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雷女帝 2

演習前半を僕は生き残った。

昼休憩をはさみ午後から後半戦がある。


先輩に食堂へ連れて来られたが、お金がないと主張したらおごりになった。先輩と同じものを食べさせてもらうことにする。


「もっとボリュームあるもの選んでいいわよ」

「食事マナーは難易度が高いです。同じものなら先輩のマネすればいいかと」

「そう、足りなかったら売店で買ってあげるわ」


食事なんて慣れれば簡単といわれても、コース料理を慣れるほど食べる機会がないのが庶民だ。

悪気はないんだろうけどね。


スープにサラダ。副菜に主菜。デザートとドリンク。

スープの種類にサラダのドレッシング。主菜のソースにドリンクと選ぶものが多い。どれ選んでも食べ方は一緒だといわれても、肉の産地からソース選べるほどグルメじゃない。


僕は食材の産地より料理方法が気になる。産地限定契約農家の食材なんてどうせ手にすることはない。

そんな触れられないものより、盛りつけ。これは庶民料理とは全然違う。絵のように色彩が豊かだ。

革細工と木工の単位がとれたら技術学校で学んでみたいとは思っている。金属加工もとりたいし、布も作りたいからもう少し先になるかもしれないけど、欲しい技能だ

料理は見た目大事だし毎日食べるものだから覚えたいが、素材加工技能より優先したいほどじゃないのが悩みどころだ。まだ、学生生活は始まったばかりだし、そのうち時間もできるだろう。


「悪くなかったわ」


食事マナーについて評価をもらい、午後の予定を聞く。

午後からは活動できる範囲が小さくなる。今回は建物内に規制がかかった。なので、広範囲に高出力の魔術を使える人が有利らしい。


「前半はお遊びだったから、後半の最初は建物から追い出された人を狩って撃破数を稼ぐわ」


点数稼ぎが終わると再び午前中のメンバーでやりあうらしい。

午前から点数稼ぎしないのは個別でいると集中的に狙われるからだそうだ。上位陣同士で遊んでいたら近よってくるチームが少ないとのこと。


「誰にでもすぐ倒されるような子だとケガではすまないのよ。そういう子は午前中の間に間引かれるから、わたくしたちが動くのは午後からにしているわ」


暗黙の了解があるようだ。


「チームメイトもね、いくら足かせでも最低限、死なないくらいの自衛ができないと困るの」


演習成績上位陣と組まされたのは一年生のAクラスかBクラス。CとDクラスでは自衛できないと判断されたらしい。


「もしかして、僕一人で逃げてたら見逃してもらえたのでしょうか?」

「たぶんね。もう見逃してもらえないでしょうけど」


遠距離攻撃が得意な上位陣が僕を的にしたいと話題になっているらしい。


「風王も避けるの上手いって褒めていたでしょう」

「後半の本気モードで僕、的にされるんですか?」

「大丈夫よ。攻撃力上げるより手数増やすほうに魔力を使ってくれるはずだわ」


推測だし、大丈夫な要素がどこにもない。


レオナのおかげで生存者賞とれるかもしれないとよくばったのがいけないのだろうか。けど、本気モードがどの程かにもよるが、逃げるだけならやれそう気もする。


そろそろ中間発表の張り出しがあるといわれ、先輩と一緒に中庭へ移動した。人だかりのなか名前を探す。

三位に名前があった。四位にレオナ、十二位にサムイルの名前がある。サムイルのチームメイトはすでにリタイアしているようで名前のしたに生存時間が書きこまれていた。

周囲の人たちの言葉で一位が風王、二位が水の女王だと知る。なんか、悪魔な風王とか聞こえたけど、きっと気のせいだ。聞き間違えのはず。


「雷女帝、お前どこにする?」

「グランドがいいわ」

「遮蔽物ないとチームメイトがかわいそうだよ」


どうやら談合で、午後の開始場所を決めるようだ。


「あなたが遊びたいだけでしょう」

「女王さまもだよ」


にっこりと優しそうな風貌の先輩が僕に向かって笑む。

鳥肌たった。


「リタイアしたらダメだよ?」

「リタイアはさせられるものでは?」


自発的にしようかと今、思ったけど。


「リタイアしたら次の合同演習で朝から追いかけるよ」

「……がんばります」


回避方法が思い浮かばなかった。


談合が終わると場所を移動する。上位陣は真面目に撃破数稼ぎをするそうだ。自分たちがやりあうときに人がいると大魔術が使えないので、邪魔。って、理由だけど、安全面を考えた結果、やっていることでもある。


