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接待模擬試合

魔術学院に行くと、学院祭の武術部門に登録されていた。

僕が出るのは学年別の模擬試合。国際交流会の先発予選も兼ねているので、異国人と士官学校卒業者は参加しない。

その上で、Aクラスから八人を選出する。


学年別に出ない人は魔術の美しさを競う演舞に参加する。僕もそっちがよかったが、みんなで協力して魔術を使うため、いつから練習に参加できるかわからない僕は除外されてしまった。

人数が少ないので、両方参加なら可能らしい。僕は演舞に出たいのではなく、模擬試合に参加したくないだけだ。


Aクラスの生徒として、学年別の予選だけは通過しないといけないらしい。で、本戦で成績がいいと全学年の代表で行う模擬試合に参加できるかそうだ。


学術部門は基礎過程の場合、やりたい人だけが参加する。応用課程の先輩の発表展示を見て将来の専攻を選ぶ参考にするといいらしい。


人気のある専攻は人数制限で入れてもらえない。そのため、コネのない基礎課程の生徒にとって、発表展示をするのは自己アピールの場となる。

専攻を決めている二年生は夏期休暇前から準備しているそうだ。


僕、コーデム先生のとこしか選択させてもらえない。たぶんだけど、妙に僕に優しいのは囲いこみだ。

フォート師おすすめだし、いいんだけどね。選択肢がないのが、微妙な気持ちにさせる。




職員室から荷物を抱えて教室に戻った。

人はあまりいない。学院祭の準備中は授業がないので、教室にいるのはヒマしている人たちだ。


「えらい荷物だな」

「学院に送りつけられたんだって」


商業ギルドに行けと言われていたが、僕は学院から出たくなかった。レヴィエスさんが、まだ王都にいるようなので街の中心地には近よりたくない。

放置していたら競技会の出品作品が商業ギルド預かりになり、学院に送りつけられたようだ。


「鞄に盾に胸当てか?」

「鞄の中にサイフとかナイフとか小さいのも入っているよ」


退屈しているとこへ持ち込んだ荷物。アルシェイドは嬉々として鞄をあさる。学院祭に参加できないレオナもよってきた。


「ねぇ、ものすごく適当に丸められてるけど、これ賞状でしょう」

「ルキノ、賞メダルの扱いも雑だな」


興味ないからね。

腕試しだから評価は気にするけど、記念品はどうでもよかった。賞品には興味あるけどね。


「レオナ、革細工の髪飾り使う? 光り物なくて地味だけど、特別賞だから使っても大丈夫だと思う」

「いいの?」


図柄は鳥と風をイメージした模様。使う季節はあまり選ばないはずだが、このクラスの女子生徒の装飾品は魔石や宝石を使っているのが標準仕様だ。

貴族ではないといっていたからすすめてみただけだが、嬉しそうに受け取ってくれる。


「ルキノ、オレはサイフがほしい」

「うん、いいよ」


いっつも食材もらっているし、日常の消耗品はアルシェイドに頼りきっている。海底ダンジョンでの収益を師匠が分配してくれたら経済的には余裕ができるが、いつになるだろうか。


「このサイフ岩トカゲか?」

「うん。ふつうのナイフじゃ穴あかないから、スリ対策になるよ」


いつの間にかサイフごとっていうスリもいるが、穴あけて中身だけ持っていくスリもいる。

あとクズ魔石も使っているので、使用者登録したら本人以外はサイフを開けられない。サイフごと持っていかれたらどうしようもないけど、首からナイフで切れない素材でさげていれば防げる。

