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王城警備実習

中間考査の結果が掲示板に張り出される。

総合成績八八位のとこに名前があった。あんまりよくはないが、平均点は余裕で超えている。


何教科か及第点ぎりぎりだったが、追試はない。僕としては満足のいく結果だった。

ただ、教科別の順位が公開されており、いくつかの教科で名前が出ているのが余分だ。


そのおかげで総合成績が平均点超えしているのだが、悪目立ちになっている。対人戦実技試験の結果が、七位であることが疑問でならない。


教官相手を二回も多く試験を受けた分が加点でもされているのだろうか。 魔術学院の生徒なのに一位になったサムイルよりは目立ってないと信じたい。


僕の実技試験を見ていた人たちの納得いかない気持ちは、わからなくはなかった。だが、そんな成績を与えたのは教官たちであり、僕に苛立ちをぶつけられても困る。


訓練場裏への呼び出しなんて、行くわけがない。フライを人質に呼び出されても、サムイルを連れて行くだけだ。

サムイルがすぐ捕まらなくても、僕一人では行きませよ。


待ち伏せは避けるの得意だし、逃げることを恥に感じる感性は持ちあわせていない。ひたすら相手にしないで放置してたら、憎しみが増えたっぽい。


なんて迷惑な奴らだ。

彼らの我慢は、王城警備実習班の発表で限界をむかえる。


実習の班は成績順らしい。で、上位ほどお偉いさんの近くに配属されるそうだ。

僕の成績は、王城警備実習参加者の中では最下位。なのに二班に名前がある。サムイルが一班なのは許せても、僕は許せないらしい。


教官いるに怒鳴られた。


「僕が希望したのではないですし、どうにかできるならそちらのコネで対処して下さい」


淡々と告げたら魔術を撃たれる。たいしたことない初級魔術だし、避けたけど、教官が止めてくれない。僕は机の上に飛び上り、ドタドタと机の上を逃げまわる。


上方向に魔術を撃たせるのが一番巻き添えが少ないはず。


「教官、止めてくれないんですか?」

「君がもう少し成績順位を意識して試験を受けていれば回避できたもめ事ではないか?」

「まったく馴染みのない授業を基礎なしで受けて追試なしなら、よくやった方です」


少し考えるように教官が一つうなずく。


「君はこの場をおさめるのと、罰則を受けるはどちらがいいかね?」


僕は逃げる方向をかえ、暴れるバカとの距離をつめる。腹部への跳び蹴りでしずめた。


「これでいいですか?」

「君に二班の班長を命じる」


顔が引きつったのを自覚した。


「魔術学院で求められ力は士官学校とは違う。試験でははかりきれない能力もある。成績順位のみを過信した結果がソレだ」


悶絶中の生徒に教官は冷淡に告げる。

追い打ちをかけるように実習者名簿から名前を削除し、罰則をいいわたす。一部始終を傍観していた生徒たちの顔色が悪くなった。




本来なら冬休みの年末年始に実習は行われる。

雪山の実習よりはマシだが、雪がちらつく中、外で活動なんてしたくない。


領地の収穫が終わった頃から雪が積もるまでの間に貴族たちは王都に集まってくる。それに合わせていくつもの行事が行われ、王城を出入りする人が増えた。


利用者の増加に合わせて警備の増加も必要となる。士官学校の生徒が実習というかたちで増員の一端を担うことになっているようだ。


学校を卒業していない子どもに任される仕事なんてたいしたものじゃない。


寒空の下、訓練もしくは利用頻度の少ない場所の警備につくか、建物内で雑用にこき使われるか。僕とさしてはどれも嬉しくない内容だが、王城で近衛騎士と一緒ということで同級生たちは楽しみでならないらしい。