「先輩、風王に勝てますよね?」

「真正面から戦ってくれるなら負けないわ。性格悪いのよ、あの男」


演習後半の開始は穏やかだった。

雷女帝の独壇場で、僕はただそこにいるだけ。

そして、徐々に人が減りる。逃げまどう人たちはグランドへと誘導され、それを追う人もグランドへ集まってきていた。


「先輩、僕別行動します。グランドは怖い」


風王さんが陣取っている場所はムリ。


「そう。逃げるなら救護所のそばがいいわ。何かあってもすぐに治療してもらえるから」


なにかあってほしくないですが、助言には従う。


移動していると、土帝とレオナが一騎討ちになっていた。攻撃が苦手だから防戦一方だが、負けてはいない。

僕はその様子を遠目に見ながら薬包紙を取り出す。買うと睡眠薬は高いが、素材集めて自作すればお金はかからない。一回の調合で量が作れるのもいい。

微量の魔力で微風を生み、粉状の睡眠薬を運ぶ。

レオナの結界を崩すのに必死になっているせいか、土帝は注意力散漫のようだ。異変に気づいたときはたっぷりと睡眠薬を吸いこんだあと。うつ伏せに倒れたが、メダルが隠れてなかったので風の魔術で半分に切った。

結界の中できょろきょろしていたレオナに手をふる。


「助かったわ」

「僕はこれから助けてもらうつもりなんだけど」


あっさりとレオナが結界の中へ入れてくれる。

生徒の残り人数が減ってきているせいか、すぐに巡回の先生が来た。倒れている土帝と壊れたメダルを回収していく。


リタイアした元気な人は体育館に集められる。午後からは演習外エリアから観戦する人もいるが、治療のいる人や気絶者は体育館で寝かされる。

救護所は緊急措置やリタイアした人の避難所で、受け入れられる人数が少ない。長時間受け入れる場所にはなってないし、重症者は保健室に搬送される。

現在地は体育館も救護所も視界に入る。ど真ん中は雷女帝、風王、水の女王の三つ巴戦。巡回の生徒も遠巻きに推移を見守っており、ケガによるリタイアならすぐ助けてくれるだろう。

場所としては悪くない。


「そういやチームメイトは?」

「中庭でサムイルくと戦い始めたところで別れたわ」


見えないけど、校舎の向こう側で激しい魔力反応がある。片方はサムイルのもので、楽しそうだ。うきうきで遊んでいるのだろう。


「ルキノくんは、雷女帝さんとチームなのよね?」

「うん。けど、負けるね」


魔術具によるアドバンテージは大きいが、朝から魔術を使い続けている。魔杖の魔力も減ってきており、魔石に朝ほどの輝きがない。

それに、雷女帝は正攻法には強そうだけど、駆け引きには弱そうだ。なにより風王が強い。

魔術を操る精度が三人の中で圧倒的によかった。それは同じ効果を得るために必要な魔力の消費量が一番少ないということであり、朝から魔力を使い続けた今、温存魔力が誰よりも多い。

雷女帝と水の女王が共闘しても風王に勝てるかどうか微妙な状態になっている。もう結果は時間の問題で、この時間こそが僕には重要だった。

なるべく時間がかかってほしい。できれば、終了時間までかかってくれたらベストだ。


風王と目があう。

ニッ、っと笑った。


攻撃速度が数段上がり、雷女帝と水の女王のメダルだけを真っ二つにした。


「レオナ、結界の強度上げて」


結界の強度が上がった直後、第一陣が直撃する。


「うそっ、風魔術なのに重すぎ」

「どのくらいもつ?」

「今のと同じ攻撃なら大丈夫だけど、どう思う?」

「逃げたいね。逃げる場所があればだけど」


にこにこと笑いながら歩みよってくる風王。五歩ごとに攻撃を仕掛けてくる。レオナは攻撃の度に結界の強度を上げた。


「次は保たない」


結界が破壊されるとレオナは座りこむ。僕は飛び逃げた。


「新入生、こういう状況では女の子のメダルを壊して逃げないとダメだよ。メダルがあるかぎり攻撃されるからね」


風王はレオナのメダルだけを破壊する。

この人の魔術制御なら問題はないが、たいていの人ならメダルを壊すついでに人体も傷つけてしまう危険性が高い。


「では、やろうか」


風の刃が十枚、僕に向かってくる。攻撃力はだいぶ落としてくれていた。

腰の剣を抜き、風の刃を二枚を切ってその隙間に飛び込む。飛び込んだ先で同じ攻撃を受けた。僕はまた、風の刃を二枚切ってその隙間に飛び込む。

同じ作業を三回すると、攻撃が止む。


「魔術を知覚できるのか、ならこれはどうかな?」


風の刃が十五枚になった。三枚切って、飛び込む。飛び込んだ先に刃が一枚襲ってきて、魔術防壁で防ぐ。

避ける度に風の刃が増える。


優しくない。


こっちは風の刃が三十枚を超えた辺りから余裕がない。向こうは常に余裕だ。

数十枚に分散している魔力を三枚に濃縮しただけでこっちは詰むのに、遊んで終わらせるつもりがない。身体強化して、風の刃切って、魔術防壁使って、精神か魔力と体力が削られていた。


