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閑話 幼なじみ

ルキノはオレを怖がらない。


むかしからどれだれ魔力暴走を起こしても一人だけケガしないし、オレを拒否することもなかった。

あいつが逃げるのは魔力暴走しているときだけ、おさまればオレの隣に戻ってくる。


オレを村での記憶は母とルキノしかいない。

村を出てからは、三人の師匠もオレから逃げなかった。

迷宮都市では互いに利用し合う関係で、そばにすりよられる。都合にいいことだけいって、よってくる相手は邪魔でしかない。

ルキノなら、利用されても平気なんだか、ほかはダメだ。


それから魔術学院に来て、オレから逃げない人が増える。利用するんではなく、協力し合う関係にオレはなれない。


「たまには肉全部食べないで熟成させようよ」


今月二度目の学外実習。これから昼食というところでルキノが主張した。


「熟成?」

「肉は狩った直後より、時間をおいたほうがうまいの」


今食べる分を減らしてまで熟成させるかどうかでアルシェイドとレオナが悩んでいる。たぶん、ルキノは今食べる分と、熟成させる肉の分を狩れってことだぞ。

要は肉より素材として気にいったから狩れ、だ。


ルキノは台の上で、自作の手の平サイズの杖を使い魔方陣を作る。魔方陣の上に肉を置くと、肉の色合いに変化があった。


「これが熟成された肉」


ルキノは熟成前と熟成肉を焼き、食べ比べをさせる。食べればアルシェイドもレオナもその差を理解する。


「ルキノ、そんな方法があるなら最初からやれよ」

「時間操作系の魔術だよ。僕には気軽に使えません」


魔力なら提供すると主張する二人。ルキノが肉熟成用の鞄を作り、アルシェイドが荷運び兼魔力提供。移動中以外はレオナが魔力提供で話がまとまる。


「じゃ、鞄作るために一頭狩ろう」


完全にルキノに操られているぞ。ルキノも自作の杖を使って実演するくらいにはやる気だ。

ただし、討伐には参加しない。にこにことルキノは二人を送り出す。


「お前さ、魔術学院に入ってから魔物なんか倒した?」

「倒す必要ないだろ? 僕より魔力多いヤツばっかりだし、がんばらなくても大丈夫だ」


オレはルキノに言ってないことがある。

入学してから毎日忙しくしていたルキノとは違い、オレは月に一、二回師匠に会いに行っていた。だからルキノの魔術学院での生活も話している。

魔人が出た実習のことも。


「手抜きか。悪い癖だ」

「前足落とせたなら、倒せたな」


やれるのに他人任せに引っ込んだルキノに師匠たちはご立腹。聞いた話だから、事実とは違うかもと主張してみたがダメだった。


夏期休暇、鍛えなおしだってさ。難易度に高いダンジョンに連れて行ってくれるんだってよ。

オレは楽しみだから止めない。来月、大変だな、ルキノ。


それにしても、アルシェイドもレオナもそのへんの魔獣をルキノが倒せないと感違いしているのがムカつく。でも、そう思わせているのはルキノ。だから、今はがまんする。




師匠に夏期休暇の予定を聞いたルキノが騒ぐ。


「はぁ? 海底ダンジョン? 危険度Sランクで、許可制じゃなかったですか?」

「ルキノが海洋生物の素材に興味のあるようだったからな。申請しておいた」

「申請費用はもう払った。行かないと金がムダになる」

「大丈夫。ルキノが使う魔石は集めておいた」


三人の師匠にたたみかけられ、ルキノは強制的に連れて行かれる。


孤島までは飛竜で空の旅。旅費はかかるが海底ダンジョンにはそれだけの価値がある。

ダンジョンの入り口には海洋神殿が建てられており、許可のない者の侵入を防いでいた。


誰でも受け入れる迷宮都市とは違い、実績がないと来られないせいか、海洋神殿のある町は小さい。それでも毎週何組かのダンジョン探索パーティや、ダンジョンからでる素材を求めて商人がやってくる。


町で売っている素材を見てルキノはテンションを上げ、海洋神殿に入ってテンションを下げた。神殿でダンジョンの地図を買い、まずは地図の精度を確かめる。

何日かダンジョンの上層階に潜り、ここのダンジョンの性質に慣れてから中層階を目指す。


夏期休暇は二ヶ月くらいある。最初の半月は実習で使ったから残り一月半。下層階に行けるかどうかといった日程だ。


来月の半ばまでが休みで、休み開けが学院祭準備で、学院祭と月末の演習が終わったら二年生になる。

どうでもいいな。ダンジョンの下層階に行くまでこっちにいたい。


魔術学院を卒業してほしいというのは父の希望。あったこともない人の希望なんて知らない。母も師匠も卒業してくれというから通っている。

ルキノがいなきゃいつ辞めてもいい。同じクラスにならなければとっくに通うのを辞めていただろう。


魔術でも体術でも、実技の授業は手加減ばかりで疲れる。

ダンジョンは手加減がいらないとこがいい。強さが正義で、生きることに集中してれば何にも考えなくてよかった。


授業料も寮費も父が出していることはルキノにはいってない。知らないでいて欲しい。

毎月増え続ける銀行の残高が気持ち悪い。

会いには来ないのに金だけ出すのはなぜ?