騙されているぞ。

実習でちょっと特別手当が出てもお小遣い程度だし、街で雪かきした方が日当がいいくらいだ。

名誉って言葉につられて、安い単価で労働力を搾取されている。


さすがに直接抗議なんてしてはいないが、ふてくされてはいた。

制服と武器は貸与品で、どっちも改造できない。寒さ対策はインナーでするとしても、武器はどうにもできなかった。


両手持ちの剣は使えなくはないが、普段僕が使っている武器より大きくて重い。使いこなせないし、おそらく使用機会がないことを思えば、重りでしかない。


身体強化すればたいした重さではなかった。だが、常時魔術を発動させておく魔力がもったいない。

しかし、訓練ならやるしかしなくて、僕たちは走らされていた。


ばたばた倒れた人が出ているのに延々と走らされる仕様となっている。どうも訓練担当者の狙いは走らせることよりふるい分けのようだ。


完走者と脱落者の扱いがどのようになるかわからないが、手抜きで倒れるとバレそうな予感がする。危機感に従い、サボることもなく、僕は走り続けた。


残りの人数が十人になったところで終了になる。一周軽く流してから足を止めた。

それから、班ごとに整列する。


一班が六人、二班が三人、三班が一人で、四班以下は誰も残っていない。

人数を確認すると、完走者に紙が一枚渡された。


王家八剣による一日指導。王族の一日護衛騎士。宝物庫見学。王城図書館一日入館許可。なんて項目がずらずらならんでいる。


完走のご褒美に、この中から一つの要望を叶えてくれるそうだ。また、それとは別に希望が二つ出せるそうで、そちは希望人数と予定が合えば行われるらしい。

完走できなかった人は希望を一つだけ出せる。


一班は王家八剣の指導と一日護衛騎士が人気のようだ。二班はばらばらで、王家専属魔術医師による一日指導やら空飛ぶ騎獣を乗りこなす飛行騎士の一日指導に、王城図書館の入館許可の要望がでた。


僕も図書館は気になったが、そちらは希望にする。要望は歴代王家専属魔術具師の魔術具閲覧許可にした。

具体例がないが、不安要素ではある。だが、何が出てくるか楽しみだった。




年末年始の貴族が集まる時期に働かされ、通常に戻ると実習はご褒美時間になる。希望が通るかどうかは働き次第と、誰もがやる気を出していた。


僕は周囲のやる気に置いていかれて、ため息を一つつく。

やる気低下の原因は目の前をいる爆炎の騎士だ。この男が王家八剣の一人なのを、僕はすっかり忘れていた。


四葉魔術具商会としては売上げに貢献してくれている。だが、対応はマルクに任せていたのでもう直接会うこともないと思っていた。


ワイゼンは好きじゃないが、爆炎の騎士が使っている武器なら興味がある。雪が舞う中、閑散とした離宮の警備するより室内で武器整備の方がいい。


だから、現在の待遇は悪くはない。だが、素直に喜べなかった。


「悪い人ではありせんよ。困ったところのある方ですが」


不満を顔に出したつもりはなかったが、ワイゼンの部下になだめられる。

苦労の多そうな人だ。


「悪い人だとは思っていません。苦手なだけです」


もっと簡単にいってしまえば、嫌い。その一言ですむ。

いい人かどうかなんてどうでもよくて、仲良くするつもりが僕の方になかった。


権力でゴリ押ししてこないのは評価しているし、武器は一級品で見る価値がある。ただ、気になりのは武器の扱いだ。

雑というか、魔力に対して強度が足りない。強度より、魔力伝導率を上げた方が刀身にかかる負荷を減らせるか。


どっちにしろ素材を集めるだけで大変そうだ。幻影ダンジョン素材ならいいのがあるけど、素材に興味を持つ人が現れたら困るから有名な騎士相手には使えない。


一般的な素材で配合比率を考えていたら、笑い声が聞こえてきた。


「剣だけは気にいってもらえたようですね。国に属したら、そういう剣を作る機会があるかもしれませよ」


僕は視線を上げる。


「国の仕事なら魔石の等級による使用制限もない。素材も珍しい物でも用意してもらえます」


魅力的な話ではある。特に、民間では使えない大きな魔石使えるのはいい。国家に属した者の特権だ。

だか、属したからといって誰もが使えるわけではない。使えるようになるためには、そういう仕事を任せてもいいと思わせるだけの実績がいる。


下積み期間はどのくらいになるだろうか。

真面目に検討しつつ、レヴィエスに竜の大陸に連れて行ってもらえばいくらでも趣味に任せて作れそう。作っても死蔵確定だけど。


少しばかり、国家所属の魔術具師にひかれた。

週一で更新予定です。

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