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魔物襲撃の取り調べ

魔術学院は魔物の襲撃で、その日半日休みになった。死傷者がでたにもかかわらず、翌日から学院祭は再開される。


生徒は休みの間に先生から事情聴取を個別に受ける。

僕の呼び出しは後のほうだったから、ラムセイル先生はすでにお疲れ気味だ。


「なんでお前は王太子に接触しているんだ」

「他に安全なとこがなかったからですよ。護衛が来たらおしつけるつもりだったのに来ないし、一人で放置してケガでもされたらよくないでしょう?」


僕がやりとりしたのは王太子の護衛の人だし、直接王太子と接触はしていない。顔が判別できるような近距離まで近づいていい方ではないし、急いでいたとはいえ、荷物あつかいはよくなかった。


「先生、僕。何か罪に問われるの?」

「罪には問われないはずだが、騎士団からの事情聴取はある。拒否権ないからな。心証が悪くならないようにしなさい」


思ったより大きなため息がでた。


「また尋問か」

「またって何だ?」

「夏期休暇あけに、なかなか学院に戻れなかった理由ですが?」


先生がとっても悩んでいる。


「話します? やめときます?」

「今回のこととは無関係だよな?」

「休み中にダンジョン行っていたときのことなんで、関係はないはずです」

「なら黙っていろ。これ以上の心労はいらん」


きっぱりと拒絶されてしまう。


「それにしても、お前、競技場に屋根崩落の中心近くにいてよく無傷だったな。審判していた先生は重体だったぞ」

「すいません。僕に対処できるのは一人だけだったんで、審判の先生は見捨てました」

「責めているわけではない。あっちらを優先してもらって学院としても助かった。審判の先生も治療魔術間にあったから心配いらないぞ。よくとっさに判断できたな」


人を見捨てたのは初めてではない。取捨選択にも慣れている。魔物は怖いが、昨日のはまだ対処できる範囲だった。でも、あの武器を手にしていた魔物の相手はサムイルが来なければしていない。

あれがもっとも死傷者を出していた魔物だとしても、僕は英雄のように助けはしなかった。あれは僕一人で対処できる魔物じゃなかったし、僕の意識は逃げることに向いていた。


同じ状況になれば同じ判断をするだろう。だが、そのことについて思うことはある。自らの弱さやズルさをさらすことになるような、聞き取り調査なんて受けたくなかった。




翌日、僕は魔術学院から技術学校へ逃げた。

別のことに集中して現実逃避したかったが、呼び出される。迎えに来られたら応じるしかなく、馬車に連れこまれた。


お話は魔術学院ですると聞いていた。当然馬車は魔術学院に行くはず。なのになぜ、僕は近衛騎士団屯所なんていう、城の一部にいるのだろう。


僕、何か罪に問われるの?


狭い部屋で小さな机をはさんで調査官と向かい合う。部屋のドアを塞ぐように武装した騎士が立ち、調査官の背後には記録をとる人がある。

壁の向こうにも数人の気配があるし、ものものしい。


清廉潔白な善人とはいえないが、こんな扱いを受けるほど悪いこともしてないはずだ。


調査官の口調が威圧的でなかったことに、ひとまず安心する。


「君はクラスメイトを貴賓席に連れて来たよね? どうしてかな?」

「あの場で一番安全な場所だったからです」

「安全だとどうして思ったのかな?」

「一番丈夫な結界があったからです」

「逃げることもできたんじゃないかな?」

「逃げるにはどのルートでも魔物のそばを通らなくてはいけなかったから、逃げるなら魔物の数が減ってからだと思ってました」

「君、魔物倒しているよね。逃げることなんて本当は考えていなかったのではないかね?」


声の調子は変わってないが、ざらつくものがあった。僕は表情を変えないように注意して、警戒心を高める。


「僕は魔物を倒していません。魔物を倒した友人の手助けをしただけです」


ちょいちょいウソの罠を混ぜながら、ネチネチと質問を重ねられ僕は疲れてくる。同じことも何度もきかれ、何かに向かい誘導されていく。


ここに来て、どれくらいの時間がたったんだろう。

頭の中で声が何度も繰り返され、どんどん声が重複していく。今問われている声がわからなくて、僕は沈黙した。


頭がぐらぐらする。なんか、視界も歪む。

気持ち悪い。座っているのさえ苦痛だ。

身体を机にむかって倒す。怒鳴られているが、もう何を言われているかわからない。


「そこまでにしてもらいましょう」


誰かに部屋から連れ出され、僕は意識を失った。




目覚めると知らない場所だった。

どうやらベッドに寝かされている。身体をどこも拘束されていないことに安堵するが、いつも身につけている武器が何もないことにあせった。


着せられているのはサイズが合っていない上質なシャツ。下は脱がされてなかったが、靴下と靴は履いていない。

武器がそばにないことに不安を覚える。


意識がはっきりすると、身体が震えだす。たかが、ドア一枚向こうにあるだけ。それなのに今まであんな気配に気づけなかったことにショックを受けた。

感覚が鈍くなりすぎている。

今まで感覚頼りで生きてきた。鈍くなったら生きていけない。


ドアが開く。


「目覚めたか」『そう怯えんでくれ』


細い目がつり上がった男。膨大で濃密な魔力を持っているヒト。

ルキノが返事をかえせないでいると、どんどん感じる魔力が小さくなっていく。ルキノの震えが止まったとこで、魔力の減少も止まった。


「これで話ができそうだな」


二重に聞こえなくなった声にルキノはうなずく。

部屋に入ってくると、レヴィエスはベッドに腰掛ける。こっちを見てるから、つい視線をそらしてしまった。

どうやらお気に召さなかったようで頭をつかまれる。


「目をそらすな」


威圧こみで命令され、僕の視線は一点に固定されてしまう。深い海色の瞳で、僕の内側をのぞいてくる。

逃げることのできない僕はただ暴かれるだけだった。


瞳がそらされる。頭を押さえていた手がおりてきて、僕の目を覆う。


「寝ろ」


その言葉に従うように僕は意識を手放した。

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