個人戦
サムイルがチビっ子勇者と対戦になった。
チビっ子勇者、魔力の使い方がまだ荒い。勝とうと思うばサムイルはいつでも勝てただろう。
打ち合いが続くのは、サムイルが指導するように受けにまわっているからだ。観客席は盛り上がっているが、見る人が見ればわかるくらいには明らかな差がある。
試合終了間際にサムイルは、チビっ子勇者を場外に吹っ飛ばして勝利を得た。チビっ子勇者はちゃんと受け身をとったし、ケガもない。
掃除が必要なほど血を流させたり、ムダに大ケガさせる人が多いからサムイルの戦い方がきれいに見える。サムイルには自慢するための魔術なんていらない。
そんな目立つことしなくても、チビっ子勇者も負けを認めている。だから、懐いたんだろう。
フライと観戦中の僕のとこへ、サムイルがチビっ子勇者とその保護者を連れてきた。
「どうだった?」
「よくできました。でも、最後の剣の使い方、何回かしたら剣に強度ないからすぐに壊れるよ」
「控え室に行ったら異常ないか調べてくれ」
僕はこれから試合なので、その前に確認しよう。
「こいつについてはどう思った?」
サムイルがこいつとチビっ子勇者を指差す。
「魔力の使い方が下手。ここの試合で貸し出される武器は使わないほうがいいの。変なクセがつくから、魔力にあった武器を使うといい」
「ヘタ」
なんかショック受けられている。
「武器が悪いせいもあるし、魔力量が多いから制御しきれていない。ムダを出すことで余分な魔力を減らしてるから、そこは仕方ないとしても、魔力の質は均一にしないと攻撃が全部読まれる」
「ど、どうしたらいいですか?」
「君らみたいな魔力の多い人は細かい制御はとりあえず忘れて大きな魔力を使うといいよ。長時間一定の魔力を使うことを覚えて、魔力がカラになったら細かい制御を意識する」
チビっ子勇者の魔力はサムイルほど荒々しくない。その分、サムイルよりは制御しやすいはず。
サムイルは制御が大変だが、魔力の質として攻撃に特化している。戦うため魔力だ。
戦の華。英雄になるための魔力。目の前の勇者よりよほど戦うのに向いた魔力をしている。
僕が保護者と訓練の仕方を話しあっていたら、カヌメが昼食を持って来てくれた。
近くの公園へ移動して食事をとる。カヌメは勇者に興奮していた。かわいいとお気に入りだが、チビっ子勇者はぐったりしている。
保護者は微笑ましそうに見ているので、チビっ子勇者を助ける人はここにはいない。
子ども、好きなのか。
悲しいね。
カヌメの魔力に混じる一滴の異物が、相手を選ぶ。
食事が終わると僕は会場に戻った。
今日の相手は女勇者の取り巻き。純種の獣人。ネコ科系の獣人で、動きが速く、自前の爪を武器にしている。
身体能力が高い接近戦タイプ。
僕の勝機は多くない。集中力がいる。
試合開始の合図の前から、僕はいつでも大ぶりのナイフを抜けるように準備した。
試合の開始がつけられる。
ナイフと爪がぶつかった。
僕はため息をつく。間に合ってよかった。
対戦相手が足元に倒れる。同時、僕の手にしていたナイフの刃も砕けた。
もろい武器。爪を受けたせいもあるが、僕程度の魔力でも壊れる。
獣人の爪は身体の変化だが、大きく伸びるのは魔力によるものだ。魔力でできているので、魔力伝導率はいい。
僕は爪を受けると同時にそこから電撃を流しこんだ。
勝利宣言を受け、僕は試合場から出る。
これで、次の対戦相手はたぶん西の国の勇者だ。
気が重い。
西の国の勇者は一回戦の仲間の敵討ちと、盛り上がっている。集団戦は今日は試合がないし、勇者相手に勝利は難易度が高い。
せめて薬物使わせてくれたら、やれることもある。僕の残りの武器は剣が一本に大きさの違うナイフが三本。
武器の制限がなければ、状況に合わせていくらでも作れるのに、それもできない。
魔力量が違うのに装備ばかり同条件では、ツライ戦いになる。とにかく、大ケガだけはしないように立ちまわろう。
準々決勝。
当然のごとく、西の国の勇者との試合は防戦一方になった。結界に閉じこもる魔力なんてないから、受け流すか避けるしかない。
遠距離からドカドカ魔術を打たれたらどうしようもなかった。距離をつめるすきもないし、剣での打ち合いになっても身体能力で負ける。
試合場ぎりぎりで、相手から最大値の距離をとり続けた。
このままいけば判定負けだな。ケガするよりはいいだろう。集団戦が負けてくれればなおいい。
でも、勇者は判定勝ちは嫌なようだ。剣を抜いて襲いかかってくる。
重っ。
