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家族

三つ年上のライル兄は町のギルドに属している。

魔物の討伐や採取をして生計をたてているらしく、戦える人の格好をしていた。


全体的に武器や防具がしょぼい。これを放置して兄に何かあったら寝覚めが悪すぎる。


「兄さん、装備を新しくしよう」


ダメ出しには不満そうだったが、ただならもらってくれるらしい。素材は妖精石の中にあるが、出し入れしているところを見られるのは避けたかった。

一度祖父母の家に行き、鞄にいれていたことにする。


工房の隅を借りて作業を始めれば、父がのぞきこんできた。何を作るか気になるらしい。


「親父、これなんだ?」

「魔物素材だろうが、見たことないな」


父だけでなく、長兄も興味津々だ。海底ダンジョンの素材だから、目立つところには使えない。でも、幻影ダンジョンの素材よりは常識的なはず。


つきあいのいいアルシェイドは次兄に魔術を教えてくれている。魔術の基本を知っているかどうかで生存率が違う。

我流なのは仕方ないが、せめて自分の得意属性と苦手属性は知っておいてもらいたい。

仕事を選ぶときの参考になるはずだ。


丸一日かけてライルの装備を魔術加工していたら、やっと父に魔術が使えるのを信じてもらえた。アルシェイドも魔術学院の生徒だとライルに信じてもらうのに時間がかかったらしい。


「僕の武器も防具も、予約待ちなの。一式そろえたら大銀貨がいるよ」

「本気で首都に店があるのか?」

「学生が優遇されて店を出せる地域があるの。僕を援助したいっていう商人もいるし、夏にはいっぱい賞とったの、見せただろ」


やっと話を聞いてくれるようになったので、熱弁する。

うちの家族はみんな師匠からの手紙を信用してなくて、僕の手紙は調子のいい夢物語としか思ってなかったようだ。


「ルキノくん、魔術学院でも優秀ですよ。先生からも目をかけられていますから」


アルシェイドの協力で、やっと僕がまともに生活できていることを信じてもらえる。これで少しは師匠に対するあたりも柔らかくなるだろう。


魔術が使えると信じてくれたとたん、家中の魔術具を点検させる母。息子が無料の修理屋になったと思っているぽい。

祖父母の家ならいいが近所の家まではムリ。魔石の無料提供はやれません。


リボンやレースのハンカチ。焼き菓子を妹たちに与えれば、王都に行きたいとねだられた。

学生寮に家族は止められないことをしっかりと教えておく。




村には五日滞在した。

町に下りる道をライルに先導されて行く。


「ルキノ、お前、今もサムイルと一緒にいるだろ?」

「いるよ」

「あいつがドラゴンスレイヤーになったときもか?」

「ギルドに属していれば、そういう情報は聞こえてくるよね」


所属している職能ギルドは違うが、同業者。村にいる両親より知れることは多い。


「海底ダンジョンに行ったってマジ?」


どれだけ情報が出回っている?


「どんな話聞いたの?」

「聞くのはサムイルのことばっかだ。一緒にいる人のことは槍使いがいるとか、すご腕の剣士や魔術使いがいるってくらいか」


師匠たちの情報も流れているのか。


「兄さん、いつか落ちついて暮らしたくなったら防具を鑑定に出して。でも、手放すがないなら鑑定したらダメたよ。悪人を呼びよせるくらいには、海底ダンジョンの素材は高品質だから」

「へー、すご腕パティーの荷運び小僧がお前ってわけだ」


ダンジョンを潜るときの荷運びは見習い扱いだ。僕はあえて訂正するつもりはない。でも、アルシェイドが大きなため息をつく。


「ルキノ、面倒がらないでちゃんとお兄さんと話した方がいいぞ」

「アル?」

「危機感が足りない。お前さ、自分が騎士にどんな扱い受けたのか覚えているか? お前の後ろ盾、お前のことは守っても家族までは守ってくれないだろ」


僕にしたって、死んでなければいいって扱いだ。大事に守ってくれるわけじゃない。

面倒になればどこか人の手の届かないとこに隔離でもいいわけで、僕の意思や自由を守ってくれはしないだろう。


「どういうことだ?」


低い声を出して、ライルがすごんでくる。


「家族が僕に対する見せしめとか脅しに使われるかもしれないって話。貴族にその気になられたら対抗手段もない」

「お兄さんも弟のことは誰にも話さない方がいいですよ。無実の罪で投獄や処刑はされたくないでしょ」

「何を大げさに」

「お話させてくれって着いて行ったら、いきなり拘束された。あと何時間か助けが遅かったら、今頃帰省なんてできなかったよ」


洗脳されていれば、今頃傀儡スパイだ。ウソはついてないけど、僕の言葉はライルに届いてない。

でも、ぺらぺらしゃべられると困るし、利用価値を見出されたらライルが危険だ。


危機感をもたせたいが、どうすればいいかわからない。悩んでいたらアルシェイドが普段は抑えこんでいる魔力を少し解放する。そのままライルを威圧した。


「魔術学院はサムイルみたいなのとお貴族さまがいるの。冗談じゃなく危険だよ。僕と関わりのある発言するのは」


まだ、理解はしてくれてなさそうだが、少しは考えてくれたぽい。


ちょっかいを出されたのが、洗脳されかけた一回きりだったから忘れていた。Aクラスにいるってことは、いつ利用しようとする人が現れてもおかしくない。

それだけ情報の得やすい立場にいるってことだった。




町にも一緒に行かない方がいいと、アルシェイドの助言を受けてライルには一度村に戻ってもらう。


「ルキノ、お前も警戒心なかっただろ?」

「自分だけならどうにかなるから、忘れていた」


対人であれば、自分一人いつでも逃げれる。どうも油断していたらしい。


「学院卒業するまで、家に近寄らない方がいいかな?」

「たぶんな。貴族はそれでいいが、探索者としては別だぞ」


とりあえず、貴族と無関係になれればいいだろう。

レヴィエスなら家族をどうこうなんて面倒なことしない。直接僕を脅せばすむ。


「魔人っていつ大人しくなるの?」

「わかるならオレも知りたいよ」

「勇者に期待するしかないか」

「勇者か、あんまり期待できそうな話聞かないぞ」


アルシェイドが二つの大国で呼び出された勇者について語る。どちらの国の勇者も男らしい。


「そういや、国際交流会で片方見かけたが、期待できない感じだった」

「あれは女の子に操られているだけらしい。可愛い子か美人にお願いされると断らないらしくて、おねだりされて戦っているんだと」


そういう勇者だから国は、戦闘能力より顔でパティーを用意したらしい。そのせいか、大陸の安寧より自国の魔物討伐が優先されている。


「もう一人のほうは?」

「魔人の用意したハニートラップに引っかかっているよ」

「マジ?」

「聞いた話だから、真偽はさだかじゃない」


活躍しているという話が聞こえてこないのは事実で、活動するつもりがあるのかさえ知れない。


「帝国の呼ぶ勇者にオレは期待したいかな」


五大国すべてで勇者召喚されるって竜の予想だし、一人くらいはやる気に満ちた有能なのがくるはず。

僕も、帝国が召喚する勇者に期待することにした。

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