サイフ渡して身の安全を優先したほうがいいこともあるが、アルシェイドなら真正面からくる相手なら対処できるだろう。


武器と防具も誰かに引きとってもらいたいが、そういうのを欲しがってくれそうな人は今教室にいない。学院祭にむけて訓練棟へ行っている。




学院祭、開催。

武術部門で最初に行われるのが学年別模擬試合。予選通過者十六名による本戦が学年順に行なわれる。

予選は同じクラスの人同士当たらないようになっていた。おかげで、予選通過者の半数はAクラスになる。


僕は第一回戦の一番最後、八試合目に出る。試合の順番なんてどうでもいいんだけど、対戦相手でやってしまった。

大当たり引いたね。士官学校卒業者の護衛相手。本戦でも同じクラスの生徒と当たらない配慮が欲しかった。


同じ側の選出控え室にBクラスから予選通過してきたレイムがいたので相談する。


「僕、どうすればいいの?」

「まず、ケガさせるな。できるば、上手いこと負けろ。ただし、手を抜いたと悟らせたらダメだ。もし勝ってしまったら最低でも決勝まで残れよ」

「がんばって負ける」


決勝まで残ったら、学年無差別の試合に出なきゃいけなくなる。上級生と相対するのは演習だけで充分だ。

僕は上手く負けるしかない。




昼前に僕は試合に呼ばれた。

観客席の入りは六割といったとこで、貴賓席では王太子さまが観戦している。確か、同腹の弟を王太子はかわいがっているとのウワサ。

対戦相手よ、王太子と見つめ合って笑うなよ。素性はちゃんと隠して下さい。


今日の僕の装備は自前のいつもの装備に学院で急いで借りた中剣だ。武器が壊れて戦闘不能になる予定なので、自前の武器は使いたくなかった。


試合開始と同時に剣を抜く。

相手の剣を受けとめると、重かった。身体は僕のほうが年の差二歳のアドバンテージでちょっと大きい。けど、魔力量は向こうが上だ。


魔力による身体強化をされてしまうと、体格差は消される。魔術への変換効率が悪いな。魔力の流れもぎこちない。

おかげで先読みはしやすいが、受け流ししやすくて負けるのが難しい。


しかし、面倒だから勝ちたくないし、攻めこんでケガさせても困る。魔術学院なんだから身体強化以外の魔術を使ってくれないかな。

戦い方が騎士よりで、僕は剣が得意じゃないからどうやって誘導するかで、悩む。


剣振ってるの重いし、疲れる。受けとめるのやめて、避けよう。三回ほど避けたところで、怒られた。


「バカにしているのかっ」

「剣を持つ手がしびれてきたんで、戦い方を変えただけですよ」


そっちは攻め続けて息あがってますね。攻めるのをやめた相手を見ているとにらまれる。


「なぜ攻めてこない」

「僕が優っている点は体力かと思いまして、時間かけたほうが僕に有利かと」


怒らせたら魔術を使いだした。

火属性の初級魔術、火弾。火の玉が飛んでくるのを後退しつつ避ける。

魔術を使いだしたら、今度は魔術だけか。剣と同時に使ってくれないかな。

負けるのが大変すぎて辛い。


おっ、魔術と剣の連携きた。

僕はバランスを崩して火弾を避ける。そこに振り下ろされる剣を受け、ふっ飛ぶ。地面に叩きつけられる際に剣を手放し、ゆっくり起き上がろうとしたとこへ剣を突きつけられた。


