魔人の襲撃
国際交流会閉幕。
試合が終われば、慰労会を兼ねた友好交流の宴がある。
個人戦優勝のサムイルのまわりには人だかりができていた。
僕は友好交流をはかる夜会で、西の国の勇者ご一行から冷たい視線をあびている。面倒なので、チビっ子勇者とその保護者の背後に僕は隠れた。
「どうしてアルシェイドはあなたみたいなのとお友だちしているのかしら?」
「あなたが子守をしている理由と似たようなものじゃないですか?」
嫌そうな顔された。
アルシェイドに会いたい。いると便利なんだよな。今のサムイルは風よけにならないし、フライは頼りない。
その点、勇者の保護者は頼りになる。面倒みがよさそうで、僕としては都合がよかった。
「あの子、あなたにいいように使われてそうね」
「たまに、そちらのお手伝いしてますよ」
すっと僕の腕をつかむ。ちょうど、腕輪のあるところだ。
「聞いているわ」
「どんな話をされたか気になります。僕はあなたのこと、ハニートラップと聞いていたので」
「君はかわいいペットよ」
妖艶に微笑まれて、ぞわりとした。このお姉さまに僕じゃ勝ち目がない。逆らったかいけない方だと理解する。
「弱者をいじめないで下さい」
「あら、かわいがってあげたたけよ」
こんなのに懐けるとは、チビっ子勇者、つわものだ。
お話しつつ、適当に食事をつまんでいたら神経にさわるものがあった。
「お姉さん、武器は控え室?」
僕の態度の変化を視線で問う。
「僕の感知範囲はアルシェイドより広いですよ」
告げれば、チビっ子勇者を回収して会場を出る。
僕は仕方なく、人だかりの中心にいるサムイルに手を振った。人の輪から外れてきたサムイルに視線だけで会場を出るように促す。
「どうした?」
「武器がいる」
急いで国別の控え室に向かう。自分の荷物を身につけていると、爆発音がした。
会場の護衛が魔術を使っている。だか、足りない。宴の広間まで魔物はくるだろう。同国の人たちが控え室にくるのと入れかわりに、僕らはロビー出る。
「ルキノ、座っていろ」
正面入り口の見えるソファーをサムイルに勧められた。僕が座った横にサムイルが立つ。
「参戦しなくていいのか?」
「今のお前を一人にはしたくない」
これは、ばれているな。
僕はソファーにもたれかかる。身体だるさがまだとれていない。身体にダメージが残りすぎている。
目を閉じて、感知する範囲を広げた。消えていく命を感じる。街の中にたくさんの魔物がいて、国の施設にも攻撃が仕掛けられているようだ。
ここの場に集結しつつある魔物も少なくはない。この魔物は対勇者用だろう。会場の護衛では荷が重すぎる。
目を開け、感覚を部分遮断した。集めた情報をどう使うか迷う。自分の身体が万全でないのがつらい。
迷っている間にチビっ子勇者が保護者と一緒に出てきた。
「君たちここにいたの」
「戦闘できるほど身体が動かないから」
保護者は僕の隣にチビっ子勇者を座らせ、守るように立つ。気負いはなく、淡々と正面入り口の様子を見ている。
「少し、魔力くれないか?」
僕は自作の小さな杖を一つかみチビっ子勇者に渡し、魔力を注いでもらう。杖の核は小さい魔石だし、チビっ子勇者にとってはたいした魔力ではなかったようだ。
神経にさわる魔力に、僕は身を起こす。サムイルが警戒するように視線をめぐらせ、西の国の勇者一行を見つける。
顔が険しくなった。
サムイルの意識が正面入り口からはなれた間に、状況が変化する。僕はチビっ子勇者に魔力をこめてもらった杖を一本投げた。
壁や扉を破壊し、炎の塊が飛び込んでくる。
ぎりぎりで魔術防壁が間に合う。なんか魔術が使いにくい。魔術が発動するまでに誤差がでた。
炎が消えると、魔術防壁を消す。西の国の勇者一行が、魔物退治に出て行く。
魔力の反応からすると女勇者は庭から魔物退治に出たようだ。勇者に任せておけばこの場は大丈夫だろう。
討伐が終わると、勇者たちは被害の治らない街へ向かった。この場から勇者たちが分散させられると、動き出した気配がある。
指先が震える。この感覚は久しぶりだ。
強いだけの相手に、僕はもう震えたはしない。けど、強さと危険性をあわせ持つ相手は別だ。
「ルキノ?」
「敵がくる」
明確な害意を持って、勇者のいるこの場に来る。他の勇者のところへも、向かっていた。
害意の先は僕じゃない。隣にいる勇者だ。
今ならまだ、逃げられなくはない。だか、他の勇者ならともかく、保護者のいる子どもにすべて押しつけるのは気がひける。
僕が逃げるとサムイルは一緒にくるだろうし、サムイルって戦力を残すためにこの場に踏みとどまるくらいはしよう。
「サム、腕輪の武器。必要だと思えば使え」
妖精石を使って作った腕輪をサムイルとアルシェイドにはあげた。サムイルの腕輪には、幻影ダンジョンで手に入れた素材で作った武器をしまってある。
洗練さで、師匠の作った剣にまだ勝ててない。でも、素材よさで強度と魔力伝導率で優っている。
サムイルも気にいってくれているが、素材の出処は知られたくない。そのため、常時使用はしてほしくなかった。
「わかった」
サムイルがニヤッと笑う。
こいつは、敵を前に怯えるってことはないらしい。
危険を察知する。僕は杖を三本投げて結界を張った。
重い衝撃が来て、天井の一部と壁が消失する。
突起のある不思議な鎧をつけたヒトがいた。
背後の空は禍々しい赤に染まっており、市街地では火災が起きている。
全身鎧のそいつは、高らかに笑い声を響かせた。
次の更新は12月4日です。




