞ」

「弟子の成長を喜んで下さいよ」


昼休憩に会う約束をして、僕らは巡回に戻った。


休憩時間になると、クルトのとこへ向かう。待ち合わせ場所は庭のどこかなんて適当な約束だから、気配をたよりに進む。


クルトの姿は庭になかった。庭に面した部屋にいるのを見つけ、外から手を振る。クルトが気づくと、中へ入れてくれた。


暖かい。


手袋と帽子をとり、コートを脱ぐ。


「メシ、まだだよな?」

「うん」


返事をすると、メイドたちがクルトの指示で動き出す。

テーブルの上に並べられたのは花のように飾られたサラダや立体的な絵画のような肉料理。見た目にこだわった宴席で使われる料理ばかりが、テーブルいっぱいに置かれた。


「好きに食べていいぞ」


勧められても、不信感が先にくる。僕は料理を見ながらテーブルをぐるりとまわった。


「師匠、食べられないものは置かないで下さいよ」


なんかよくない魔術がかかっているのが三品ある。毒物混入していそうな異臭がするのは二品で、問題なく食べられそうなのがスティックサラダだけだ。


「ちゃんとした食事も用意している。心配すんな」


僕が食べるかどうか試しただけらしいけど、そのためだけにわざわざ作らせたとは思えない。誰に対してかはしらないが、料理に悪意のあるトッピングをした人がいるのだろう。


こういうのがあるから、お偉い方々には関わりたくない。

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