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雷女帝 1

チームメイトの発表は演習の前日だった。

チーム内最高学年の人が各クラスをまわり、名簿にあるチームメイトを集める。今回参加の一年生はみんな教室で先輩からのお迎えを待つ。


チーム人数が多いとこは個人能力の高い人がいなくて、人数が少ないとこは個人能力の高い人がいるチーム。人数が少ないと、一年生の教室へ来るのもはやい。


「レオナ・ミルフィーユさんいますか?」


レオナが立ち上がると、一人でやって来た少年は教室からチームメイトを連れ出して行く。

立ち去ると教室内がざわついた。


「今の炎獣ウォルだろ」


どうやら有名人らしい。サムイルに視線をむけが首を横にふられた。

これがBクラスなら腹黒のが説明してくれるのだが、聞けそうな相手がここにはいない。


「ルキノ・マイハース。立ちなさい」


二番目にやって来た女子生徒は気が強そう。

僕はすぐに立ち上がった。逆らったらいけない感じがひしひしとする。


「来なさい」


教室の前方へ移動していると、誰が「雷女帝」とつぶやいた。これはもう、心優しいお姉さまなんて期待はできないな。


無言で先を行く女子生徒について行く。

つやつやの手入れが行き届いた髪の毛。明らかに高そうなドレス。複数の装飾品から感じる魔術反応は魔術具のもので、総額を軽く算出して怖なくなる。

一世帯暮らせる家が建つレベルだ。魔術学院の卒業までの授業料くらいありそう。

ドラゴンの革素材だと、何分の一に相当するか計算していると足が止まった。


訓練棟。

まだ使ったことはないが、使い方の説明は受けている。

魔術学院とはいえ、学院内で魔術が無規制に使えるわけではない。特に攻撃魔術は規制が多くある。

基本、授業中に先生の監視下でしか使ってはいけない攻撃魔術。その魔術を唯一自主練習できる場所が訓練棟だ。


先輩は受付で鍵をもらい、迷いなく進む。キーホルダーと同じ番号の部屋へ行き、鍵を開ける。

中へ入り、命じられるままドアを閉めた。


「防御魔術は使えますね?」


できると決めつけられた。逆らう気はないので、黙って魔術を展開させる。


「あら、無詠唱ね。展開までの速さも悪くないわ」


先輩の右手に魔力が収束し、電光を帯びた。軽い衝撃と同時に僕の魔術防壁は消失する。


「強度はいまいちね」


それは自覚してます。だから多重防壁を覚えた。授業で魔石使いたくないからやらないつもりだったけど、こう簡単に消されてしまうと使わないといけないかもしれない。

魔石ケチって治療費かかるなんて嫌すぎる。

魔石なしでもやれる二重防壁くらいでどうにかならないだろうか。三重にすると精度が落ちるし、魔石がないと安定しない。


「では、明日の作戦を伝えます。あなたは開始の合図と同時に防壁を作りなさい。防壁が展開できたら速やかに退場です」

「僕は僕自身の安全を優先して防壁を作り、先輩の邪魔にならないように退場ということでよろしいですか?」


住んでいる世界が違う人だから、認識の確認をしておかないと怖い。


「そうよ。演習で成績上位常連者にとってチームメイトは足かせです。足手まといと組ませることによって、他のチームと同程度にさせられるのよ」

「先生が開始直後にギブアップしていいとおっしゃられていた理由がわかりました」


盾になって退場しろではなく、自分の身を守って退場しろなら悪くない。


「他に質問はあるかしら?」


近よりやすくはないが、質問していいならいろいろ教えてもらうことにする。

炎獣や雷女帝は成績上位陣につけられたあだ名で、得意属性に帝、王、獣といったものがくっつく。あだ名つきが卒業すると、後輩に同じ名がつけられる。よほど特殊なあだ名でなければ同じように呼ばれていた卒業生がごろごろいるらしい。


あとは演習の細かいルールや禁止事項を教えてもらい、明日の集合場所を決めて解散。

僕が防壁が作れないようなら特訓させるつもりで訓練室を借りてくれていたそうで、悪い人ではないようだ。

チームによっては今日一日連携訓練をするらしいし、拘束時間が短いのも好評価。あとは先輩が上位成績をとったときにチーム賞品をわけてくれるかどうかだ。

貴族には下げ渡しの習慣があるし、先輩的に安物はいらないだろうから貰える可能性があると信じたい。


午後から技術学校へ行くまで時間ができたので、ためこんでいた素材を調合することにした。





全学年参加の合同演習。

一年生の参加枠はなんと四十人だけ。しかもDクラス以上限定で、先生の許可がないと参加できなかったらしい。


「参加したい人いるなら今からでもかわりますが?」

「先生はルキノのやる気のなさに期待している」

「ラムセイル先生?」

「功にかられて無謀なことをしないのがお前のいいところだ」


そんな話を開会式前にして、先輩に合流。やる気の雷女帝サマは大きな魔石がいくつもついた魔杖を手にしていた。

値段の想像しにくいけど、一般庶民の生涯収入なみかな? 迷宮都市だと、中層階じゃなくて、低層階に余裕で行ける人並の装備だ。

魔術武具の持ち込み使用可って、経済格差がもろに戦力差になっている。クラス編成に家柄見られるはずだ。能力の差を容易に逆転させられる。

昨日の魔術見たかぎり先輩は有能そうだったし、魔力も多そう。それにプラスしてあの魔杖は卑怯だ。

今後の演習で遭遇することがあれば、絶対逃げよう。


開会式で演習のルールを聞く。たぶん、真面目に聞いたのは初めて参加の一年生だけ。参加者であることを示すメダルを受け取り、首から下げる。

このメダルを取られたり壊されたりすると失格となり、退場となる。メダルは必ず首から下げ見えるようにしておかなくてはならない。メダルのない人に対しては攻撃魔術を使ってはいけないし、メダルのない人が攻撃魔術を使ってもいけない。

