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勇者の性質

全身鎧の笑い声は威圧が混じっている。

膨大な魔力を隠すことなくまきちらした。


「我、ダル・ダム・バワン様の配下、魔人四天王ガウ・カウ・ラウなり。勇者の首、もらいに来た。いざ、尋常に勝負せよ」


なんだろう?

魔力は多いし、威圧感もあるのに、すごく残念な感じが漂っている。あと、勇者は僕の隣で、あなたがに見ている先にはいません。


チビっ子勇者は驚いてはいるが、怯えた様子はない。保護者の冷ややかさが半端なくて、サムイルはどこかうきうきしている。


まっとうに怯えている僕って凡人だな。


腕輪からサムイルは剣を抜く。そして、こっちを見ることさえしていない魔人に向かい、斬撃を飛ばした。


腕を一本落とし、胸部から腹部にかけて大きく鎧武を傷つける。どうやら魔人の血も赤いようだ。


「勇者のくせに奇襲とは卑怯なり」


今、攻撃したの勇者じゃないよ。


なんか、魔力量のわりに弱くねぇ?


「とどめはもらうわ」


宣言すると同時に保護者の魔力が高まる。僕はチビっ子勇者の両目を片手でふさぎ、自分の目をきつく閉じて顔をそらす。


強い発光が起こり、目を開けた時には魔人の姿は消えていた。光でこの場にいる人すべての視界をふさぎ、禁術を使ったぽい。


僕はチビっ子勇者から手をどける。


「サム、かたづけろ」


しぶしぶ剣を腕輪に戻す。不満そうだが、もう剣の出番は終わった。


「っち、もうちょい魔力のせとけば、一撃でやれたな」

「元気だな。とりあえず、もう襲撃なさそうだから、宿に戻るか」


この場で宴を続けるのもムリだろうし、引率の先生には生存とケガなしの報告をしておけば帰っていいだろう。




一夜明けても、僕の身体の調子は全快にならなかった。

まだ日常生活に支障がでるほどではない。だか、放置すれば、いずれ困るようになる。カヌメの家にはレヴィエスの気配があるり、こちらの状況を理解しているのだろう。

今日は、僕もレヴィエスに用がある。逃げないで、お邪魔させてもらう。


玄関を開けるとカヌメは台所へ戻る。僕は居間に向かった。居間ではレヴィエスがくつろいだ様子で、新聞を読んでいる。


「助けて下さい。お願いします」


できれば、竜になんて頼りたくなかった。でも、これ以上体調不良が続くのはよくない感じがする。

確実にどうにかできる相手が、レヴィエス以外思い浮かばなかった。


なんか、楽しそうな気配がレヴィエスから漂ってくる。もう、逃げ出したい気分だ。

頼ったのは、早まったか?

いや、でも、この不調は自力では治らない気がする。


「まずは、勇者についての感想を聞こうか」


圧迫試験を受けている気分だ。


「人ならずヒト。魔力の性質が毒物のようで、この世界の生き物とは相容れない」


異界の生き物。似たような姿をしていても、獣人や竜なんかより遠く離れた存在だ。

この世界の異物。僕の身体に残る勇者の魔力が、僕の不調の原因になっている。


国際交流会で、もっとも勇者の魔力を浴びたのは僕だ。勇者二人を相手にしたサムイルより、魔術での攻撃を防戦一方で受けた僕の被害は大きい。

サムイルは無傷だったし、魔力が多いから同じだけの魔力を浴びても影響は少ないはず。


こうなるとわかっていれば、開始早々に負けておいただろう。だが、後悔は後になってからしかできないし、勇者ってモノの異常性を僕は理解できてなかった。


「勇者の魔力の残滓を僕は自分の魔力で払拭できない」


かなり長い年月をかけて、僕は衰弱死にいたるはず。早くどうにかしないと、後遺症がでそうな不安がある。


「殺すにはいい魔力でしょうし、反発力が強いから結界にも適してます」


扱いにくいが、攻守ともに効果が高い。ただ、魔力の少ない者は勇者が魔力を使う時にそばにいるのは危険だ。


「たぶんですが、勇者は竜でも殺せますよね?」

「可能だ」


あっさりレヴィエスは認める。


「それでも勇者召喚の邪魔はしないんですね」

「勇者だけなら、この大陸から出られない。空も飛べない。危険はあるが、脅威にはならない」


竜基準だと、問題なしか。


カヌメの気配が台所から移動してくる。


「食事にしようか」

「はい」


頭を切り替えよう。

レヴィエスはカヌメに勇者についてのことを聞かせるつもりはないようだ。




食事が終わると、カヌメが食器を下げにいく。

カヌメの姿がなくなると、強固な結界で部屋が閉ざされた。


レヴィエスが魔力の塊を手の平の上に生みだす。白光する球状の魔力の塊に魔術が刻まれていく。


「激痛をともなうがすぐ回復する方法と、魔術を解読して自力で痛みなく回復する方法がある。どっちらを選ぶ?」

「激痛は、人間基準?」

「どうだろうな? 勇者の魔力を分離させる必要があるから、生爪はがす痛みが全身でするくらいだろう」


まるでたいしたことないようにレヴィエスは告げたが、生爪はがすって拷問に使われるくらいには激痛だよな。


「魔術の解読をがんばりたいです」

「時間かかるぞ」


時間短縮で激痛は嫌です。

昼までと期限を切られ、僕の白光に触れる。両手で覆い隠せるくらいの大きさなのに、魔力の密度が高くて情報量が多い。




だるい。頭痛い。

身体は回復したはずだか、疲労で動きたくなかった。


昼過ぎ、どうにか勇者の魔力を体内こら追い出せたはず。汗をかくほど集中してがんばったのだが、回復を実感できない。


長椅子を借りて仮眠を取ることにした。

レヴィエスがいるから熟睡はできないが、仮眠をとれるくらいにはレヴィエスの気配に慣れてきている。


横になると、レヴィエスが結界を消した。カヌメが部屋に入ってきて昼食だと主張する。

せっかく作ってもらったことだし、寝るのは食べてからにした。


昼食をとりながら、レヴィエスが優しく告げる。


「ルキノ、そっちの要求はのんだ。今度はこっちの要求をのむ番だ」


もとから拒否権なんてないから、そんな言い方しなくてもききます。お願いする時点で何らかの条件を出されるのは覚悟もしていたし、危険性が高くない要求を願うだけだ。


『カヌメを雇え』


念話ってことは、カヌメの意思はムシ?


マルクが稼いでくれているし、一人くらいなら雇える。だか、カヌメに何してもらえばいいんだろう。

何もしなくても、治療費代わりにカヌメにお金を払うくらいはできる。


目的がわからないと、どう扱えばいいのかがわからない。


上手く、やれるかな?


『詳細、は?』

『念話を使えるようになったか』


初めて使ったが、どうやら通じたらしい。


レヴィエスの話を聞きながら、僕はカヌメに料理の質問をした。

次の更新は12月7日です。

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