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迷宮都市エイス

僕は幼い頃の夢を見る。

それは迷宮都市エイスにいた頃の夢だ。

八つのダンジョンをかかえるこの町は大きく、世界中から人が集まって来ていた。夢と希望を胸に訪る人たち。そのなかで、成り上がれるのはごく一部。多くの人は夢やぶれ、希望をなくし、命まで散らす。

ここは毎日多くの人が訪れる一方で、毎日人が殺されていくところだった。


僕らは恵まれていた。

守ってくれる師匠がいて、武器を手にしている。

だから、守ってくれる人もなく、日々の糧を得るために素手や拾った木の棒でダンジョンに潜るこの町の子どもが怖かった。


毎日減って、いつの間にか増えている。いなくなることがない孤児や貧民層の子どもたち。僕には彼らが常に存在するダンジョンの魔物と同じように思えていた。


師匠と一緒に朝から夕方までダンジョンに入り、翌日は訓練と勉強をする。そんな生活を三カ月ほど続け、僕らは上層階の魔物に困らなくなった。


日々強くなれているのが実感でき、僕とサムイル二人でダンジョンに潜るようになる。僕らは上手くいく日々に調子に乗った。

ダンジョンで成り上がれる、数少ない成功者になれるなんて夢も見る。そんなとき、僕らは死にかけた。


八つあるダンジョンの中で、最弱といわれるダンジョンの上層階。僕らにかなう魔物はいなかった。

僕らを襲ったのは人間。木の棒なんかしか持たない子どもの集団に襲われる。


僕らは忘れていた。

上層階で危険なのは魔物より人間だと言われていたのに、彼らを風景のように思い、いない者として扱う。その結果、魔物を倒して売れる素材を抱えた警戒心の薄い僕らは獲物にされた。


僕はさびたナイフで刺され、殴り蹴られて倒れる。木の棒で叩かれていたサムイルは血を流しながら倒れた僕を見て、魔力暴走をおこす。


ダンジョンの出入り口近くで起きた異変にすぐ人が集まって来た。でも、サムイルに近づける人は誰もいない。

師匠が来て僕の傷を治し、僕がサムイルをとめに行くまでサムイルは暴走したままだった。

暴走のおさまったサムイルは、魔力の使いすぎで三日寝こむ。その間、僕は師匠に怒られた。


「お前が、サムイルを殺すぞ」


サムイルは襲撃に対応できており、僕がミスらなきゃ大事にはなっていない。

僕は通路先に彼らがいることを知っていた。なのに、出入り口付近にしかいられないからと、ダンジョンの奥にいけない相手としてあなどる。


間違えたのは僕だ。


彼らはそこを縄張りとする魔物のようなもの。一人ではたいしたことができなくても、数は力だ。油断した僕が悪い。


「サムイルと一緒にいるなら、どうしたらいいか考えろ」


サムイルは僕に何かあると暴走する。その膨大な魔力で、簡単に人を傷つける。今回はどれだけの人が傷ついたのだろうか。もしかしたら、死者も出ているかもしれない。

ダンジョン内でおこったことだし、ここでは襲って来た相手を死にいたらしめても罪に問われることはなかった。


でも、村で魔力暴走をおこす度に、サムイルは悲しむ。制御できない力に苦しみ、人を傷つけることでサムイルもまた傷ついていた。


情景が変わる。

強制的な移行にいらだつ。

怒っていると、笑い声がした。


ダンジョン内で寝泊りするようになかった頃。眠りについたとこを狙われた。

結界があれば上層階の魔物に襲われる心配はない。だが、人間は結界を壊せる。


強い魔物と遭遇して助けを求められた。求められなければ獲物の横取りになるから参戦しない。なのに、魔物を倒したあとは救った相手に襲われた。


最悪な記憶が、夢として強制的に追体験させられる。


危機的状況なんて、魔物より人間にもたらされたことのほうが多い。不快で不愉快で、苦痛だった。




長い長い夢の先に、これまた強制的に目覚めさせられる。

目を開けた先にはレヴィエスがいた。


「どうも、ありがとうございます」

「怒らないのか?」

「救済を与えられて怒るなんてしませんよ」


いらだちは僕の胸のうちに渦巻いているけど、我慢する。


「どんな気まぐれで助けてくれたか、聞いてもよろしいですか?」

「サムイルは飛竜に興味があるようだったから、里に招待した。友だちと一緒がいいといわれて、君を誘いに来たんだ」


サムイル、何やらかしてくれちゃっているのかな?

あいつ僕をショック死させたいんじゃないだろうな。


「城にいるみたいだったから、君を連れてくるように知り合いに頼んだ」


連れてこられた僕は意識がない。どうやら洗脳されかかっていたようで、拒絶反応がいろいろ出ていたそうだ。

それが昨日のことで、寝ている間に精神汚染がないか確認してくれたらしい。


「君の人運は凶相が強いようだ」


ん?

このヒト、何を楽しそうに言ってるのかな。


「未来とか、運命とか、見えませんよね?」


笑って返事ナシって、どっち?




もともと着ていた服に着替え、僕は昼食をもらう。

この部屋の主は偉い人で、とっても忙しいらしい。城から出るにも許可がいるそうで、手があいたら来るから気長に待っているようにいわれた。


時間つぶしの相手として部屋に一緒にいるのはレヴィエス。長時間一緒にいるので、だいぶ慣れてきたが大きな動きをされるとびくつく。


「僕につきあっていて、よろしいのですか?」

「人の一生につきあったところでたいした時間ではない」

「たいしたことがなくても有意義に使われるとよろしいかと」


僕、一人で大人しく待てます。おつきあいいただかなくて大丈夫。むしろ、一人にさせてほしい。


「そうか。最近、初見で人ではないと見破られて、気になっている。久しくそのような者には出会ってなかった」


僕じゃない。僕じゃない。

きっと、僕のことじゃない。


「本性で怯えられることはあるが、これほど力を制御し、人の姿をとってなお怯えられるのはいついらいか」


そんなことで悩むのやめましょう。

僕、何も聞こえない。


「ルキノ。左腕をだせ」


命令したときは大きなテーブルの向こうにいた。まばたき一つあとには、僕の左隣に立っている。

手を取られ、袖をまくられた。


濃密な魔力を感じ逃げ出したくなる。だか、イスから立ち上がるどころか、左手を引くことさえできなかった。


魔力の物質化。具現魔術により、僕の左腕に白い腕輪が作られた。


「記憶をみたところ、避けられない攻撃には左腕を犠牲にするくせがあった。お守りにやる」

「ありがとうございます」


で、いいのか?


「あの、これはどうやってはずすのでしょうか?」


どこにもつなぎ目がないし、手にひっかかる大きさだ。


「はずしたらどこにいるかわからなくなるではないか」

「これ、僕の居場所しらせるの?」


うなずかれた。


「猫の鈴、的なもの?」

「ペットは手がかかるほうがかわいいらしいな。君はひ弱で手がかかりそうだ」


なんか、やばい。

すっごく、危険な気がする。


「閉じこめてもつまやないから、放し飼いか」


腕を切り落としでも、自由になるべきだろうか。治療の準備しておけば大丈夫なはず。

脱獄者なんかが、手枷はずすのに闇医でやると聞いたことがある。上級治癒魔術の使い手がいれば腕も元どおりになるらしい。


「腕輪はずしたら首輪にするよ?」

「あっ、はい。のけません」


首輪よりは腕輪がまだまし。腕切り落とし案は廃案にした。

レヴィエスは楽しそうに笑う。逃げられる気がしない。

僕は将来に不安を覚えた。

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