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夜の襲来者

夕飯は肉料理ばかりがならんだ。


「ルキノ大人しいな。新しい素材あるのに」

「ルキノは今帰りたい病」


サムイルがしたり顔で説明する。


僕は今ここにいるのがすごく嫌だ。帰りたいというより、ここから逃げだしたい。

ここにいる誰よりも僕は魔力が少なくて臆病なんだろう。


「大丈夫、大丈夫。何があっても助けてやるから」


軽い調子でつげ、アルシェイドは僕の頭をなぜる。小さい子をなだめるような扱いだが、ほんの少しだけ気が楽になった。


アルシェイドの魔力はかなり多いけど、荒々しくなくて危険なものに思えない。穏やかで温かく感じる。


サムイルは荒々しいけど、ずっと一緒にいて慣れただけ。僕に対して魔力使わないのもわかっている。身体能力の差で魔力を使うまでもないってのもあるんだろうけど、敵にはならない。


「荷物整理するよ」


じっとしているより気がまぎれる。いろいろ素材が手に入ったので、いつでも持ち出せるように鞄にしまっておきたい。


夕飯のかたづけが終わると見張りの順番を決める。寝てても結界維持のできるレオナは免除。一人テントで寝ることが決定している。


こっちは外で寝る用に準備をおこなう。

ガナンのおかげで刈られた草がいっぱいある。それを敷きつめて地面を平らにし、敷物を敷く。マントは断熱と保温の魔術処理をした、耐魔耐圧素材。前を合わせて横になればいつでも寝られる。


