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帰国

右腕にはめられた黒色の腕輪。左腕の白い腕輪同様にはずせない。

竜を相手に反抗する気概なんてなく、左右につけられたせいで手枷をつけられている気分になる。


白い腕輪にあった妖精石は半分黒い腕輪に移され、模様のように彩られた。美術品としても価値がありそうだが、目立つ。


「腕輪の魔力が、つらい。抑えてほしい」


はずせない腕輪が苦痛の原因なんて嫌すぎる。


「まったく、人の子は神経が細いのう」

「探索者は神経質なヤツばかりよ」


竜基準なら人間はみんな神経質だ。竜基準で語るな、こっちはか弱い人間なの。が弱くないサムイルと僕を比べて、憐れまないでくれ。


白い腕輪には金色の、黒い腕輪には銀色の飾りがつけられる。魔力で魔力を相殺するように配置され、見た目の豪華さは上がった。だが、感覚への負担はなくなっている。

緻密で繊細な魔力制御が可能にした魔術だ。


「あの、見た目のほうも配慮いただきたいのですが」

「この美しさがわからんのか?」

「完璧に調和されておるではないか」

「よすぎて目立つのが困るんです」


服の下に隠していても、腕輪の存在に気づかれることもあるだろう。集団で生活させられる授業だってある。

一目で興味をかきたてる腕輪なんて騒動をよびそうで嫌だ。


「人間は欲望に弱いからのう」

「守りは与えたがこやつ、弱いぞ」

「ならば、人の目が見えないようにしてやるか」

「こやつには見えんといかんぞ」

「さらなる調整が必要か」

「面倒だ。そやつでも目くらましくらい使えるであろう」


嫌な予感がしてレヴィエスを見れば、解説してくれた。

幻術を教えるから、自分で隠せってことらしい。そして、今は誰が何を教えるかで話し合いをしているそうだ。


魔人が人の大陸を訪れ暴れる時期が昔からある。それを魔の時節と呼び、人の大陸をゲーム盤に見立てて竜は遊んでいた。

魔人も勇者も英雄も、彼らにとって駒でしかない。

何が滅びて何が残るかを賭けの対象としていた。


竜は人類を守ってはいないが、滅びることを望んではいない。大陸にいる人類が六割消失すれば、介入する。

僕はそのときに使われる駒。他の駒より弱いから、お守りをくれたらしい。


守られはするが、腕輪のせいでどこに逃げても竜に見つかってしまう。そうそうにゲームが終わればいいが、長引けば勇者のお供確定だ。


どこの国の勇者でもいいので、ぜひとも大陸に安寧をもたらしてくれ。僕は駒として動きたくない。




体調を戻しつつ、魔術を教えこまれ月がかわる頃、人の国へと帰った。

猥雑で矮小なごちゃごちゃした気配に、人の世界にいると実感する。けど、なんか今までと違う。


「魔力が見えすぎている?」


飛竜から降りて疑問を口にすれば、レヴィエスが微笑む。


「混乱するほどではないだろ?」


どうやら強制的に、竜の求める感覚にまで引き上げられているようだ。竜に人権を主張してもムダだよな。


そういや、探索者って、一時代に一人じゃないらしい。百年に一人しかいない天才とかでもないし、探せばいる。

変わりを探せば、どうにかなるかな?


「レヴィエス、人間の性別きにする?」

「気にしない。老若なら気にする。若いと成長率がいい。12歳以下でルキノより多くのダンジョン探索をした者がいるなら、交代を検討してあげよう」


僕の希望を理解したうえでの扱いが、これか。


「幻影は数に入れなくてもいいが、海底ダンジョン中階層踏破と同等以上が最低条件だ」


英雄クラスの戦闘力を持つ人とパーティを組めるガキが世の中にどのくらいいるだろう。


あれ?


「中階層踏破?」

「君の記憶を確認している。迷子のルキノくん」


海底ダンジョン中階層踏破と同等の成果ってなんだろう。迷宮都市の難易度が高いとこで、下階層踏破くらい?

12歳以下で?

どれだけパーティ運がいるんだ、それは。


「少しは自らの特異性が理解できたか?」


ぐっ、でも、特異性の原因はサムイルだ。

僕じゃない。




寮を帰るとアルシェイドがにこやかに出迎えてくれる。


「おかえり」

「ただいま」

「やせた?」

「これでもマシになったんだけど、まだ足りないか」

「どんな状態になっていたんだ?」

「ミイラの一歩手前くらい」

「それはまた、休みにならない休みだったな」


休み後半は療養だもんな。お勉強もさせられたけど、移動が荷物扱い。食事がドラゴンのスープ一択って、贅沢なのか貧しいのか悩む。


「アルってさ、幻術きく?」

「あんまり効かないが、どうした?」

「幻術がちゃんと発動しているか知りたいんだよ。教えてくれたのが、幻術効かないヒトで、術は間違えてないっていうんだけど、視覚的にどうなっているか知りたい」

「試しに見せてくれ」


僕は左腕の袖をまくる。アルシェイドがそばまで見にきた。


「大丈夫だ。あると思って見ないと見えない。しかしまあ、えらいことになっているなら」

「見てわかるんだ?」

「人の大陸にはない物くらいはな。その、なんだ、よく生きて帰ってきたな」

「だよな? ドラゴン、ヒャッホーって喜ぶサムイルのほうがおかしいよな? なぁ、そう思うだろ?」


同意を求めてアルシェイド揺さぶると、頭をぽんぽん叩かれた。


「落ちつけよ。お前はよくやった。サムイルと比べるのはやめろ」


アルシェイドの声は優しくて、僕は息を吐きだす。どうやら僕は普通の優しさにうえていたらしい。


「アルは魔力制御いいな。安心する」

「そりゃどうも」


笑うアルシェイドの魔力は怖くなかった。敵意や害意がなくても竜の魔力は膨大すぎて緊張を強いられる。

僕は、疲れていたのか。


疲れたから寝る。そんな行動はいつからやってなかったんだろう。このところ、気絶するように寝てばかりだった。

僕、アルシェイドに懐きすぎかも。人間とは異なる魔力だってわかっているのに、遠ざけたいとも思えなかった。

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