「ギブアップ」


僕が告げれば、勝利者が審判により宣言される。

よーし、対戦相手は嬉しそうだ。

僕、やったよ。がんばった。


えっ⁉︎


競技場の屋根に穴があいた。

僕は飛び起きると、対戦相手を抱き込んで逃げる。なんか、あとからばらばらと落ちてくる。


「なあ、その指輪大事な物? 防具ぽいから発動させてくれないかな?」


背後から指で突っつくと、魔力を流して発動させてくれる。身を包む様に半球体の結界が形成された。

僕は手を離し、地面に座りこむ。


「助かった」


ほっとしたのもつかの間、うろつこうとする坊ちゃんの腕をつかむ。


「動くと危ないですよ」

「何をする。放せ」

「嫌だ。今、僕一人にされたら死ぬから」

「何をっ」

「あのね。今一番安全のはこの結界の中なの。僕じゃ、この強度の結界作れないから」


道具があれば再現可能ではある。道具もあるんだけど、今ふらふらされるのは迷惑だ。

君、誰よりも安全なとこにいないといけない人だろ。


「せめて屋根の崩落がおさまるまで、大人しくしていて」

「仕方ない。おさまるまでだぞ」

「はい。ありがとございます」


じっとしている間に護衛くんたち、むかえにきてくれよ。


「お前、震えているのか?」


つかんでいた腕を放し、自らの手を見る。


「この状況ですよ。怖いに決まっているじゃないですか。それなのにあなたは僕を見捨てて行こうとするし、怯えますよ」


魔物の気配が六つもある。どれも競技場に向かって来ているとか、嫌がらせのようだ。


「そなた年上の矜持はないのかっ」

「僕、庶民。矜持より命大事。高貴な人に守られる弱者です」

「しかたない。そなたは私が守ってやろう」


ふんぞり返って、宣言された。


「頼りにしてます」


その魔力と魔具による結界だけは。


魔物は一体が討伐され、二体が競技場にたどりついた。僕もゆっくりと立ち上がる。


「そろそろ移動しましょう」

「おい、魔物がいるぞ」


蟻が四足歩行で身体をおこし、槍を装備したような魔物。何人か剣で攻撃しているが、傷はつけれてない。黒光りする体は鎧のように硬いようだ。


「それは上級生に任せましょう。まずは邪魔にならないとこにまで逃げます」

「逃げる? そなたも魔術学院の生徒だろ。力ある者が戦わなくてどうする」

「僕、魔術具師志望。戦いは拒否です」

「まてっ、そなた」


時間がないので言葉をさえぎる。


「弱いのが魔物に向かって行っても、戦える人の邪魔にしかなりませんよ」


もう一体、魔物が競技場にたどりついた。一体は討伐されたが、あと一体も競技場まで来そう。

僕は身体強化すると、坊ちゃんのお腹に手を回して抱える。片手じゃ重いが、運べなくはない。


「口閉じてて下さい。舌かみますよ」


僕は競技場を走る。向かう先は観客席、貴賓席のある場所だ。落ちてきていた屋根を利用し、観客席に飛び上がる。

荷物がなんか叫んでいたけど、相手にしてられない。

結界のはられた貴賓席のそばまで行き、荷物を両手で見えやすいように持ちかえる。結界に穴をあけてくれたので、荷物を手渡す。

これ以降何があっても僕責任じゃない。


控え室あたりで魔物が一体討伐された。魔物は残り三体。僕が一人、競技場から逃げるだけなら簡単だが、どうする?


選手入場口から競技場へ魔物が飛び出てくる。

ネコ科のたてがみのある獣に頭が二つある魔物。魔獣に分類されるはず。


どうやら頭二つある魔獣をふっ飛ばしたのはサムイルだったようだ。剣を片手に笑いながら競技場に出てると、魔獣が後ずさりする。

サムイルの勝ちで決まりだが、時間をかけさせたくない。僕は魔獣に向かって走り、自作の杖を魔獣の頭と頭の間に向かって投げる。

魔獣に接触する直前に杖の魔石が壊れるほどの火を発生させた。魔獣の上半身が火で包まれる。魔獣がのたうちまわるのをサムイルが両断した。


どうも競技場のすぐ外にいる魔物は風王を中心に足止めしている。ガナンは雷を使うつもりはないようだ。

僕は黒光りする魔物を指差し、サムイルを見る。血塗られた槍を持つ魔物。周辺には人体の一部が転がっていた。


赤色については考えない。今は敵を倒すことに集中する。


サムイルは初撃で槍を切り裂き、魔物の片目をつぶした。僕は魔物の周囲に六つの雷を落とす。魔物の近くにいた人たちが慌てて避けた。


君ら邪魔だよ。

そいつ硬いのに近くに人がいたら、威力の高い魔術が使えない。僕は敵を中心に炎で円書いて、人を遠ざけた。


サムイルの突撃にあわせて僕は火を消す。手を切り、胴をなぎ、首をはねる。


僕は最後の一体を競技場の窓から見る。

植物の魔物だ。巨木なみの花をさかせる草系の魔物。無数のムチで物理攻撃を行い、いくつめの花の花粉が状態異常におちいらせている。

中途半端な火では、はじかれて燃やすこともできていない。

僕の隣にサムイルがならぶ。


「でかいな。策は?」

「ガナンが上手く足止めしているから、軍の到着を待てばいい」

「そんな策はつまらん」

「なら、魔物よりでかい火の玉でもぶつけろ」


半端な火ではなく、大火力ならやれるだろう。ガナンいるし、人に被害が出ないように対処してくれるだろう。




炭化した植物系の魔物の前でガナンは座り込んでいた。


「手伝いがいるなら、せめてこっちには知らせてほしかったよ」

「先輩なら大丈夫だと、信頼してましたから」


僕のたわごとをあっさり実行したサムイル。周囲に被害が出ないように魔物を中心に風で円をかいたガナン。

二つが混じって炎の竜巻が発生する。

魔物討伐後、火を消すほうが大変で、ガナンは疲労していた。

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