学院内に数カ所救護所があり、治療魔術を使える先生が巡回している。メダルのない人は治療してくれるが、メダルを下げたままだと治療してくれない。基本的には本人の意思を優先してくれるが、危険と判断された場合はメダルを取り上げて治療となる。

僕としては、開始、防壁展開。巡回の先生か救護所にいる先生にメダルを渡して安全に退場する。先生にメダルを渡さないと撃破数に数えられるので、直接攻撃にさらされない限りは努力しよう。


開会式が終わると数分間の移動時間がある。僕は何も考えないで先輩の後をついて行く。開始時はチームメイトはかたまっていないといけない決まりがある。

先輩が動くとあからさまに逃げるチームと遠巻き様子見するチームがいた。あと、雷女帝サマと目で会話している個人がいる。あの人たちはきっとあだ名持ちだろう。

時計の見える広場を先輩は選んだようだ。


「建物の中に逃げるのはやめておきなさい。罠好きの巣窟だから」

「わかりました」


建物内では保険室が救護所になっている。ここから近いし狙っていたが、外から入るとしよう。


「そろそろよ。いつでも魔術防壁使えるように準備しなさい」


みなさん何かしら準備している。発動させなきゃいくら準備してもいいぽい。

そして、開始の合図が空に打ち上げられた。

破裂音とともにいたるところで魔術が展開される。

一番危険な魔術は僕の横の人。だが、そこしかない。僕は先輩の背中に触れるほどの位置に逃る。


閃光と爆発と轟音が辺りを支配した。


演習なめていたかも。

開始直後に集合攻撃を受ける雷女帝。そばにいる僕は巻き添えで逃げ場がない。

雷女帝、相手の攻撃ごと撃破。無差別だったので、直前まで僕がいたとこにも雷落ちた。


「どうしてよってくるのよ。直ぐに逃げなかったあなたが悪いんだから、どうなっても知らないわよ」


いや、逃げ場なんてなかったから。

立体的に展開される結界と違って一面しかない魔術防壁じゃ防げないし、昨日僕は結界なんて使ってない。

判断基準おかしいよ。思いのたけを口にする余裕も度胸もないけど……


人間大の火の玉が襲い、地面が幾重にも隆起や陥没を起こす。全方位から見えない風の刃が襲い、雷が雨のように降る。


僕は学院上位の魔術師の争いに巻き込まれていた。


「なんか見かけない子がいるぞ」

「もしかして、一年生か? 君、避けるねの上手いね」

「ごめんなさいね。逃がしてあげたいけど、そんなスキ与えたらこっちが雷女帝に負けちゃうから」


返事なんてする余裕ない。魔術反応を読み続けその場をしのぐことに神経を使う。

安全なのは先輩の背後。ただ先輩はじっとしていない。移動の度に身体強化しないといけないし、先輩の魔術から身を守る必要もある。

短時間で疲労がたまり、魔石を使ってでも逃ることを検討したとこへ乱入者がきた。斬撃が乱舞する。

均衡が崩れたスキ僕はに逃げた。

この状況に楽しそうに乱入したのが僕の幼なじみっていうのが頭痛い。でも、サムイルの斬撃は昔から慣れているし、ギリギリで避けて逃げだせた。


「新入生、調子にのんなよ」

「魔法剣士か。やるね」

「あー、雷女帝とこの一年生が逃げた。いじめがいありそうだったのに」


えっ⁈


「これだらか女王様は」

「すいませんね。あれ、オレのなんであげませんよ」


サムイルも何を言っているのかな。

僕、何かヤバくない?


会話の行方が気になって逃げるのは中断する。近場にレオナを発見し、結界の中へ入れてもらう。


「強度高そうだね」

「守るのは得意だから」


レオナのチームメイトは火の玉を放っている人で、混戦の真っただ中にいる。

僕らの周囲ではバタバタ人が倒れていた。

安定した結界をレオナが維持してくれているので、その外側に睡眠薬を散布する。上位陣のスキを狙っていた人や、上位陣と組まされたあわれな生贄で撃破数稼ぎにきた人が、けっこういたみたい。

動いている気配がなくなってから風の魔術で睡眠薬を除去。結界を出てメダルに回収に行く。

メダルを集めていると巡回の先生を見つけたのでメダルを渡した。撃破数は僕とレオナで半分に分けてもらう。

メダルに魔術で攻撃すると魔術の痕跡で誰の攻撃が特定できるが、それ以外は回収して申告する必要がある。僕一人の点数にするなら申告はいらはいけど、点数よりレオナの結界がこの場では大事だ。


上位陣の争いは先生たちにも危険地帯として認識されている。乱戦の中心地には近寄らないが、周辺には先生が常にいた。おかげで巡回の先生とよく会う。

いつでもリタイアできる状態になったが、レオナのおかげでリタイアする必要がなくなっていた。

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