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岩場にて

浮遊感の後おとずれた、落下。

腹部に衝撃がきて、岩の上へと引き上げられた。


岩が針のように突き出した奇妙な風景が広がっている。

レヴィエスはそんな岩の一つに腰掛けており、僕をその隣に座らせた。この岩の横幅はそれでいっぱいになる。

眼下には森が広がっており、風も強い。立ち上がるには勇気のいる場所だ。


「あの、ここはどこでしょうか?」

「人の地図に今はない場所だ。そんなことより、今がいつかわかるか?」

「一月の第二週?」

「三週だ。外に出るのに半月かかっている」

「体感的には五日くらいなんですが?」


昼も夜もなかったから、ずれはするだろう。でも、せいぜい誤差二日以内のつもりだった。

レヴィエスが左腕をつかむと、服をずらして腕輪を見る。


「よく集めている。どうだった?」

「楽しかった。きれいで、優しくて、居心地よくて」

「それは初めて聞く感想だ。事前情報がなかったせいか? 検証してみたいものだ」


探る目で見られると、逃げたくなる。だか、ここには逃げ場がない。


「どういう感想を持つ方が多いのですか?」

「恐怖や不安が多い」

「えっ⁉︎」

「人は暗闇に恐怖するものだ」


僕の首をかしげる。確かに太陽光にあたれなかったし、日にち感覚は狂ったらしい。でも、恐怖を覚えることはなかった。


「月の明るい夜くらいには暗くなかったし、おしゃべり好きの楽しいモノが多いから孤独感もなかったし、怖がる理由がないですよ?」

「そうか? 人はあの場所を幻影ダンジョンと呼ぶが」


ん⁉︎


「ひたすら一本道で迷う要素ゼロでしたよ? それが踏破できない幻のダンジョンなわけがないですよ」


違う、違う。

ありえない。


「敵はまったく遭遇しないし、素材くれて、人の子は食事しないとダメだって心配してくれるようなモノしかいない。楽園のようなとこでしたが?」


水と食料がないから定住はできないけど、寝るのになんの不安もなかった。あれだけ恐怖と縁遠い場所もないだろう。


「その様子では一度も彷徨う者には出会ってないか」


順路を間違うと、ダンジョンで亡くなった方が彷徨う者となって襲ってくるらしい。あと、素材はあまりもらえるものではないそうだ。


「もらった素材で何回か、押しつぶされそうになったんですが?」

「よほど気にいられたようだ。会話の成立しないモノもいたはずだが?」

「そんなのいませんでしたが?」


声をたててレヴィエスが笑う。

笑い声をおさめると、にんまり笑った。レヴィエスが楽しそうなのはわかったが、僕にとっていいことだとは思えない。


「お友だちも待っている。里へ行こうか」


レヴィエスの身体が瞬き一つで別のものへと変わった。虹色に輝く白銀の身体。視界をうめつくす巨体。


竜。


それも最上位の古代竜ぽい。


魔物の最上位種となるドラゴンとは違う。魔物とは別種であり、古代竜は神々と同列に語られる存在だ。

人間に魔術を教えたのも竜だという神話もある。


『乗れ』


ムリ。

僕は首を横に振る。


大きな手に掴まれての移動になった。




ダメだ。立ち上がれない。

移動も怖かったですが、なんで僕、レヴィエスと同種の竜に囲まれているんだろう。人の姿をしているだけマシですが、いろいろ隠してほしい。

レヴィエスの嫌がらせかと思っていたけど、いいヒトだったんだ。隠すのが一番上手い。


「怯えんな。食わせんぞ」

「坊主じゃ腹の足しにならん」

「人間は美味しくないしのう」


竜たちが笑う。 僕、笑えない。


「それにしても、白の腕輪のここまで彩った者はいつ以来だ?」

「今季、魔の時節はこやつがワイルドカードで決まりじゃな」

「しかし、こやつの国には勇者がおらん」

「そのうち呼ぶ。勇者の登場は時間の問題だ」

「まことか?」

「東の帝国が勇者召喚を決めた。五大国のうち三カ国が勇者召喚しすれば、残りの二大国も国の威信にかけて呼び出すしかない」

「さてはて、さてはて、どうしたものか」

「何が滅びて、何が残るか」


僕はつまみ上げられる。


「こやつ、そろそろエサがいるのではないか?」

「幻影から出たばかりだからな、栄養失調だ」

「それはいかん、ワイルドカードがないとつまらぬではないか」

「白の、はようどうにかせい」

「わしらが触れるとつぶしてしまいそうじゃ」


僕はレヴィエスに荷物のように抱えられ、移動した。




サムイル、お前の隣にいるのはなんだ?

サムイルの腕には女の子がくっついている。場所がら人間じゃないのはわかるが、なぜか敵意を向けられていた。


「ルキノ、お前骸骨みたいになっているぞ」

「いろいろあったんだよ」


自分の手を見れば、骨ばかりが目立つ。肋骨も目立つようになっていたし、筋力も落ちていた。身体の変化と認識にまだ隔たりがある。


「そっちは?」

「飛竜の乗り方教わって、ドラゴン狩りしてた」


サムイルはサムイルで楽しんでいたようだ。

隣の子は、一緒にドラゴン狩りしている友だちらしい。


「次に狩ったら、ルキノ用に肉持って帰るよ」

「食べやすいとこにしてくれ」


食欲落ちているから、面倒だと食べる気がしない。だが、食べないと、空間魔術で直接胃に食事をつめこむとレヴィエスに脅されている。


岩場の洞窟で、僕は身体の回復に努めていた。

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