妖精石
国外社会見学の移動は飛竜だ。
まず首都から飛竜で国境の町へ行く。出入国手続きをして隣国に入り、宿泊となる。
翌日、飛竜で国境まで移動し、出入国手続きをする。帝国に入ると、国際交流会が行なわれたる帝都に飛竜で向う。
国際交流会の選手団が移動の第一陣になる。僕はサムイルのオマケで選手団に登録された。どうも、選手一人に対し一名の補欠選手をつけているようだ。
明らかに、側仕えな補欠選手が多い。あとは治癒魔術が使えるとか、回復薬が作れる人だ。
補欠選手となっているが、試合外の補助役ばかりの登録になっている。なので、選手と補欠選手をコンビにした部屋割りになっていた。
ガイナート帝国、帝都ゴルディナ。
戦争による領土拡大で、建国百年余りで大国の仲間入りを果たしている。身分と人種差別の厳しい国であり、奴隷商が帝都の大通りに店を構えていた。
国外社会見学の事前講習で、奴隷についての注意も受けている。帰りの飛竜に乗せる余裕がないので、基本は買うな。もし買ったら、連れ帰る手段は自分で見つけなくてはならない。
カールクシア王国の通貨は大通りにある店なら使えるそうだ。お釣りを帝国の通貨でもらうといいらしい。
国際交流会の間は外国人が多いので、換金率がよくないそうだ。
僕は大翼の帝国本部を見つけたので、回復薬を売ってみる。一本、帝国小銀貨二枚らしいのて、二本売った。
小銀貨二枚と大銅貨を十八枚と銅貨を二十枚もらう。
宿を一人で出てきた僕は、街を探索しながら飛竜で降りたった場所へむかう。あんまり近よりたいヒトではないけど、あのヒトなら僕の疑問の答えを知っているはずだ。
「君から会いに来てくれたのかい」
「教えをこいにきました」
嫌がられてはいないと思うが、歓迎されているかどうかは謎。顔は笑っているような表情を作っているが、笑顔とはなんか違う。
夜に会う約束をして、その場を離れる。ふらふら寄り道をして宿に戻ると夕飯の時間だった。
宿はカールクシア王国の選手団で貸切にしており、選手の構成は士官学校の生徒が一番多い。彼らはだいたい貴族で、夕飯はドレスコードがある。
朝は夜ほどではないが、それなりの格好でくるように指示が出ていた。
堅苦しい食事の場に僕はうんざりする。 食事はなるべく人の少ない時間にしよう。
料理は悪くないがどれも塩味か甘味のどちらかが濃い。デザートのお菓子はは砂糖の塊だった。
ここの料理人の仕様なのか、帝国の仕様なのか。明日の昼は外で食べてみよう。
夕食後、部屋に戻ろうとして、気配に気づく。サムイルにラウンジへ行ってもらい、僕は部屋に戻る。皮袋を手にとり、ラウンジへと急いだ。
「お待たせしました」
「ふむ、君が知りたいのはその袋の中身についてか」
うなずけば、場所を変えるよう提案された。サムイルは選手ミーティングがあるそうで、僕は一人レヴィエスについて宿の外へ出る。
大通りの店はほとんど閉まっていた。裏道を進んでいくと、酒を提供する店がつらなる。そこだけが明るく、にぎやかだった。
レヴィエスはそのなかの一つに入る。顔見知りのようで、直ぐに二階の個室へと案内された。
テーブルに料理とお酒が並ぶのを待つ。
部屋が閉じられた。
外と、空間が遮断される。
手をさしだされたから、皮袋を渡す。レヴィエスは手のひらの上に中身を出す。
「水と緑と土の妖精石か」
青と緑と黄色の石。魔力のこもった石で、素材としては珍しすぎて使い方が分からなかった。
「石を手に入れた経緯は?」
問われるまま僕は答える。
「妖精の声を聞いたか」
表情が変わらないのに、気配は楽しそうになった。ワインの入ったグラスを開け、ボトルをつかむとなみなみと注ぐ。
「左腕をだせ。妖精石の使い方を教えよう」
腕を差し出すと、震えていた。
なんか、機嫌よすぎていろいろだだもれになっている。ちょっと、瞳の虹彩人間のものじゃなくなってますよ。
落ち着いて、悪意や害意がなくても、威圧されたら人生終了しそう。
「震えてないでしっかり見てろ」
複雑な魔方陣が発生し、白い腕輪に青色の石がはめこまれる。次に緑の石、最後に黄色の石がおさまった。
「何かわかったか?」
「空間魔術」
部分的に読み取れた意味をつなぎ合わせて、導き出した答え。レヴィエスの機嫌を損ねなかったので、間違いではなかったようだ。
どうやらこの石、他にも使いみちはあるらしい。
「妖精に髪飾りをもらったのだろ? それを見せてもらえば参考になる」
レオナたちがこっちに来るのは明後日だったはず。宿泊先が違うので会えるかどうかわからない。こっちに髪飾りを持って来ているとも限らないし、見せてもらうのは帰国してからになるかな。
「もっと多くの妖精石を集めたら、空間移動が可能になる。今や現存しているのは遺跡ばかりだが」
「そんなものがあるんですか?」
「見たいか?」
即答で肯定しそうになった。
とっても見たい。けど、そんな遺跡があるなんて聞いたことない。
「あの、大変興味はありますが、その遺跡は人類の文化圏ですか?」
「遺跡が実際に使われていた頃はそうだ」
そうですか、現在は違うんですね。
話題を変えなくては、現人類未踏の地に連れで行かれそうだ。
「レヴィエスさん、他にはどういった使い方あるのでしようか?」
「魔力伝導率がいいからな、聖剣の材料の一つだ」
聖剣は勇者の持つ武器だ。
でも、僕には関係ない。
「では、魔方陣を展開しろ」
簡単にしろといわれて、できるか。
僕に拒否権なんてないけどね。
レヴィエスの指導は厳しかった。
魔力切れを起こすと、回復薬を飲まされる。完璧にできるようになるまで繰り返させられ、やっと合格がでたときには空が明るくなり始めていた。
ここまでの教えは求めてない。
大変ありがたかったですが、人類から失われた魔術はやめてほしかった。喪失魔術を復活させたら魔術史に名前が残る。
試されているのだろう。
欲にかられて、消されたくない。でも、便利なので、使わさせてはもらおう。せっかく覚えたんだし、悪目立ちしないようにすれば大丈夫なはず。




