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閑話 待ち望まれた子

人の姿をした人ではない者がいる。

人ではないヒト。


あたし、カナリアはそんなモノに雇われている。

親が誰だかわからないし、姓がなければ、戸籍もない。物心ついたときには、あたしは物として使われていた。


カールクシア王国には奴隷制度がないから、奴隷の首輪をつけられなかった。差は首輪だけで、扱いは同じ。

あたしはいつもダンジョンを進む時は先頭にいて、逃げる時は最後尾にいた。所有者を守る生きた盾、それがあたし。


死はすぐそこにあって、あたしと同じ役目の子はみんなすぐに死んでいった。その頃のあたしは、ろくでもない扱いに死を選んでいる。死んでいく者たちをそう思っていた。


だって、ダンジョンの罠ってどこにあるかだいたいわかるでしょ。みんなわかっていると思っていたし、泣いたりわめいたりすると殴られる。話しかけたって相手にされないんだから、あたしは何もいわない。


一人、罠の先に進まされてもあたしは従うだけ。そのあとをついてきた人がみんな死んじゃっても、あたしはわからなかった。


あたしが見て感じているものが、他の人にはわからない。そのことを知らないままあたしは何度も所有者をかえ、いつもあたしだけが生き残った。


死神。


そんなあだ名がついて、呪われた子と呼ばれるようになった頃、レヴィエスに買われた。

レヴィエスは表情の変わらない男で、怒ることもない。なにか得体の知れないモノを感じたけど、殴らないし、飢えないようにご飯をくれるいいご主人様だった。




半月一緒にいて、レヴィエスはあたしを店の人に預ける。言葉づかいを改め、文字を覚えるように命じられた。


今思えば、あたしは半月でレヴィエスの関心を失ったのだろう。興味をなくしたから、店で使えるように教育を始めた。


いらないからと捨てるのではなく、生きられるように育ててくれたのは感謝している。むかしは感謝なんて思いを知らなかったし、レヴィエスはあたしを物から人に変えてくれた。


だから、あなたが人間じゃなくたって好き。


十年以上その姿を変えないヒトだっていい。あたしはダメだったけど、いつか、あなたが待ち望む探索者が現れてくれるのを一緒に待つわ。


あたしはあなたの望みが叶うことを願いながら、いつまでもいつかのままでいてほしかった。




最近のあなたは楽しそうね。

あたしは少しさびしいわ。


女の子でなかっただけ、いいかな。


レヴィエスがご執心の男の子は魔術学院の学生さん。同年代の子と比べてもちょっと小さいけど、賢そうな顔をしている。


年末、彼はレヴィエスを見て怯えていた。異常な気配が怖いらしい。でもね、人間の中では感覚が鋭いといわれているあたしが、まったくわからないよ。

長いこと一緒にいて、年とっていなかったからわかったの。


おかしいのはレヴィエスが異常と騒げる君だから。


どうやら冬の間、一月以上レヴィエスはルキノと一緒にいたらしい。それでも興味を失っていないようで、どこか浮かれていた。


ルキノはやつれてたけど、レヴィエスは嬉しいそう。感情がわかりやすいレヴィエスなんて新鮮だわ。


「なんで彼、あんなに逃げ腰なの?」

「自己防衛だ。弱い自覚がある」

「でも、魔術学院の生徒ってエリートよ」

「人間の子どもとして優秀なだけだ。あの子は自らより強い者がいくらでもいると知っている」


弱いから身を隠す。でも、隠れるのあんまり上手くなさそう。レヴィエスに見つかっちゃてるし、お友だちが目立ちすぎてる。


なんか、レヴィエスから逃げたがっているけど、無駄な努力よ。レヴィエスに声かけられて期待に応えられなかった人は十や二十ではすまない。

君が生まれる前からレヴィエスは探してたの。変わりなんているわけないわ。訓練してどうにかなるなら、あたしがレヴィエスに役に立ちたい。


君、わがままよ。恩恵を受けているんでしょ。

特別大事にされているんだから、感謝しなさい。




夏、レヴィエスにルキノの望むように飛竜を貸すよう命令された。ロハって優遇しすぎ。レヴィエスが楽しそうだからやるけど、ルキノがお友だちと向かう町で毎回魔物騒動が新聞をにぎわせている。

それも、毎回魔人の関与が疑われるものばかりだ。


レヴィエスも浮かれているし、絶対あの子、なんかやっている。注目集めたくないなら、もっと考えて行動しなさいよ。


バカじゃないの?


移動した先々で問題が起こるだけだから、まだ注目はされてないのか。わかりやすい魔物を倒した英雄なんかではないから、騒動にあいやすい不運な子って感じでまだすんでいるかもしれない。


やらかしたってわかるのは彼が探索者って知る人だけ。そして、レヴィエスが貴族らしい人にルキノの飛竜での移動履歴あげていた。


ルキノは夏にレヴィエスの誘いを断っている。そのくせ、飛竜は利用した。学業に影響が出ないように強引なことはしなかったようだけど、何か画策はしているわね。




秋になって、魔術学院の生徒だったはずの彼は士官学校の制服を着て現れる。レヴィエスをとっても恨みがましい目で見ていた。


今年の国際交流会はどうしても参加して欲しかったんだって。魔術学院より士官学校の方が選手枠が多いから、手配したみたい。


お友だちと一緒なのはたぶん、温情よ。最大限、レヴィエスに感謝するといいわ。


なんか、ルキノに憐れみに満ちた視線を送られた。

あたし、君に同情される覚えはないわよ。

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