四葉魔術具商会
ラザード帝国より、カールクシア王国の方が女性には働きやすいらしい。カールクシア王国がいいのではなく、ラザード帝国で女性の働ける場所があまりないのが理由だ。
カヌメを雇うのはいい。だか、僕の店はマルクに任せきりで、どうなっているか現状を把握していなかった。
マルクがすぐに雇えないというなら、僕の料理の先生として来てもらおう。
カヌメはこっちの受け入れ体制ができてから、レヴィエスに連れてきてもらうことになっている。
店の方の確認と、ラザード帝国から買いつけした物の話をしに僕はマルクに会いに行く。
学園区にある店に行くと、マルクはいなかった。物腰丁寧な店員に学生証を見せた後、居場所を教えてもらう。
どうやらマルクは工場にいるらしい。
モントンさんのとこにいるなら会えなさそう。伝言を頼もうとしたら、四葉魔術具商会の工場だと教えてくれた。
四葉魔術具商会は、今まさに僕が訪れているこの店だ。たぶん、マルクに乗っ取られてなければ、オーナーは僕。
しかし、工場ができるなんて話、知らない。
マルクが優秀な人らしいとは聞いているが、どういう状況になっているんだろう。そのあたりからちゃんと話を聞かないといけないようだ。
工場を一つと二号店をマルクは作ったらしい。工場といっても、従業員は八人ほどで半分は素材置き場になっている。
僕が同じ物をいくつも作るのが好きじゃないので、僕が作った物の中から大量生産向きの物を工場で作るようにしたそうだ。
二号店は大規模ギルドが並ぶ通りにこじんまりと作ったらしい。小さくても、それ、大通りだから。
設備投資で、赤字だったりしないよな。
不安になっていると、マルクが帳簿を見せてくれる。
黒字でよかったですが、ケタおかしな。マルク、どれだけ暴利出してるんだ。
「技術は安売りしません。そんなことより、新しい生活で使える魔術具を作って下さい」
売れるかどうかとか、利益率とかそのあたりのことはマルクに丸投げしよう。いろいろ作って持っていけば、いいようにしてくれるはず。
二号店の方は回復薬や火傷薬、毒消しや傷薬といった物を戦闘職の人を中心に販売しているそうだ。材料は用意しているので、今からつくるように頼まれる。
素材の質を確認し、僕は回復薬を作ることにした。作業を行いながら、マルクにカヌメのことを頼む。
「かしこまりました。詳細はレヴィエスさまに確認しておきます」
マルクはモントンさんのとこの人だからか、レヴィエスについて追求してこない。僕がレヴィエスに逆らえないのも理解しているようだし、ありがたい人だ。
しかし、マルクはどんな売り方をしているのだろう。回復薬は職能ギルドの買取りと比べると利益が倍以上ある。売れ残りもないようだし、職能ギルドより販売価格が高く設定されているのに売り切れをおこしていた。
おかげでお金に困らないで済んでいるのだが、マルクはいつまで僕につきあってくれるのだろう。
「どうかなさいましたか?」
「えっ、あー、うん。マルクがいなくなると僕じゃ店を維持できそうにないけど、マルクはいつまで僕のとこにいてくれるの?」
にっこりとマルクは得体の知れない笑みを見せた。
それ、喜んでいる笑みだよな。仕事で状態記憶されている笑みとは違うようだし、鳥肌立ったけど悪くないはずだ。
「あなたに必要とされる限りはいますよ。辞める前には後任も育てます。何も心配しなくて大丈夫です」
「そう? では、今後もお願いします」
真面目に告げるとマルクが我慢できないといった様子で笑い声をあげた。
「マルク?」
笑いをおさめると、マルクはいつもの態度に戻る。
「申し訳ありません。私が心配しなくて大丈夫と告げると疑心暗鬼になる方が多かったものですから、信用していただけると嬉しい限りです」
疑いたくなる相手の気持ちはわかる。優秀で何考えているかわからないし、忠誠心より自己利益優先してそう。
僕としても全幅の信頼を持っているわけではない。マルクに裏切られたらどうしようもないというか、僕にどうにかできる余地なんて残ってなさそう。
マルクを信用しているというよりは、信頼するしかないのが現状だ。
「ところで、魔術学院にはいつ戻られるのでしょうか?」
「年明けてから、未定」
「短期交換だったのではありませんか?」
国際交流会でちょっとがんばり過ぎたらしい。
「軍に勧誘されているから」
士官学校に在籍を移せと、しつこい。
軍属にならないためにこっちは高い授業料を払っているのに、感謝しろとか光栄に思えと寄ってくるのが最悪だ。
名誉は食べられないし、栄誉のために命をかけたくない。
王都で実務実習があるらしく、それに参加命令を受けている。命令なので、当然、拒否権はい。
一部の学生しか許可されない名誉な実習だとフライが教えてくれたが、可能なら行きたがっている人と変わって欲しいくらいだ。
僕は士官学校の休みの度に趣味と実益を兼ねて魔術具作成に没頭する。手で持たなくていい照明や香りを発生させる道具、熱源を組み込んだ鍋ややかんを作ってみた。
それらを改良し、生産体制が整うと新商品になる。新商品ができた頃、士官学校の後期中間考査週間をむかえた。
この試験は魔術学院のクラス編成に影響しない。その気楽さから、僕は総合成績平均点を目指すゆるさで、試験にのぞんだ。
筆記の魔術関連と一般教養は魔術学院の試験と大きな差はない。問題は軍事関連の試験だ。丸覚えでいいものは一夜漬けで赤点回避くらいはできる。たが、考えを問う記述式の問題は回答を書きなが、点数がもらえる考えかどうかがさっぱりわからない。
記述したことに点数をくれて追試さえ回避できればいいのだが、結果が出るまでどうなるかわからなくて不安だ。
実技は対人戦を引き分けで終えようとしたら怒られたあげく、教官と試合させられる。教官とやっても引き分けだったんでより怒られた。
僕は痛いのは嫌だから負けないように試験を受けただけ。成績上位を目指して無茶しないのを怒られるのは納得できない。
不貞腐れていたら、別の実技の教官が止めてくれた。お説教は終わったが、教官三人対僕一人での試合は虐待だと思う。
「これ、指導の域越えてますって」
僕は逃げ回りながら叫ぶ。
「まだ余裕そうだな」
観戦している同級生たちは笑うし、教官の攻撃は激しくなる。僕は魔術反応から先読みして、回避を行う。
だんだんと教官たちの連携がよくなり、逃げ場が減っていく。
「ギブアップしたいです」
「却下」
「認めません」
「逃げるな」
ヒドイ。
試験時間いっぱい、僕は逃げ続けた。試験終了後、無傷のままの僕に向けられる視線が優しくない。
「お前の戦い方は軍人としては失格だ」
「目指してないから、魔術学院に返してくださいよ」
ぼやいたら、罰則にグランド十周をいいわたされた。
理不尽だ。
次の更新は未定です。
来週中には更新できると思います。




