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学外実習 準備

二度目の学外授業は選択だった。

野外でのすごし方なんて今更どうでもいい。安全なキャンプ場でお泊まり会なんて嫌だ。

そんなものより、素材採取できる学外実習がいいに決まっている。参加選択できる一年生が十人もいなくて、参加選択したのが七人しかいなくても、授業が行われれば単位と一緒に素材が手に入る。すばらしい授業だ。


四つある課題の中から一つを選び、目的地を決める。目的地までの行き方、課題達成方法、必要備品をレポートにまとめ、レポートが合格したら実際に行う。

今回は上級生のサポートがつく。上級生は後輩指導の授業での参加だ。


「ルキノ、どれやる?」

「青色岩トカゲの皮」

「名前に岩があると硬いぞ、お前力技で倒すの苦手だろ」

「罠仕掛ければどうにかなるよ。魔草採取のほうが向いているし、失敗がないのはわかっているんだけど、僕は海に行きたいんだよ」


サムイルが半眼になった。


「何だ? 文句あるならサムが別の選べよ」

「同じのにする。新しい素材を前にしたルキノから目をはなすなって師匠にいわれた」

「そんなもん真面目に聞かなくても大丈夫だよ」

「寮の部屋で頬がこけるまで素材見つめてたヤツの言葉は信用できない」

「そういうことなら、オレも青色岩トカゲにする。あれは本当に見てて心配だった」


サムイルとアルシェイドが二人でわかり合っているのが不満だ。なんか、ダメな子あつかいされている。


「あの、わたしもご一緒させてもらっていいですか?」


他の一年生参加者は他クラスだ。知らない顔より、知った顔がいいらしい。

レオナなら邪魔にならない。それどころか防御面でかなり便利だ。


「僕は採取さえできればいいよ」

「ルキノは課題以外の採取もして寄り道するぞ。いいか?」

「そうですね、前回も帰りは荷物たくさんでしたね。また食べさせてくれるなら問題ありませんわ」


四人で課題にとりくむことになった。僕ら以外の一年生は魔草の採取を選んだらしい。

僕はさっそくレポート作成にかかる。

同じ課題に取り組む人で一つの班なるが、レポートは各自提出になっている。全員のレポート提出が終わったら、実際にどのレポート案を使うか話し合いをする。

一番できのいいやつそのままでもいいし、いいとこ寄せ集めて新しい案を作ってもいい。


僕にとって重要なのは移動ルートとそこに生息している動植物。その特性と対処方法及び採取方法を重点的に調べる。海は行ったことないから楽しみだ。

川で魚を取ったことはあるが、海だととり方が違うのだろうか。こっちも調べておくべきだな。


海洋生物の素材。

楽しみすぎて笑ってしまう。


「レオナ、あれと一緒で大丈夫か?」

「楽しそうでかわいいですね。わたしもルキノくんが何を作って食べさせてくれるか楽しみです」


図書館で調べ、みんな初日にレポート提出した。次の授業はサポートの上級生と顔合わせになる。


「どうも、四年のガナン・バイアです。よろしく」


軽いあいさつをしてくれたのは風王だった。


「あだ名は演習以外で呼ぶなよ。恥ずかしいから、呼んだら君らも斬剣、堅守、運鼠って呼ぶよ」

「なんですか、それは。おそらくわたしが堅守ですよね?」

「斬剣がオレで、ルキノが運鼠か?」

「そっ、ちょこまか鼠みたいに逃げ回って運だけで一位を持っていったように思われているよ。観客は斬剣と風王の引き分けって認識だから」


僕に実力で一位になる強さはないので、運といわれるのは仕方のないことだ。


「まあ、君が運だけではないのは一部で理解されているよ。雷女帝はチームメイトキラーだからね。彼女の初撃でチームメイトの九割は退場。そのまま一日保健室コースが定番化。そのせいで彼女のチームメイトは生贄、人柱、人身御供なんてあだ名つくんだ」


先輩。そこ、笑うとこ?

