国際交流会 開会
国際交流会で使われる武器は会場からの持ち出しが禁止されている。選手の武器はすべて、控室で管理されていた。
僕、帝国には観光に来たんじゃなかったかな?
来る前は、控室に閉じこめられる予定はなかった。
引率の先生が順番整理をする中、僕はひたすら武器の調整を続ける。ここの武器、つまらないので飽きた。外出かけたい。せめて、試合見せろ。
内心ぐだぐだの僕に、サムイルが会場の売店で買ってきた揚げパンとお菓子をよこす。
「なあ、なんで僕、選手より自由時間ないの?」
「あー、レポート免除になってよかったな」
帝国の食事について、帰国後レポートを書くつもりだった。でも、現在食べ歩きなんてできていない。
選手団引率の士官学校の先生に苦情を入れたら、魔術学院の先生に交渉して試合参加選手と同様にレポート免除になった。
僕、レポートは苦手ではないので、免除より自由時間よこせ。もう、この際、選手みんな負けてくれないかな。人数が減れば、調整する武器が減る。
個人の魔力に合わせて調整するの面倒なんだぞ。サムイルのだけなら、慣れているからラクだったのに、疲れた。
誰かの選手のお付きが、蜂蜜入りの紅茶と砂糖の塊のようなお菓子をくれる。優しさと一緒に武器を持ってくるな。
もしかして、僕、いじめられてるのか?
三日かけて予選が行われ、選手の八割が残った。例年は六割ほどで、今年は優秀らしい。
武器がまともに使えるのがよいそうだ。
罠魔石に引っかかると武器に魔力がとおらないので、大抵予選落ちするらしい。
それなら側仕えを補欠選手にしないで、武器扱える人を入れておけよ。だいたい、自分の武器くらい自分で面倒みてくれ。サムイルは一応、できるぞ。
「もう、団体戦だけでいいから負けてくれないかな」
「ルキノくん、落ちついて」
「本音は隠そう」
「一試合終わる度に五十本目なんて、嫌がらせだろ」
「まあ、まあ、数の多さは期待の多さだよ」
「どうにかできるならボクらも手伝いたいんだけど」
「違いがさっぱりわからん」
「だよな」
泣いて、いいかな。
国際交流会、五日目。
個人戦準々決勝でサムイルが負けてきた。
「勝てよ。サムの調整が一番ラクだったのに」
「いや、だって、風王の二の舞になりたくない」
前回、士官学校の生徒をおしのけてガナンは優勝したらしい。そのせいで軍入りが確定し、三年で卒業する予定を五年にしたそうだ。
サムイルは自由のきかなくなる軍属はいやらしい。今から将来を決定されるのも嫌で、棄権した。
同国人同士の対戦では、消耗を避けるためによくあることらしい。さすがに決勝戦や三位決定戦なんかでやると批難されるが、次の試合があるときは戦略として黙認されている。
さすがに個人で残っている人は減ったが、団体戦は負けてくれない。決勝進出を決めてくるなんてヒドイ。
「お昼ごはん買ってきたから」
「おやつもあるよ」
「紅茶淹れるから」
そんなご機嫌とりいらない。
食べるけど、飽きたよ。
「帰国したら、チーズ取り寄せてあげるから」
「うちの料理人のレシピ付きでお菓子あげるよ」
サムイルが僕の情報流しやがった。
貴族じゃないと購入できない食材で、どいつもごまかしにくる。口約束なんてどのくらい信用できるんだろう。
国際交流会、七日目。
僕は自由だ。もうあんなつまらん武器はいじらない。
試合も興味ないから、街に行こう。武器持ったまま会場入りできないから、無防備な状態なのも落ちつかない。
服に合わせて持ち歩ける物も違うけど、使いなれた剣が手の届くところにあるかどうかは大きい。
僕は宿の人に聞いた市が出ている広場へ向かう。
広場で一番目立つ場所にあったのは奴隷商だった。専用の舞台まである。老若男女取りそろえといる様だが、商品としての人間に興味が持てない。
僕はそんなものより素材や食材のほうがいいし、見慣れない道具には興味がある。
串焼きやスープ。広場にでている屋台で買い食いしながら見ものした。いろいろ食べたので昼食はあまりいらない。でも、休憩がてらオープンカフェにはいる。
焼き菓子と紅茶で、のんびり過ごしていると、気配が騒がしくなった。騒ぎの中心はたぶん国際交流会の会場。強い魔物の気配がするが、この辺りには影響がないだろう。
なんか、数多そうだけど帝都だし、帝国の威信にかけてすぐ鎮圧するはず。
午前中でだいたいの物価がわかったから、午後からは買い物しよう。果物の砂糖漬けは一種類は買っておきたい。
カフェを出て、広場に戻る。遠目に走ってくる人を見かけた。
「逃げろ」
「魔物だ」
助けを求める悲鳴のような声と注意喚起する怒声が混ざる。こっちへ向かって来ている魔物は一体だけだ。逃げるだけなら難しくない。
どうやら最初は国際交流会の会場に群がっていたが、軍が討伐に出てきてから魔物が拡散するように動いている。
買い物するなら急いだほうがいいな。
魔物の姿を見た人は逃げるが、見てない人はまだ逃げようとはしていない。広場の奥のほうにいる人たちはまだ、何が起こっているかわからないだろう。
よその国だし、魔物に対して僕は何もするつもりがなかった。けど、広場に向かって知っている気配が近づいてくる。僕は進路方向を変えた。
「アル」
呼びとめれば、アルシェイドが驚いた顔をする。
「ルキノ? 会場にいたんじゃないのか」
「今日やっと自由になったんだよ」
「そうか」
「知り合い?」
アルシェイドは一人じゃなくて、隣に青年がいた。
「学校のルームメイト。ルキノ、こいつは昔の知り合い」
「どうも、アドル・ライゼだ。アドと呼んでくれ」
「ルキノ・マイハースです」
アドルはにこっと人懐こく笑う。
「ルキノ、この辺りで一番結界が厚いのはどこだ?」
「城とかじゃない?」
「そういう国の施設じゃないとこで」
少しだけ考える。
「あの辺りかな」
僕の指さすが、どこかわかってくれなかった。そんなに離れた場所じゃないから、案内する。
広場から大通りを一区画進み裏通りを抜けた。住宅街にたどりつき、塀に囲まれた大きな家を指差す。
「この距離でやっとわかるくらい隠匿性高いぞこれ、よくわかったな」
「そりゃ探索者だからな。ルキノは」
「はぁ? お前何考えてんだ?」
「まあまあ、ルキノのいいやつだよ。騒ぐな。役に立っただろう?」
二人がケンカを始めたのでおさまるまで放置する。
「もういい。時間もないし、オレは行くから」
「その家、結界はいいけどよい感じしないですよ」
「ルキノ、気にしなくて大丈夫だから、ここ離れよう」
二人が別れると、僕はアルシェイドに引きずられるようにして大通りまで戻った。