試合場ぎりぎり、残り時間わずか。
仕留めにきたのがありありとわかる。
判定勝ちでも、勝ちは勝ち。仕留めに来るのが強者の傲慢。僕が勝ちを狙えるのはそこしかない。
自力じゃ足りないから、勇者に試合場ぎりぎりまで来てもらう必要があった。
魔力の動きも、身体の動きも感じとれる。体勢を入れかえると、持っていた剣の魔石を爆発させた。
まずい。
足りない。
ナイフを二本抜いて二つとも爆発させた。
勇者は試合場から出たが、元気そう。こっちは爆発の向きを考えて、自分には最小の影響にしたのに余波でふらふらだ。
残りの武器はナイフ一本だし、歩くのつらい。試合場を出たらサムイルが迎えに来てくれたから、担がれて救護室へ向かう。
軽く診察をうけて、回復薬をもらった。
まずい。
苦いし、後味も悪い。
最悪だ。
自作の回復薬が飲みたい。
「だるい」
つぶやけば、荷物扱いで控え室まで運んでくれた。
「よく勝てたな」
「まさか、勇者相手にお前が勝つとは」
どうやらサムイルがチビっ子勇者を倒すより衝撃的だったようで、かけられる言葉は驚きばかりだ。
僕はイスに座らせてもらい、カヌメに作ってもらった焼き菓子を食べる。
「ところで、明日の試合はどうする?」
先生に声をかけられ、僕は首をかしげる。
「準決勝第一試合はサムイルとルキノだ」
「それはもちろん僕が棄権で」
もう試合は嫌だ。
「棄権はダメだ」
「同国同士ならありでしょ」
「棄権だと三位決定戦にでれない」
それは、でたくない。
僕、もう疲れた。
「僕、ナイフ一本で試合はムリ。四位で充分です」
今更だが、四位か。
勝ちすぎたかも。
集団戦の結果しか意識してなかった。自分の結果には興味なかったし、順当に判定勝ちを選ばなかった勇者が悪いよね。
責任転換しても状況は変わらないけどさ、なんで集団戦は決勝戦進出を決めるかな。君らが負けていれば、僕は勝とうなんてムチャなこと考えなかったんだよ。
準決勝第一試合。
試合開始が合図されると、サムイルが鞘に入ったままの剣を投げてよこす。僕はそれを受け取り、朝の練習のように剣を合わせる。
剣技だけで普通に戦って、サムイルに手加減されたまま負けた。僕のほうも勇者とやったときのような危機感がなくて、集中力がない。やっぱり勝てないと思うだけで、悔しさはなかった。
「優勝しろよ」
「お前はケガすんな」
勝てとは言わない。さすが幼なじみだ。サムイルは僕のことがよくわかっている。
午前中に準決勝二試合が終わった。午後から三位決定戦が行われ、最後に決勝戦が行われる。
僕の対戦相手はまた、西の国の勇者の取り巻き。あちらさんやる気だけど、僕にやる気はない。引率の先生とも話し合いすんでるし、棄権よりは負けてこいとのことだ。
三位決定戦。
試合開始の合図がでる。前に戦った水属性の子より、今回対戦の火属性の子のほうが攻撃魔術を使うのが速い。僕はナイフを抜く。武器を襲いかかる豪炎に投擲し、審判の背後に逃げた。
豪炎に武器が破壊されると審判が試合を止める。
すっごくにらんでますが、試合終了です。すべての武器を失った僕の負け。
勝利宣言されたのに不満そう。
武器を壊させろと助言したのは引率の先生だ。
あなたに負けたんじゃない。ルールに負けたんだっていいわけできるようにらしけど、僕にはそんないいわけする相手はいなかった。
いいわけが必要なのは先生だろう。
控え室まで引っ込まないで、そのままサムイルの試合を見ていく。
決勝戦の開始が合図された。
女勇者は魔術が得意なタイプ。接近戦は苦手ぽい。
開始早々サムイルに間合いをつめられ、接近戦をさせられたので試合が決まったといってもいい。
サムイルの剣技についていけない女勇者は結界に閉じこもる。僕と違って、サムイルは持っている魔力が多い。なんのひねりもない単純な結界なら壊す。
女勇者はサムイルに場外へ吹っ飛ばされた。
サムイルがドヤ顔でこっちを見るから、笑って拍手しておく。誰よりもサムイルは勝利がよく似合う。
表彰式、何故か僕は特別賞をもらった。大会運営委員会の投票でもらえ賞で、僕が西の国の勇者を倒したのは、今大会一番の番狂わせらしい。
少ない魔力でよくやったとか、あの魔力差でよくあきらめなかったとかさ、ほめてないよね?
大会出場選手の中じゃ少ないだけで、世間一般からすれば僕の魔力は少なくない。あと、僕によくやったといっている人たち、西の国の勇者嫌いだろ。
そういう人の票が集まったようだった。
次の更新は11月30日です。




