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地下の旅

僕は切々と訴える。


「とっても、がんばったんですよ。僕としては」

「だから、空の旅はやめた」


山の頂き付近にいるのは僕とレヴィエスだけ。サムイルは飛竜で空の旅を楽しんでいる。

助けは期待できない。


「食料と水は用意した」

「食べ物あっても武器なしじゃ身が守れません」


ベルトごと、武器や小道具をとられている。そんな心もとない状態で、食料と水は腕輪の妖精石にしまわれた。


「武器はいらない。生きて出てくることを期待している」


レヴィエスは僕の肩をつく。僕は背後の底の見えない大穴に落ちた。落ちてすぐ、魔方陣に包まれる。

平面であるはずの魔方陣が球状に展開しており、その中に捕らえられた僕はゆっくりと下降していた。


なかなか底にたどり着かないので、僕は魔方陣に指をはわせる。分解してみたい欲求はあるが、消失したら困るので我慢した。


底にたどり着くと、魔方陣は泡のようにはじけて消える。上を見上げれば、空は小さな丸になっていた。

地下のこの場は濃密な魔力で満たされており、淡い光をまとっている。


灯りがなくても視界が確保できるのはありがたい。問題は魔力が濃密過ぎて、近距離のことしかわからない点だ。

空は飛べないし、延々と岩壁登りなんてやれない。そうすると、進める方向は一つしかなかった。


「迷わなくていいね」


さほど歩かないうちに、目が合う。

気配に気づくより先に目が合うなんて、ショックだ。しかも、僕の頭くらいあるデカイ目をしている。


「こんにちは」


地響きのような笑い声が発せられた。


「こんにちは、人の子よ」


人語をさらっと使いこなす、岩の集合体のようなモノ。周囲の魔力と溶けあっており、強いんだか弱いんだかわからない。


「ここへ、落ちてきたか」

「落ちたというか、落とされた」


また笑う。楽しそうだ。


「落としたのは、その左腕の腕輪を作った者か?」

「うん。知り合い?」

「ああ、あの方は長い時を生きておられる方だ」


僕みたいに穴から落としたり、一緒に降りてきたりしているそうた。


「じゃ、落ちた穴以外にも、出口あるんだ?」

「わしはここにいる者だからな。ここ以外は知らぬ。だか、あの方はいつも、そなたらが落ちてきた穴から来るが、そこから帰ったことはない」


それならどこかには出口があるのだろう。

これからどこへ向かうべきか考えだら、進める道は一つしかなかった。


「あの、あなたの身体、登らせてもらってもよろしいですか?」

「登りたいなら、古い石をはがしてくれ。それが終わらねば、崩れて登れないであろう」

「触れさせてもらいます」


岩の一つ一つに手を当てていけば、なんとなく崩れそうなとこはわかった。少し手に力を入れるだけで、ポロポロと崩れ落ちる。

これは確かに、このままじゃ登れない。


岩を崩していると、ときどき黒光りする石が出てくる。


「これ、妖精石?」

「欲しければやる。ついでに崩した石も持っていけ」

「うん、ありがとう」


小さな妖精石を腕輪にはめこむと、崩した石はその中に入れることにした。




もしかして、ここすごくおいしいとこかも。

レヴィエスの嫌がらせと思っていたけど、ごほうびかもしれない。

腕輪には色とりどりに妖精石がはめこまれ、そのどれもに素材がたっぷりと入っている。

行き止まりたどり着くと魔方陣が隠されており、それを使えるようになるとつぎの場所へ行けた。


「人の子よ。食事をしなさい。水だけでも飲まないとダメよ」


魔方陣を使った後に出会う方は、たいてい食事の心配をしてくれる。なんかここ時間の感覚ないし、お腹もすかない。でも、心配されるので一口は食べるようにしていた。


「きれいですね」

「あら、やだ。うろこが破れているのにきれいなはずないわ」

「輝いて、まぶしいほどきれいですよ」


僕は眩しさに目を細める。

まぶたを下ろしたら、眠かったらしい。そういえば、最後に寝たのはいつだ?

問いの答えを見つけられないまま、僕は眠りに落ちる。




風の音がする。

優しいささやきのような風の音色。


“そろそろ起きる? 起きて、起きて”


目を開けると、闇と光があった。


「おはよう?」


つぶやきながら、状況把握に時間を要する。鋭い頭痛を感じたが、すぐに消えた。


「お姉さん?」

「あたし、きれい?」

「とってもきれいです」


破れたうろこがなくなり、輝きが増している。一枚一枚別の色をしたうろこをもつ、とっても大きな魚。それがふよふよ宙を泳いでいた。

燐光が後を残し、儚く消える。そのさまに僕は見ほれてしまう。


「ほめてくれるなら、仕方ない。あげるわ」


どこからか現れた破れたうろこに僕は押しつぶされる。妖精石を見つけて腕輪にはめこむと、破れたうろこを吸いこんでもらう。


「ありがとうございます」


お礼を告げられば、魚は泳ぎ去る。だか、僕は魚が泳いで行った方には行けない。進める道は常に一つしかなかった。




僕は魔方陣の上で座りこむ。

ここが最後の場で、この魔方陣が出口だ。そまでは理解出来ている。問題は、出口の先に設定する目印だ。


僕にとって最もなじみのある気配はサムイルだか、ここからだとつかめない。唯一わかるのはレヴィエスだけ。

おそらく、左腕の腕輪が魔術的に繋がっている。


場所はわかるが、何しているかはわからないとこへ出て行くのは不安だ。せめて、地上にいてほしい。

素材満載で、この場を出て行くのが寂しくもある。


悩んでも仕方ないか。

僕は立ち上がると、魔方陣に魔力を流す。魔方陣が魔力で満たされると、僕は青空の下にいた。

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