「君さ、まだ隠しているよね? 手の内見せてよ」


おもちゃを見つけた子どもだ。


「見せてくれたら楽にしてあげるよ。無傷で」


魔石、使うしかないかな。

身体ダルいし、集中力もとぎれがちだ。

休みたい。上空に向けて閃光を放つ。


「目潰しかい? 意味があるとは思えないが」

「意味があるのはあなたに対してじゃないですよ」


校舎の向こう側で一つの決着がついた。そして、僕にとって誰よりも馴染み深い気配がやってくる。

斬撃を飛ばし、それを追いかけるように切りかかった。


「学院で一番強いのはそいつだ」

「オレより」

「うん」

「マジ?」

「マジ」


獰猛な気配をまき散らし、サムイルがやる気を見せる。

風王はサムイルの攻撃をひらひらかわす。


「僕の奥の手です」

「ずるいな」


これで少し休める。


「サム、火と水」


剣だけで勝てる相手じゃない。

サムイルは次々に魔術を展開させ、水蒸気爆発を起こさせた。サムイルなら風王相手でも戦える。僕ではマネしたくても魔力が足りない。

一生かけて努力したって増える魔力量には限りがある。僕が魔力量でサムイルにならぶ日はこない。

憧れと羨ましさでいつも見ていた。いつだって圧倒され、僕はサムイルと並びたてない。


呼吸は落ちついてきた。

サムイルのことはわかっている。風王についてもだいぶ理解できた。攻撃の手数で負けている分、今はサムイルが不利になっている。

でも、風王は勝ち急がない。この人はケガさせないように魔術を使っていた。そして、圧勝できるのに辛勝だったかのように見せかけてもいる。

雷女帝も水の女王も演習の成績では勝てても、戦闘では勝てない。なのに、勝てるかのように錯覚させられている。


本当、性格悪いな。


では、やろうか。

右手で剣を横に構え、刃先に左手を添える。魔力感知を頭痛がする最大値まであげ、剣に魔力をこめていく。

こっち見て風王が笑った。気づいても余裕があるから邪魔しない。何をしてくれるか楽しみにしていそうだ。


魔力充填完了。


あとはタイミングだけ。

常に僕と風王の間に立ち続けたサムイルが横にずれる。僕は同一軌道で風の刃を三連放つ。その攻撃の間サムイルに攻撃のタメができる。濃密な炎がサムイルの剣に宿った。

風王が風の防壁を展開する。サムイルはそれを切り裂く。

僕はそれに合わせて極小の氷の魔術を使う。

サムイルの剣は風王に届かない。僕の魔術は風王のメダルに当たる。砕けて溶けてしまう程度だけど、メダルは僕の魔力で染まった。


戦闘続行中の二人に僕は自分のメダルを振りながら声をかける。


「終わりでしょう?」


二人はそれぞれ自分のメダルを手に取り見つめた。


「ルキノ、なんでオレまで色かわってんだ?」

「感知に引っかからないように魔力を最小にしたら強度が足りなかった。先輩のメダルに当たって砕けた破片が当たったんじゃないかな?」


ウソだけど。

疲れたときに高魔力で魔術使われると負担なんだよ。

君らにはわからないだろうけど。


「どんだけ微小な魔術だ」

「蝋燭に火がつくかどうかくらい」


微量の魔力を魔力たっぷりな人たちは感知できないことが多い。その程度の魔力に彼らは危険を感じることがないため、感知する必要もないのだろう。

サムイルがどかどか魔力使っていたので、より感知しにくくなっていたはず。


「このメダル、壊れやすく作られているのに、染めるだけなんてできるのか」


風王に関心され、サムイルにすねられる。


「ムダ器用」

「はいはい、どうせ僕は魔力富豪になんてつきあえませんよ」

「貧乏性」

「うっさい」


金も魔力も余裕ねーよ。


「だいたいオレがこいつより弱いってなんだ!」

「それは単なる事実。勝つには演習のルールに頼るしかないね」


僕らが戦い方や魔術の使い方を覚えたのはダンジョンでだ。こんな開けた場所じゃない。


「場所が変われば、戦い方も魔術の使い方もかわる。それにサムの魔術は大ざっぱなんだよ」

「お前は細かすぎだ」

「サムの魔術じゃ、魔力の多い魔術制御に長けた相手には通用しない」

「救援によんどいて、それかっ」

「盾にはなった」


サムイルとケンカしていると、演習は終了時間をむかえた。




雷女帝、いい人だな。

演習終了後、僕は疲れて保健室で寝た。成績発表なんかまるムシで閉会式は不参加。チーム成績一位だったらしいけど、賞状なんていらない。

風王には撃破数で負けていたけど、生存時間で僕が優っていたのが勝因らしい。時間で優っていても雷女帝じゃないと撃破数足りなかったんだけど、貧しき者にチーム賞品はすべてくれた。

魔物素材にまったく興味なかったみたいだし、雷女帝が使うには魔石の質が悪いし、食堂すら利用できない子への哀れみで食堂で使える金券をくれたらしい。

僕は理由なんてどうだってよかった。素材と魔石が手に入るならなんだっていい。

銀色一角魚の成体。どんな素材だろう。ものの本によれば鎧兜を被ったような美しい魚とあった。見たことのない素材、我慢しようとしても笑ってしまう。

明日の素材受けとりが楽しみでしょうがなかった。

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