このところ、ヒマすぎて悩んでいた。でも、ここではそんなヒマはない。




ダンジョンに出たり入ったりを繰り返して、五日たつ。そろそろ中層階を目指す。


なんかとんがったものが飛んで来て、切りすてる。ルキノはしっかり避けて、壁を刺さったのを切った。

師匠たちはオレらの少し後ろにいる。


罠の回避、発見が上手いルキノは先頭を行く。敵を見つけるとオレと並び、強そうだったり、数が多いと後ろに下がる。ルキノが強い魔術を使うにはタメが必要だ。

魔術制御が上手いから、ピンポイントで狙ったとこに魔術が撃てる。だから移動は前、戦いは後ろというのがルキノの定位置だ。


ルキノが足を止める。追いついたオレを嫌そうに見て、師匠が来るのを待つ。

その間にルキノが、粉になるまで砕かれた魔石を風の魔術で拡散させる。前方の床や壁が発光した。


「このまま進むと罠いっぱい。ここの壁には隠し扉があるけど、感知できるだけで魔物が三七体はいる」


さあどっち?


問いかけてはいるが、隠し扉の方が危険なら今ごろルキノは罠の解除に勤しんでいる。だからオレも師匠も壁を指差す。


扉を開けるとルキノは後ろに下がる。

うじゃうじゃいる魔物に笑いながらオレは突入した。しぶしぶルキノも最後に入って来る。

ルキノの自作の小さい杖を投げて魔物に突き刺し、杖を爆発させた。硬くなさそうな魔物を選び数を減らす。

オレや師匠は近づいてきたのや、硬そうなのを討伐していく。数が半分くらいに減ったころ、ルキノが騒ぎ出した。


「なんか来る。ヤバそうなのが奥から来てる」


騒ぎながらルキノは魔方陣が刻まれた表皮紙をベルトの小袋から抜きとる。雷と水の混合魔術で敵を殲滅した。

雑魚が邪魔になるくらいの敵が出てくるらしい。ルキノは回復薬を飲んで魔力が戻るのを待つ。


「上層階の地図が正しいってウソだー」


ルキノ、地図にない隠し扉見つけたのはお前だ。

あてにならないのは、その時にわかったよな?


「これは上層の階層主か?」

「近年倒された報告がなかったな。目撃情報も聞いてないが」

「地図を信用しすぎて誰でも階層主にあってなかっただけだろ」


甲羅のついたトカゲ? 亀と蛇の合体か?

見上げるほど大きな敵にオレは斬りこむ。予想どおり甲羅は硬い。表面しかギズつけられなかったのが悔しい。苛だちまぎれにシッポを落としてやる。


「ルキノ、亀とトカゲどっちに賭ける?」

「亀」

「よし、わかってた」


フォート師から魔力の高まりを感じた。

敵の腹の下から床が隆起し、ひっくり返す。


「サム、頭落とせ」


言われるままに行動する。


亀って種類によってはひっくり返すと、自力でもとに戻れない。これがそうとは限らなかったけど、強敵に盛り上がった思いが行き場をなくした。

何年かしたら新しいのが階層主になるから、そのころにまた来ればいいか。


「回復薬飲む必要がなかった」


ルキノが落ちこむ。

状況判断ミスだと感じているようだ。


「四ヶ月も遊んでれば判断は鈍る。魔方陣の起動も遅くなっていたぞ」


そういやお前、魔術学院では回復薬も魔方陣も使ってなかったな。

師匠からのお叱りにルキノの反論しない。自覚はあるようで、顔色がよくない。

組手なら付き合うぞ。


今日は中層階行きを辞めて、戦利品を抱えて地上に戻ることになった。


神殿では新しい地図情報を買い取ってくれる。だが、師匠たちは隠匿を選んだ。


「今いる連中は地図頼りで探索している。自分で地図を作れない連中にはすぎた情報だ。死人しか出んぞ」


自力で見つけられるなら、そいつの好きにしたらいいらしい。これまでも階層主を倒した人たちは隠匿していたはず。後日、階層主を倒した先に進んで師匠を言葉を理解する。


地図通りに進んで中層階へ行って遭遇する敵より、階層主を倒した先から入った中層階の敵は格段に強い。今までと同じつもりで入られたら、確かに死体が量産される。


ルキノは歪んだ地図を見てるより、自分で作る方が楽しいようだ。隠し通路や隠し扉を見つけては笑う。だいぶ調子が戻ってきたようだ。

しかし、このペースでは夏期休暇中に下層階へ行くのはムリそう。中層階はどこまで踏破できるだろうか。


中層階踏破に情熱を注ぎ、オレらは夏期休暇終了日まだダンジョンにいた。

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