三人の勇者
国際交流会で使う武器を見に行く。
今年はサムイルのしか、面倒は見ない。そう、完全拒否していたのに、魔石だけでいいから確認してくれと頼まれた。
個別に見るよりはマシだから補欠選手を借りて、使える魔石を取りおく。武器を選んだ人はそこから、使いたい魔石を選んでもらう。
魔石の選別だけなら拘束されるのは一日だけだし、アルバイトとしては悪くない。
選手登録をしているから、勇者も魔石を選びにくる。
女の子を引き連れてやって来たのは西の国の勇者。去年よりは使える魔力になっていた。
どうやら、ただ人とは成長の仕方が違うらしい。ぜひともそのまま成長して、大陸に安寧を導いて下さい。
僕、竜より勇者のほうが気楽に祈れる。
次に現れた勇者は女の子。取り巻きは獣人や半獣人なんかを含む奴隷たち。同国の貴族子息令嬢より、取り巻き奴隷を優遇している。
身分制度の厳しいガイナート帝国での行動だ。状況が理解できないバカか、何らかの目的があって行動している才人か。凡人ってことはなさそうだ。
あと一人は、アルシェイドによればハニートラップに引っかかり中とのこと。三人の中で最初に現れた勇者はどんな人だろう。
ラザード帝国が召喚し、今まで隠されてきた男がついに姿を見せる。
うん。あれはハニートラップじゃないな。
アルシェイドと同類の女性に懐いているが、あれは保護者だ。恋人枠じゃなくて、母親枠。
今、10歳って、召喚されたの何歳だ。
じろじろ見られて居心地悪そう。涙目になっているし、まさにママの後ろに隠れる子どもだ。でも、魔力は多いし、将来は期待できそう。
今すぐ、がんばってくれそうにないのが残念だ。
僕は公開練習なんてしない。見せれば見せただけ、弱点をさらしているようなものだ。
これだけは誰にも負けないとか、これが決まれば勝てるなんて強さはない。だからこそ、攻撃手段は極力見せたくなかった。
しかし、試合会場に入れる機会は利用しておく。試合の場がどういう所かは、知っておきたかった。
僕としては、集団戦が負けるまでは勝ち残りたい。選手じゃなくなったら武器調整してといわれているので、どうしても負けたくなかった。
個人戦予選の抽選は終わったので、同じブロックに当たっている人の練習を見に行く。手の内を全部さらすような人はいないだろうけど、魔術の癖はつかんでおきたい。
予選は運に助けられた。
勇者や注目選手は同じブロックにいない。注目選手や勇者がつぶし合う波乱の予選と騒がれた。
去年の本戦で何度か勝ったサムイルも注目選手の一人であり、西の勇者の取り巻きやガイナート帝国の勇者の取り巻きを倒して本戦に進む。
初出場者ばかりで、初々しかった僕のいたブロックとは比べものにならない試合に逃げ出したくなる。集団戦、本気で一回戦で負けてくれないかな。
去年、まったく見えなかった試合を見たところ、僕は選手になるべきじゃなかった。
今更だか、補欠選手登録をして、出発直前に病気かケガを演出しとけば、士官学校は魔術学院ほど先生が薬学に詳しくないから、不参加を狙えた可能性は高い。
手加減の下手なのに当たって負けたら、重傷だ。一対一なのに魔術学院の混戦になる演習よりケガがヒドイ。
気合が空回りして、オレスゲーって技を見せびらかしているみたいだ。
自己陶酔して、大技が決まった者が勝ちって状況が重傷者続出の原因ぽい。
気配消して、いろいろ盗み聞きして見る。結果、目立って勇者パーティに入れてもらおうとしているらしい。
西の国の勇者はたぶん、男はどんなに実力あってもダメだ。
女勇者は、反応を見ている限り対戦相手が大ゲカすると不快そう。あと、筋肉ムキムキなのも苦手ぽい。
チビっ子勇者は保護者しか見てないし、寄ってくる人は保護者が選別している。
勇者には近づきたくないから、個人戦はがんばりたくないのに、集団戦は負けてくれない。仕方なく、僕は本戦、一回戦の勝利を目指す。
相手は西の国の勇者の取り巻き。魔力の多い水属性の魔術が得意な子で、控え室では癒し系で胸がデカイと人気がある。
予選は対戦相手を毎回溺れさせており、負けた人は打撃系で負けるより苦しかったはず。苦痛が長いのが最悪で、魔力の感じからしても穏やかな子じゃない。
僕は嫌々、試合に臨む。
ご丁寧に自己紹介してくれたが、スルー。僕は剣を抜いて切るかかる。
「あいさつをしているところに斬りかかるなんて卑怯よ」
対戦相手のお仲間さんからヤジが飛ぶ。これもスルー。
だって、試合の開始の合図はあったし、対戦相手はあいさつしながら魔力を練っていた。放置したらこっちが負ける。
僕は近距離で攻撃を続けた。すぐに杖ではさばききれなくなって、相手の子は結界の中に閉じこもってくれる。僕は結界維持を続けてもらうために、軽く剣で攻撃を続けた。
無駄に丈夫な水属性の結界。レオナより下手だ。
結界維持と攻撃の両方はできないようで、膠着状態になる。この場合、試合終了時間まで現状維持をすれば僕の判定勝ちだ。
試合の残り時間を知らせ砂時計の砂はどんどん減る。半分ほど落ちたところで、結界とかれた。結界が消えるタイミングのわかっていた僕は次に備える。
単発で放たれる水属性初級魔術水弾。僕は身体能力だけでそれらをさけ、足払いをかける。水弾を次から次に打てる魔力はうらやましいが、単発で直線的な攻撃だけじゃ怖くもない。
僕は倒れたとこに剣を突きつける。
この子は後方から大魔術を使うと強い。でも、近距離で戦う技能はなかった。だからこそ、あいさつで時間稼ぎをして魔術を練りたかったのだろう。
審判が僕の勝利宣言をする。魔術を使ってないことに対するヤジをかけられたが、知らない。まるっとスルーして控え室に引っ込んだ。
次の試合までに集団戦が負けてくれることを願いながら、僕は会場を後にする。ふらふらっと、街を見ものしてからカヌメの家に夕食を食べに向かう。
帰りには朝食をもらって帰り、昼ごはんとおやつは会場で差し入れしてもらう。昼はサムイルにばれてから、二人分作ってもらっている。
時間があるならこの国の料理を覚えてみたいが、試合があると難しい。時間のかからない簡単なものを、夕飯の前に一緒に作るくらいしかできなかった。
次の更新は11月27日です。