見張りは二人、交代は一人ずつ。

最初が僕とアルシェイド。次が僕とサムイルが交代で、その次がアルシェイドとガナンが交代。最後に僕とサムイルが交代して朝になる予定だ。

睡眠が二回に分かれるサムイルが順番としては一番辛い。僕なら順番交代をうったえる。

今回の班だと魔力で足を引っ張るのが僕で、体力で足を引っ張るのがレオナ。負担は余裕のある相手に任せたほうが班としての行動は円滑に進む。


やせ我慢してムリしたところで、あとで多大な迷惑をしてかけるだけ。そのあたりは経験済みだし、迷惑かけられる側のサムイルもそういう見極めは経験則でやっている。


「おやすみ」


数杯分のお茶を作り、僕はサムイルと交代して寝る。




唐突に目が覚めた。

身体が震える。


「ルキノ」


名を呼んだのはサムイルで、そばにはガナンもいた。


「ヤバイ」


サムイルはニヤッと笑った。

楽しそうにアルシェイドを起こし、ためらいなくテントに入ってレオナを起こす。


「なにごとですか?」


説明するより先に手の平サイズの杖を一つかみレオナに渡す。自作の杖でクズ魔石よりいいのを使っている。


「魔力こめて」


とまどいながらも魔力をこめてくれる。こめ終わったものを僕は地面にさして行く。


「起こされた理由が知りたい」

「敵がいる。ルキノ怯えと強さはさ、比例するから。強いぞ」

「これは……」


ガナンが頭に手をやりうめく。

僕は杭の内側に三重に杖を埋め込み、レオナのとこへ戻った。


「余裕がありそうなら全体に結界はって、なかったら自分の身を守ることを優先して」


黙ってレオナがうなずく。

僕はサムイルの隣に立つ。使い慣れた剣は抜かないまま魔力をこめる。


「ルキノ、いくつだ」

「四つ。どれも強い。一つ特に強い」


三つしかわからないとガナンがぼやく。


「ルキノを信じれば、レオナちゃん以外で、一人一体か?」

「危険なものの数だけはルキノははずしたことねーよ」


話している間にアルシェイドも感知できたようで顔色を変える。


「オレは規模のデカイ魔術使いたいから、離れる」

「アル、魔術の発動まで時間かせぎいる?」

「人がそばにいなければ、制御の手間がいらない。一人がいい」


僕がアルシェイドと話しているうちにサムイルとガナンは打合せしていた。


「ルキノとレオナは二人で一体足止めして」


僕とレオナは顔を見合わせうなずく。


「何これ」


レオナが震える手で口をおさえた。近寄って来ているモノの気配をとらえたらしい。

この状況を楽しんでいるサムイルが異常。だからこそ頼りにもなる。


来た。


襲いかかって来た四足の魔獣二体を風の魔術でガナンが吹っ飛ばす。後退したが、ほぼダメージはなさそうだ。

サムイルは成人男性より大きな虫系の魔物に相対する。前足がカマキリぽくって、物理的な射程距離が長い。僕の苦手なタイプを選んだようだ。


三体の魔物の奥にいる何か。

アルシェイドはあえてそれを選んで駆けていく。


ガナンは大きな魔獣を選び、小さい方を僕によこした。

皮袋にいれていたクズ魔石を左手でつかみ、魔獣の顔前に投げつける。土の魔術で先の尖った棒にクズ魔石を形成し、強化魔術を重ねがけする。

魔術を発動させながら僕は横に飛びのく。

傷をつけることには成功。勢いのついていた魔獣は強硬なレオナの結界にぶつかり、はね飛ばされる。

僕のちまちました魔術より、ぶつかったほうがダメージ大きそう。弱ってくれるのはいいが、なんか悲しい。


細々と魔獣を傷つけ、レオナの結界にぶつける。そんな作業を二回繰り返すと、レオナが魔術の使い方を変えた。

魔獣が飛びかかるのに合わせて、僕と魔獣の間に魔術防壁を張る。魔獣がバランスを崩して地面落ちた。僕は右手で剣を振り抜く。


飛びだした斬撃で前足が一本落ちる。胸部にも傷はついたが仕留めるにはいたらない。

魔獣は足の一本くらいじゃ戦意はなくならないようだ。


空が光る。

巨大な滝のように雷が落ちた。

ガナンの得意魔術は風ではないらしい。


サムイルは気配からして遊んでる。


火柱が上がる。

ガナンより威力ありそう。

アルシェイド、想定していたより強い。


僕は世界共通、救援要請の赤色照明弾を打ち上げる。

魔獣にクズ魔石を投げつけ、レオナの結界に逃げこむ。


「レオナ、あとの時間かせぎは任せた」

「ちょっと、男の子ならそこは任せろでしょ」


足一本減れば攻撃力は落ちている。レオナなら問題ない。すぐにガナンかアルシェイドが来られるだろうし、僕がムリする必要はもうなかった。


「えー、レオナくん。ガンバレ」

「サイテーよ、ルキノちゃん」


レオナ、けっこう余裕あるな。




最初に戻って来たガナンにより、魔獣は倒された。

一撃で仕留められる威力がうらやましい。


「どういう状況?」

「お姫様を盾にした村人Aに、お姫様が怒っている」

「かよわい乙女を騎士したてた男に悔んでいるだけよ」


ガナン少しだけ悩んで、にこっと笑う。


「二人ともケガなくてよかった」

「そうですね。蛮勇でケガされるよりはいいです」


レオナが仕方ないと肩の力を抜くと、アルシェイドが戻ってきた。


「森についた火消すのに時間かかった」

「消せたの?」

「消した。ちょっと緑のない空間できたが」


最後にサムイルが戻ってきた。


「ルキノ、羽を無傷で倒すの大変だったぞ」


しっかりと素材を背負い持ってきてくれている。僕はサムイルにかけよった。

軽いし、薄い。

僕は発光する玉を魔術で作り出し浮かべる。


「綺麗だ」


サムイルが自慢げに笑う。態度が褒めろと催促していた。


「さすがサムだよ。素材持ってきたのはお前だけだ」

「火と雷はダメだよな、全部消し炭になる」


羽が二種に足が一対。どっちも素材してはかなりいい。


「ガナン先輩。あいつらの発言どう思います? なるべく速く倒して、被害を少なくしようとしたのにさ」

「うーん? サムイル。救援要請ムシした理由は?」

「ルキノがオレを呼びたいなら赤じゃない照明弾を使う」


ちょっと特殊な照明弾で、サムイルと師匠に対してのみに通用する救援要請の合図だ。


「とどめさせないけど、時間かせぎはできる状況。それから先輩とアルが討伐してからの打ち上げ。帰って来いくらいの合図だろ?」

「サムとこより行かすよりこっちだろ? 」


そんなことより硬さの違う二対の羽。好奇心が刺激され、脳が活性化する。

笑声がこぼれるのをとめられない。


「ルキノ、お前は寝ろ。見張りは変わってやる」


サムイルはあっさり僕の背後をとると、絞め技で落としやがった。

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