武器の選定と調整
宿に戻ると、サムイルが起きた。
朝練につきあわされ、身体を酷使する。汗を流すと朝食をもらい、僕は寝る。
昼前になり、サムイルに起こされた。
「昼食は安いとこにしよう」
「それはいいが、この辺にそんな店あるのか?」
「大通りから離れたらいいんだよ」
夜中に食べた料理は冷めてもおいしかった。
どうやらこの国、塩や砂糖が高いらしくこの二種の味を濃くするのが、富の象徵になるらしい。薄いと貧しいということになるとレヴィエスに教えてもらった。
その基準で高級料理となると、僕の好みじゃない。
昔、内陸地に国があった頃、流通が悪かった名残りだ。でも、今や港町を持つ大国なんだから改善すればいいのに、そういう兆候はないらしい。
もともとの帝国人と領地拡大で帝国人になった人では、待遇が違う。そのため、昔からの帝国文化がよいとされる風潮もある。
僕らは下町に向かった。
昼どきとあって、食事処は人であふれている。作業服のおじさんたちがいるテーブルに、僕らは相席した。
僕は店の様子を見て、注文されている率の高い料理を四つ指差して注文する。料理は直ぐに出てきた。
大銅貨で料金を支払い、二人分の取り皿に入れる。
「よかった、からすぎない」
過剰な塩さえ入っていなければ、帝国の料理は悪くない。
「坊主、外国の子か?」
「うん。交流会見に来たんだ。宿の料理が、合わないし、偉い人との食事は苦痛だし、辛かった」
この店の料理をほめていると、僕らの宿で出ているのは帝国伝統料理という分類になるそうだ。帝国の地方料理なら辛い、甘い、だけの料理ではなくなるらしい。
四枚のお皿をからにしても、サムイルが物足りなさそうだったので追加注文する。料理と交換に大銅貨を渡す。女中がエプロンから三枚小銅貨を出してくれた。
「お前いつ両替したんだ?」
「昨日、サムたちが話し合いしている間」
「オレの分もやって」
「どうせ試合終わるまで出歩けないだろ? そのうちやっとくよ」
とりあえず小銀貨をいた一枚渡す。宿ならそれで問題ないはずだ。
食事が終わると僕らは国際交流会の会場に向かう。
開場に少し遅れた。
カールクシア王国に割り当てられた控え室に行き、青色のマントを受け取る。会場ではマントの色でどの国か識別されるようだ。
ここで持ち込んだ荷物をすべて預けないといけない。不正防止のためらしいが、武器がないのは落ちつかなかった。
武器貸し出し条件を確認して会場に向かう。
武器の貸し出しは種類別になっている。貸し出し条件は三種類五本までだ。サムイルは僕に丸投げなので、片手剣二本に両手剣と槍を一本づつにして、あとは見ていいものがあれば選ぶ予定だ。
補欠選手は何らかの競技に正式登録されるまで貸し出しがない。貸し出しがあれば趣味で変わった武器をいじりたかった。
会場に入ると僕が素材を見極め、強度と魔力伝導率を見る。サムイルは実際に振ってみて、重さや重心を確かめた。両手剣にいいのがなかったので、かわりに大ぶりのナイフを二つ選ぶ。
五つの武器が決まると、貸し出し登録をしに行く。登録が終わると武器を持って別会場に移動する。次の会場で選ぶのは武器にはめこむ魔石だ。
僕はサムイルに武器を持たせて意気揚々と魔石を見に行く。
魔石は大きさは均一だか、質には差がある。加工され、武器にはめこむだけのものが大半を占めていた。
「サム、雷と土は使う?」
「雷はいいが、土はいらん」
「だよな」
炎と風は聞くまでもないから一づつ確保して、気にいるのがないから雷もおさえておく。
仕方ない、二個は魔石を加工しよう。質重視で、二つ選ぶ。
係りの人に魔石の数を確認してもらい、カールクシア王国に割り当てられた加工台へ移動する。不正がないか確認するために、係官がついて来た。
先に陣取っていたのは士官学校の人たちで、僕は間をあけて座る。武器と魔石をサムイルに並べてもらっていると、係官が背後に立つ。
落ちつかない。
「すいません。背後ではなく、正面から確認してもらえませんか?」
見るなという提案なら相手にされないが、より作業工程が見える位置への移動だ。係官は提案をのんでくれる。
「雷は槍にするとして、炎と風は剣とナイフのどっちに使う?」
「どっちでもいいが、加工する魔石はどうするんだ?」
「属性ナシにして、魔力ためる用か増幅用かな」
「なら剣に炎と増幅だ」
「じゃ、魔石に魔力なじませて」
サムイルに魔石を渡すと、僕は加工された魔石を武器にはめこみ調整していく。調整が終わればサムイルに使い勝手を確認してもらい、微調整を行う。
「終わった」
質と自由度合いに不満はあるが、がんばった。
たぶん増幅用に加工した剣は耐久性を考えると、手加減しなきゃ一回で壊れる。
最大値で使いたいなら、他の武器と併用になるだろう。
「オレはこれから公開訓練に行くが、どうする?」
「適当に観光でもしてるよ」
「あー、君、これから時間があるならオレの武器も調整してくれ」
声の主を確認すると貴族ぽい。
即断で断るのはよくないか。
ここの武器はあんまり質が良くなかったから、いじっても楽しくない。やる気が出ないんだよな。
「技術提供は有料です」
どこの誰ともわからない人に、無料奉仕なんてしない。
断れと思いながらにこやかに告げたが、有料のほうが頼みやすかったようだ。
彼らにとって王国通貨で小銀貨二枚は高くなかったらしい。経済格差を感じつつ、作業を行う。
どんな基準で選んだのか、次から次に変な魔石をよこされる。あんまり質がヒドイのを持って来た人には交換要請を出す。
調整以前の問題で、使えない。
「君、罠魔石がわかるのか?」
「加工された魔石に魔力をとおしたら魔方陣が見えますよね? 魔方陣見ればわかるし、魔力の流れを追えば拡散されるか、外に出ていかないか。どっちかの罠しかないからわかりますよ」
僕は感心してほしいんじゃない。まともな魔石を持って来てほしいんだ。
サムイルが公開訓練場から戻ってきても、僕は作業台から離れられなかった。