僕、笑えない。


「観戦しているときは、あの新入生は不運すぎるって話題だった。撃破数上位陣コンプリートなんて、退場させてもらえないほうがトラウマになるって」


アルシェイドよけいな情報いらない。

開始そうそうに無キズで安全に退場したやつなんて嫌いだ。


「そんなことより、実習の話しよう。僕、実習前に一日魔術学院休む予定だし」


商業ギルドの素材販売会が僕をよんでいる。




レポートは僕のが基準になった。

地理も生息生物も一番調べていたし、準備物も必要最低限がおさえられている。ぎりぎりすぎて修正された部分もあるが、班としてのレポートはすぐにできた。

エミール先生に提出に行く。


「レポートは問題ありません。ガナンくん、問題児と一緒ですから大変ですが、お願いね」

「先生、かまわない範囲で問題点を教えてもらえますか?」

「そうね、まず四人とも集団行動が苦手だわ。ひとまとめにして一ヶ所にいても、それぞれ勝手なことをしているのよね」


それから、とエミール先生のダメ出しが続く。


「一年生の授業だと学ぶことがなくて、好き勝手やっている後輩たちですか」


ガナンのまとめにエミール先生が笑う。


「耳が痛いかしら? ガナンくん」

「彼らの指導役はお前が最適とおしつけられた理由はわかりました。何かあれば実力をもっておさえつけろともいわれてますから」


エミール先生がにこにこ笑う。


「実習はやり直しができるから命大事にね」


若いけどエミール先生がBクラスの担任なのがわかるな。胃薬愛用者のラムセイル先生と神経がは違う。




ばれた。

休みが技術学校ではなく商業ギルド行きだと。


「やたら浮かれているとは思ったんだよな」

「悪いな」

「いいよ。手のかかる弟でなれてるから」

「サム、アル、放せ」

「まあまあ、落ちついて。実習の買い出しということで、街にはみんなでいこう。それなら休みにならない」


素材販売会は魔術カード一枚で同行者を二名連れて行ける。サムイルとガナンは職能ギルドのカードが一般よりいいやつで、参加資格があるらしい。


魔術学院の馬車で職能ギルド大翼のある広場で降ろしてもらう。夕方になったら迎えに来てくれるそうだ。

実習の買い出しは午後からするので、素材販売会にいられるのは午前中だけになる。みんなそれなりの格好をしているわけだが、なんか僕一人貧相だ。

サムイルとはデザイン違うけど素材はほぼ一緒。この差は身長か、顔か。レオナも僕より微妙にだけど高いし、僕だけ幼さばかりが目立つ。


素材販売会で十代の集団は僕らだけだ。

親に連れられて来ている子どもいるけど、本人が参加者というのはめずらしいみたい。会場に入れるだけで、それなりの人物というあつかいになるし、ドラゴンスレイヤーとしてサムイルを知っている人もいた。


