閑話 パーティ『不明』
カールクシア王国最大の職能ギルド大翼。
わたし、マリネ・ノートンはその大翼のギルドカード管理課に勤務しております。
もともと忙しい部署ではありました。国最大の職能ギルドですから、発行されているギルドカードも多いのです。ギルドカードに発行条件がありますので、カードを手に入れるのがステイタスの一つと考える方も多くいます。
だからこそ、大翼に相応しくない方のギルドカードはどんどん剥奪します。いくら強くても法律を守れないバカは入りません。
ギルドはギルド所属者を守りますが、それは不当な扱いに対してです。勘違いバカの犯罪なんてもみ消しなんてあげません。
ですが、大きなギルドですから、清濁あわせ持っています。世の中きれい事だけでは成り立っていません。限りなく黒に近い灰色の事情もありますし、黒かったものがいつの間にか白くなることもあるでしょう。
そういう案件は上の人の仕事です。見つけたらそっと上司に押しつけますしょう。拒否なんて認めません。
日常業務において上司の理不尽に堪えるのはこのときのため。にぎった弱みはこういう時に活用するのです。
上司に報連相が大事なのは、責任を押しつけるため。報告書はいい逃がれさせないための物的証拠です。
そのために毎日きっちり仕事している。
基本、面倒な仕事は回避しているわたしですが、やはり面倒な仕事から逃げられないこともあります。
パーティ名、不明。
何度パーティ登録しろと勧めても断り続ける五人組。登録してくれないから、仮名称が不明になっている。特別ギルドカードの発行を拒否した子がいる嫌がらせのようなパーティだ。
ことの起こりはドラゴンスレイヤーが誕生したことです。とどめを刺したのは一人かもしれない。けれど、とどめを刺すにいたる過程があり、協力は同等に賞賛されるもの。
これは名誉なことだ。業務内容のほとんどが調査、査定、剥奪または保留。わりとマイナス方向に影響を与える中、特別ギルドカードの発行は数少ないプラス方向の仕事になる。
やりたがる人が多くて、わたしは同僚に譲ってあげた。
わたしは仕事の方向性なんて興味ありません。特別ギルドカードの発行は調査と査定が大変ですからね。やりたがる人が理解できないんですよ。
発行以来、ギルドカードの更新ナシ。今まで何していたか探せば、迷宮都市にいたと判明。大慌てで迷宮都市での実績をとりよせる。
迷宮都市での実績が華々しくて大変だったんですよ、同僚が。その上、パーティ登録は面倒。特別カードはとどめを刺したやつだけでいい。祝賀会はあきたし、面倒。手配した宿は立派すぎて落ちつかないと勝手に出ていく。
担当者がやつれるくらいには彼らはわがままだった。回避したわたし、先見の明があるわ。なんて一人喜んでいたこともありました。
同僚が電撃結婚したの。
仕事に疲れているとこを優しくされて、コロっといったのですって。ねぇ、あなた結婚しても仕事辞めないと言っていませんでしたか?
大翼は産休や育休が充実しているから、自立した女でいるんでしょう?
結婚式のスピーチ? 本心が告げれないのが辛いわ。
大人ですから、適当に褒めますよ。
えぇ、たとえあなたのせいでわたしの仕事が増えたとしても、お祝いの席ですものね。
そうしてまわってきて、しまったんですよ。
さすがに配属されたばかりの新人には任せられないですから、まずは関係情報を集めることにしたんです。
同僚よ、あなた仕事ミスって逃げました?
結婚式の社交辞令で褒めたこと、わたし後悔しております。あなた、情報収集おこたったわね。
仮ギルドカード発行の調査担当者もやらかしていますわね。発行段階で、要経過観察対象ですよ。既に転属されているようですが、わたしは覚えておきます。
だってこれから苦労させられるんだもん。この借りは必ず返してもらうわ。
ドラゴンスレイヤーの父親については今はそっとしておこう。向こうから何も言ってきてないし、こちらからは触れたくない。
そんなことより、勝手に商業ギルドカードを作って欲しくなかったわ。大翼でも買い取りしているのに、浮気しないでよ。
作っちゃったのはもう仕方ないけど、優先権は大翼で確保しないとダメだわ。情報部に商業ギルドのさぐり入れてもらおう。
ルキノ・マイハース。
あなたは何を考えているの。そう、きっと何も考えてなかったのでしょうね。
あたな今、作品競技会の荒しになっているわよ。
応募するだけして、音信不通。競技大会会場に本人不在で賞が取り消しになっている。
変な目立ち方しないでよ。商業ギルドがあなたのこと探しているじゃない。
海底ダンジョンにいるから見つからないでしょうけどね。こっちにかえって来るまでに商業ギルドとの間に立てる人、用意しておこうかしら。
海底ダンジョンでも、上層階の階層主を倒すなんて華々しいこともしてくれている。
対策を練っていたら、緊張感のある声が響いた。
「リストきました。対応お願いします」
持ってこられたのは魔人討伐に参加していた人のリストだ。死亡者と行方不明者の名前が並ぶ。今回の行方不明者の処理は死亡者と同じ。
生死不明ではなく、遺体不明の状態のはず。
「これで三回目か」
誰ともなくつぶやく。
魔術学院の実習で、魔人の関与ありと報告がでた。そのときは子どもが大げさに騒いでるだけ。
魔人の被害の出ている地域からは遠く、この国に魔人はこないと決めつけていた。
仕事外だったとはいえ、ちゃんと調べておくべきだった。
報告を出したのは大翼の特別カード所持者、疾風雷神。モラトリアムで学生を続けているだけで、卒業後は国に約束された地位がある。軽々に騒ぐ子どもではなかった。
不明のおこさまコンビがそこにいたのも気にはなる。
ドラゴンも魔人も、人生において遭遇する確率の高いものではない。強運か凶運のどちらかは持っている。
英雄の条件は人によって違うだろうが、わたしは、敵を倒す強さと英雄になれるだけの敵に出会える運だと定義する。
魔人の出現は英雄の誕生とセット。現れたら人が勝つまで戦うしかない。死者から目をそらさせるために、ことさら英雄はもてはやされる。
大陸南部を奪いとった魔人。それが大陸北部にまで現れるようになった。
大陸中部の国では勇者召喚を行ったと聞く。
嘘か誠か知らないが、そういった存在に頼らなくてはいけない時代が来たようだ。
この子たちを、よく監視しておこう。
問題を起こす人というのは際限なく、いくらでもやらかしてくれる。できれば誰かにおしつけたいけれど、ちょうどいい相手がいない。
早く新人を育てなくてはいけない。あなたならできるわって信頼しているように見せかけておしつければ、特別カードの担当に舞い上がってがんばってくれるはず。
ちょっとやる気が出たわ。
それでは、今日もお仕事をいたしましょう。