この中で魔術カードを持っているのは僕だけなんだけど、どうやら僕のほうが同行者に思われている。とりあえず、隣にサムイルがいれば、好きに見て触れるのでいいとしよう。

今日は見るのが目的で買うつもりもない。

実習で採取可能な素材の実物を見て、何を重点的に採取するか決める予定だ。


本当に買うつもりはないんだ。すっごく気になる素材があるだけで、買うつもりはないんだよ。


「坊ず、なんかほしいのあるのか? こっからここまでで、銀貨一枚でいいぞ」

「小銀貨三枚がいいとこです」


店主が示した一角をざっと計算すれば小銀貨二枚から三枚といったところ。ただし、謎な素材三つは計算に入れていない。

たぶん店主も何かわかってない。だからこそまとめてもののわからない子どもに売ろうとしている。


「小銀貨七枚でどうだ?」

「いりません」

「しかたない、小銀貨五枚だ」

「そこの三つを大銅貨五枚なら買ってもいいです」


真っ黒い皮と何かの毛と鉱石らしきものを大銅貨か七枚で購入した。どれもわずかだが魔力反応があるので、元はとれているはず。


「荷物はオレが持つ。ルキノに持たせていたら買い出し忘れて解析しそうだ」

「職能ギルドで預けよう。個人ロッカー契約しているから、そのくらいの荷物なら大丈夫だ」

「先輩、職能ギルドはダメです。解析されたら僕の楽しみがなくなる」

「預かってもらうだけだ。そんな心配はいらない」


ガナンも職能ギルドは大翼だそうだ。町に一つしかない商業ギルドと違って職能ギルドはいくつもあるが、高い能力を持つ人が所属している職能ギルドは限られている。

王都なので多国籍に支店のある大規模ギルドは複数あるが、この国に本部を持つ最大の職能ギルドが大翼だ。そのため魔術学院の在校生も卒業生もたくさん所属している。


麻ひもでまとめられた黒皮。麻袋に入った毛。小袋に入れられた鉱石。これらを大翼に預けて昼食に向かう。

店はガナンに任せた。ドレスコードはないが、がっつくような客はいない。ちょっと余裕のある庶民向けの店だった。


「こういう店は平気?」

「オレ、貴族でも亡国なんで、わりとなんでもヘーキですよ。野宿も授業が初めてでもないから」

「わたしは国費留学なだけで貴族ではありませんから。自国の食事と比べたらここはよすぎるくらいです」

「あらら、じゃ、クラス居心地悪いだろ?」


正直僕らAクラスで浮いている。

僕らを除くと一年生のAクラスは上級生貴族と士官学校卒業生しかいない。というか、士官学校の卒業生がクラスの六人もいるのが異常だ。

他の学年には士官学校の卒業生なんていない。いるのは士官学校在籍のまま、魔術の授業にいくつか参加している人だ。

軍での出世を狙って魔術学院卒業後に士官学校入学する人はいても、通常逆はない。そんな異常な状況を作っているのは一人の男子生徒だ。

侯爵子息ってことになっているけど、公爵令嬢が気を使っている。爵位の序列がなぜか逆転。士官学校卒業して騎士なっている新入生というには年齢高い人たちが常時そばにいる。


一般庶民なんで、知らないほうがいい。わかってはいるが、あからさますぎて推論できてしまう。貴族最高爵位の公爵の上は一つしかない。

絵姿くらいでしか知りようのない人がクラスにいるって、怖すぎる。不敬罪なんて発生させようもないほど騎士のみなさんがはりついているけど、本人だけが特別扱いされていることを知らない。


「答えられないのわかっていて聞かないで下さい」

「一応、ただの貴族って扱いですよ」

「学生違うからってひどい発言ですわ」


ガナンが失言をわびる。


「今月末に学年別の演習あるだろう? あれ、一回目のみ上級生がチームに一人つくんだよ。今回の実習みたいにね。上級生は攻撃には参加しないけど、ケガしないように防御参加はするんだ」


立ち回り方がわからないとケガする授業ではある。前回は参加した一年生のほうが少ないし、手を引いてくれる人はいるだろう。


「当たりそうなんだよね。問題の彼に」

「先輩防御得意なんですか?」

「防御と攻撃なら攻撃が得意だよ。ただね、雷女帝や水の女王や炎獣よりはできる。というか、あいつらが演習の危険度を上げているんだよね」

「レオナちゃんとルキノはケガなくてよかったな」


楽しそうなアルシェイドにイラッとする。


「炎獣さんは教えるのには向かないから参加してほしくないわ」


元チームメイトがバッサリいく。


「危険人物こそ参加させて、来月の演習備えてもらわないといけないから不参加はないよ。攻撃は最大の防御とか、攻撃こそ防御なんていいそうなメンツだけどね」


かわいた笑いをガナンが響かせていると料理がきた。食事はおいしくいただきたい、とレオナが主張し、話題を変えた。

サラダ二種とスパゲティとピザそれぞれ三種を各自でとり皿に乗せる。食事をしながら今日買う物を確認しあう。


食事が終わると買い物へ行く。こまごまとお店めぐりするのも面倒なので、大翼で一括購入する。

安い店を一店ずつ探すより、一括購入で割引してもらったほうがいい。労力的にもラクだし、露店と違って明細書もくれる。

学院に買い物費用の申請をするのもラクだ。


「いいんだけどね。自分でお金払ったことのない貴族さま用の課題だから君らがやる分には」

「オレらこういう買い出し慣れてるから」

「ルキノはこういうときはケチケチしないんだな」

「これの費用はすでに教材費として学院に払っているのにケチる意味がない」


残金は移動中に通る町で食事に使う予定。

毎食自炊なんて町があるのにやらない。そんなことしても手間と荷物が増えるだけ。ラクできるとこまでがんばらない。

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